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【終了いたしました】『かわいいピンクの竜になる』最新刊刊行記念 川野芽生選書フェア

第170回芥川賞候補にも選考され、今もっとも注目を浴びる歌人・作家のひとり、川野芽生さん。ウェブストアでは最新刊『かわいいピンクの竜になる』の刊行を記念したフェアを開催いたします。
フェアでは著者による選書とコメントや、著作の架空イメージコスメ画像(川野さん作です!)をお届けします。

■フェアはこちらから

■メインタイトル『かわいいピンクの竜になる』

私、スタッフMは以前から川野芽生さんを推していたこともあり、『かわいいピンクの竜になる』は左右社さんのnoteでの連載時から楽しく拝読しておりました!

■左右社さんのアカウントで試し読みができます

以下、書籍版の感想を書かせていただきます。

「かわいい」とか「ピンク」とか、そういった単語を目にしたとき。あなたはどんなイメージを持つだろう。可憐な少女、というイメージが強いのではないだろうか。この本の装画として描かれているキャラクターはおそらく可憐な少女で、けれどこの子は竜であり、腕は鱗に覆われ勇猛な一対の翼が生え、そして凛としたまなざしでこちらを見据えている。それを「ギャップ」とは言いたくはない。このごつごつとしたそれでいて研ぎ澄まされた部分はピンクの持つ一面であり、また「かわいい」部分も竜の持つ一面に過ぎないのだから。

装丁の話をすると、カバーの少しざらざらとした質感は高級感を感じさせ、またカバーを外すとさながら竜の鱗のような手触りの本体が現れる。鱗を覆う繊細なレースも素敵。そうしてページをめくった先に、いよいよ川野さんの文章が浮かび上がる。

この本はファッションについてのエッセイであり、ジェンダーについてのエッセイであり、そして「自分」についてのエッセイである。川野さんが綴った川野さんのものであるこのエッセイは、同時に「自分」――すなわち私・私たちのものであるように感じるのだ。
広いのか狭いのかよくわからないこの世界で生きていくにあたって、なんとなく窮屈に思ったりもやりとしたものを抱えたり、そんな人は多いのではないかと思う。その「なんとなく」を掴み言語化することに長けている、そしてその「掴む」ことのできる繊細さを鋭さに変えることができる、私の中の川野さんはそんなイメージだ。

世界に自分を合わせるための服を着るのではなく、服を着ることによって自分の周りに物語の世界を立ち上げ、現実を歪ませる。

かわいいピンクの竜になる P.23

この考えはとても素敵だと思う。

私はロリィタファッションよりゴシックファッションが好きで、そもそもドレスはそんなに好きじゃなくて、自分の見え方や在り方にそしてひとりのニンゲンとして生きることに特に疑問も持っておらず、お姫様や王子様ではなく魔法使いになりたい。そういう川野さんとは共通点もありつつ全然違った存在であるけれど。その言葉に共感するのは、川野さんの言葉は尖っているようでいて私たちが何気なく見なかったことにしてしまった普遍的な何かを掬い上げているからではないだろうか。

個人的に一番共感し印象に残ったのはこちらの箇所。

私は誰のミューズにもなりたくない。私はただ私だけの詩神で、

かわいいピンクの竜になる P.110

私に一番インスピレーションを与えるのは私自身でしかありえないし、誰かのインスピレーションとして消費されることなどありえない。そう言い切ってくれた川野さんに拍手を送りたい。

その一方でこの本を簡単に、お守りだとか「寄り添いをくれる」とか「元気が出る」とか言いたくない気持ちもある。このエッセイには川野さんの苦いと思われる経験も綴られている。全体を通して描かれているのは川野さんの人生の欠片であり、それを安易な言葉で消費したくない、という気持ちが私の中にあるのかもしれない。

書籍版の書き下ろしとして一番目を惹くのは、トールキン協会のイベントでの思い出が綴られた章「エルフは眠らない」であろうか。
残念ながら私は『指輪物語』を途中までしか読んでいないため、トールキン氏の紡いだ世界について詳細にイメージができるわけではない。けれどエルフやドワーフがおり、「ドラゴンは大好きだよな!」などの呼びかけで盛り上がる会場の熱気や楽しさがとても伝わってきて、大変わくわくさせられた。
そう、川野さんの描く魔法の存在や幻獣は、難しいことを考えられなくてもその世界観をめいっぱい楽しむことができる点も、個人的に魅力だと思っている。

かわいいピンクの竜になれたら、きっとこの世界で生きるにあたっての諸々の悩みとか。そんなことが些細なものになるのかもしれない。ピンクは強くてかわいいし、竜も強くてかわいいし。
私はかわいい銀色の竜の友達になれたらいいなと思う。

「自分のなりたいものになるために必要なのは自分の気持ちだけだけど、ままならないことも多いよね」と妖精に突然語りかけられたような、この本を読んでなんとなく呼吸がしやすくなる人もいる、そんなちょっとした魔法をあなたにかけてくれる――あるいは魔法を「解いて」くれるかもしれない本だ。