【サマポケ二次創作】次の夏休みにもまた

4月20日に行われたKey系同人イベント「Key Island」で発行された、ゆきゆき様主催のサマポケアンソロジー企画『Sea, Our Memory』に掲載させてもらったサマポケSSです。

-次の夏休みにもまた-

「まもなく鳥白町漁港に到着します」
フェリーのアナウンスが聞こえた。
このアナウンスを聞くのも、もう何度目かのことになる。
夜は大分涼しくなってきているものの、まだ日の登っている内は少し暑かった。海風が気持ち良い。
あの夏休み以来、俺は週末になると決まって鳥白島を訪れている。
平日はバイトをして交通費やらをコツコツ稼ぐ生活は、夏休み前に比べたら忙しくなった。だけどその目的があることもあってか、その毎日は充実している。
「あんた、また来てたのかい」
 後ろからおばーちゃんに話しかけられた。あのへじゃぷのおばーちゃんだ。
「こんにちは」
「あんたも好きだねぇ」
「……そうですね」
確かに、俺はこの島が好きなんだろうな。
「そういや、傷ついた翼は癒えたのかい?」
うっ……、今でもやっぱり恥ずかしかった。まだ呼ばれてるのかな。ルシファー。
「えぇ……まぁ……お陰様ですっかり」
「そんなら良かった」
おばーちゃんの優しさが心にしみる。
「ま、ゆっくりしてき」
おばーちゃんはひょこひょことフェリーの中に戻っていった。
もうすぐ、鳥白島に着く。

夏休みが終わって地元に帰って、まず俺は部活のみんなに謝った。そして、正式に退部したいと、そう申し出た。
 驚いたのは、みんなから部に戻ってくるように勧められたことだ。
 とてもうれしかった、だけど俺はそれを断った。
 もっとやりたいことをみつけたから……と。
 俺はずっと紬の近くにいてやりたかった。あの、紬と静久と夏休みを過ごした灯台に、いたかった。だから。

 フェリーを降りて、灯台までの道を歩く。やっぱり少し熱かったけど、蝉の大合唱はもう聞こえなくなっていた。
灯台に着く。そこにはもう先客がいた。
「あら、パイリ君」
「よう。もう来てたんだな」
静久もあの夏休み以来、週末にはよく灯台に来ている。だから週末は灯台で静久と色々と話すことが多い。他には、丁度灯台の前を通った良平や天善とバカをやったりもする。
「夜は涼しいけど、まだやっぱ熱いな」
「そうね。でも、ここは風が吹いてるから、気持ちいいわ」
「確かに」
 そんな風に話してから、少しだけ辺りにゴミが流れついていたから、今日は二人でゴミ拾いをすることにした。ゴミを入れる袋を用意して、早速ゴミ拾いに取り掛かる。

ゴミ拾いをしていると、いろんなものが出てきた。
空き缶や長靴の他にも、メッセージボトルなんて小洒落たものも拾った。後で静久と一緒に見てみよう。
 ゴミ拾いを続ける。すると……
「……これは……」
 水に濡れてシールのはがれたミニ四駆、糸の無いヨーヨー。
「良一のやつだ……」
 秘密基地で使ったらどこかに行ってしまった、思い出一号と二号。今度良一に渡しておいてやろう。思い出を失くすと、悲しいもんな。
 次に、ワカメを見つけた。丸々一本流れ着いていた。
「天善が頭にかぶってたな……」
 でもさすがに真似をする気にはならなかった。だからワカメは海に返しておいた。
 そして極めつけは……
「……これ……」
次に見つけたのはエロ本だった。巨乳ものだ。
俺はそのエロ本をそっと水に濡れないところに隠しておく。こういう隠されしエロ本を偶然見つけて、男の子は成長するんだ。
……多分。
「立派な大人になるんだぞ」
 まだ見ぬ男の子に向けて、そんなエールを送った。
「……あ」
 そんな中で、パリングルスの空き容器を見つけた。
 俺はそれを、ゴミとは別の、面白い漂着物があった時用の袋に入れた。ミニ四駆やメッセージボトルと一緒に、容器の底の部分が、太陽の光を反射させて光った。

