松田貴郎の自分史 連載⑤「Darkness in the heart」

親父が亡くなりました。最後はリンパ癌でした。
晩年はレビー小体型認知症を患い、さらにはステージ4の上下咽頭癌、転移した甲状腺とリンパ腺の摘出という大手術を受けて気管切開になりました。
最初はその状態でも面会に来ていましたが、痰が粘ってしまうこともあるので、デイサービスに預かってもらって母と兄が面会に来るようになりました。
食道と気管の分離手術に不備があったのか、飲んだものがじわっと気管に流れてしまう状態になり、胃ろうになりました。
食い道楽の親父はきっと悲しかったと思います。
その後、癌は再発しました。あれだけ体が強く元気だった親父も病には勝てませんでした。

ただ、僕の中では矛盾があります。
親父は昔から酒癖が悪く、僕が中学生の頃から何もない休日には朝からちびちびと焼酎を引っかけて、夕方にはすっかりできあがって畳の上でひっくり返っているのが日常でした。
そうならないように昼に出かける口実をわざわざ作ってまで出かけていました。
おそらく親父はアルコール依存症のような状態だったんだと思います。
普段は優しく明るい親父と飲んだくれて粗暴な振る舞いを見せる親父、僕の中では愛情と憎しみが半々なんです。
心の中には親父の死を「なんとも思わない」どころか「早く死んでくれてよかった」とすら思っている冷徹な自分がいるのです。
母親が少ない年金ながらものびのびと生きてるのを見るとなおさらそう思います。
その反面、「親父は親父らしく生きられたんだろうか?」「本人(子供の頃に片目失明)、妻(ポリオ後遺症の片足首麻痺)、子供まで障害があるのがストレスだったのかな」とも思います。
その矛盾は今もくすぶり続けています。それが僕の中にある闇なのです。

一方、その頃は「戦わなければ患者の生活を守れない」と思っていた時期です。今思えば「やり過ぎたなぁ」「言い過ぎたなぁ」と思うこともたくさんあります。

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