 しばらくゴミ拾いをした後、俺と静久は合流して、ゴミの分別をする。基本は燃えるゴミと燃えないゴミで、不思議だったり、面白かったりする漂着物は別によけておいた。
「あら、メッセージボトル?」
「そうみたい。読んでみる?」
「ええ。そうしましょう。読むための手紙ですもの」
 俺はメッセージボトルの栓を開け、中の手紙を取り出した。
「どれどれ……」
 手紙を読み始める。
『複数人のチンピラに囲まれてしまった時の必殺技ってありますか?あったら教えてください』
「…………」
「…………」
 返答に窮した。
「これ、住所とか、何も書いてないな」
「困ったわね。これじゃぁお返事もできないわ」
 捨てるのも申し訳ないからと、このメッセージボトルはひとまず静久が持って帰ることになった。
静久の拾ったものの中には、未開封の缶コーヒーがあった。だけどあの時のコーヒーとは違った。
「今度どんなメーカーさんのコーヒーなのか調べてみるわ」
「ああ。よろしく」
 そして、良一の思い出一号と二号を見せた。こうなった経緯を静久に話すと、少し驚いていた。
「ミニ四駆ってそんなに走るのね」
「いや、普通はこうじゃないんだけど、天善が改造するとこうなるみたいなんだ」
「まぁ、すごいわね。天善君」
 そうしていると、静久の方には犬のぬいぐるみが、俺の方にはパリングルスの空き容器が残った。
 この二つを見て思い出すのは、やっぱり紬のことだ。
「紬に、会いたいわね……」
「俺も……」
 紬に会いたい。
 俺と静久の、心からの願いだった。
 でも……、
「きっと夏に、ね」
「ああ。そうだな」
 きっと紬は、次の夏に戻ってくる。
 だから、それまでは。
 最終的に、パリングルスの容器はちゃんと分解して分別をした。ぬいぐるみにはベッキーという名前をつけて、灯台に置いておくことにした。

 ゴミを分別し、ちゃんとしたところに捨てて、灯台に戻ってくる頃には、もう日が傾いていた。
「もう日が沈んでる。早いな」
「『秋の日はつるべ落とし』って言うものね」
そして今日は帰ることになった。
「またね。紬」
「またな。紬」
そして、フェリーで本土についた後、俺と静久も別れた。
「またね。パイリ君」
「ああ。またな」
そんな風にして、俺の週末の一日が終わる。

それからも、この生活は続いた。学校が冬休みに入ると、京子さんのところにお世話になって、鳥白島で冬休みを過ごした。
バレンタインの日には雪が降って、静久、良一、天善、蒼、のみき、しろはと、みんなで雪合戦をした。
静久からバレンタインチョコももらった。良一と天善ももらえたみたいで、天善に限ってはそれからしばらくの間はかなりの上機嫌だった。
春が来て、お花見なんかもした。暑くなくても、暖かくなったら良一は裸を解放するみたいで、早速のみきの水鉄砲の餌食となっていた。

そして季節は巡る。
七月になって、蝉の声がうるさくなってきた。学校は夏休みを目前にして、どこか浮き足立った雰囲気だ。
学校からの帰り道、ふっと空を見上げるとそこには真っ青な空に、立派な入道雲がもこもこと出来上がっている。
「〜〜〜♪」
自然と鼻歌が漏れてしまう。
夏休みが、待ち遠しかった。

夏休みになった。俺は今回も京子さんのところにお世話になって、鳥白島で夏休みを過ごすことになっている。
一年前は現実から逃げてここに来た。
だけど、今年はそうじゃない。
夏休みを過ごすために、ここへ来たんだ。
「パイリ君」
「よう」
一足早く島に来ていた静久と、港で合流する。そして、
「む~むぎゅぎゅぎゅぎゅ~♪」
「む~むぎゅぎゅぎゅぎゅ~♪」
「「むぎゅぎゅむぎゅ~ぎゅ~ぎゅ~♪」」
 俺は静久と、あの唄を歌いながら、灯台に向かった。
 すると――
「おかえりなさい」
灯台の扉を勢いよく開けて、紬が飛び出してきた。
「「紬!」」
俺と静久の声が被る。今二人の目の前にいるのは、間違いなく紬だった。
そして俺は思わず、紬のことを抱きしめていた。
「会いたかった……!」
嬉しかった。とても嬉しかった。だけど、涙が止まらなかった。
「むぎゅ〜。ハイリさん、苦しいです」
「あ、ごめん」
我に帰って、抱きしめていた腕を解く。そして俺は目に溜まった涙を拭って、紬の目を見て、笑顔でこう言った。
「ただいま」
紬と静久と俺との三人の夏休みが、これからまた始まる。


(了)

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