見出し画像

【日記】しあわせな日

休日勤務があるので平日に代休を取った。

平日にぶらぶら出かけるのってすごく後ろめたくて嬉しい。ほかの人たちは仕事しているのに自分だけ好きなことをやっている、その晴れがましさと罪悪感。何だかドキドキする。うふふ。

このところせわしなかった。「忙しい」というより、仕事量はたいしたことないのに自分がモタモタしていてせわしない。30代や40代の頃は仕事がかさむから睡眠時間が減って、眠いよう、で過ぎていったがこの頃はもうそれをやると病院のお世話になる。だから極力残業とか持ち帰り仕事をしないように心がけている。そのせいで仕事量を減らしているのにさらにせわしなくなる。

大人の事情で午前中は休みにもかかわらず出勤したが、昼から街の真ん中に出かけた。プライベートな用事があったのだ。ああうれしい。車を駐めるのに割安な駐車場の長い列に並ぶがそれすら楽しい。この後の時間を考えなくてもよいしね。

いったいわたしは繁華街を歩き回るのが大好きだ。
(この「いったい」の使い方って、「総じて」という意味なんだけど今はこんな風に誰も使わない。だけど時々こう表現したくなる。なんだったっけーと呟いたら友だちが青空文庫を検索してくれた。どうも芥川とか漱石とか梶井基次郎が使っていたらしい。「いったい私はあの檸檬が好きだ」みたいに。明治時代の用法?)

都会の、誰も自分のことを知らない雑踏の中に混じって店を冷やかしたりお茶を飲んだりするのがたまらない。ひとりでブラブラとどこへでも行く。しかしこの日は暑すぎた。冷房のあるところを選びながら気の向くままに歩く。

途中で郵便局があったので、先週出たばかりのふみの日の切手を購入した。白やぎさんとか小鳥とかうさぎさんとかいろいろ。これで暑中見舞いを出したいのだけれど、お友だちの住所はどこに行ってしまったのか。ううむ。

白やぎさんが描かれているのは10枚中2枚しかなかった


用事はすぐに済んだので一度行ってみたいと思っていたカフェに行くことにした。雑居ビルの古いエレベーターを上がっていくと最上階近くにその店はあった。雑誌で見ていたとおりの、趣がありコージーな空間にぴったりな音楽がかかっている。入って、どうぞと言われ窓の近くの席に座る。

誤算だったのはエアコンがなかったこと。

この頃は暑くなるので空調が付いているところが多いが、なんとここは冷房のない店だった。北海道あるある。旅行者は注意。
通常なら問題ない。でもこの日は最高気温が33度を超える北海道にあるまじき天気で、当たり前のように涼を求めて店に入ったら暑かったときの・・・ううう、暑くないときにもう一度来たいな。

でもアレンジコーヒーも一緒に頼んだスイーツも申し分ない味と雰囲気で良かったよ。
ほかにたくさんファッショナブルなお客さんもいたけど、みんなエアコンがないことを知っていたのかな? わたしと同じように入ってみたら冷房がなくてびっくり、でも出るに出られない、ってとこかな。

プリンはほうじ茶味

珈琲を飲み終えたあと、今度こそ涼を求めて大型書店へ。さすがにここは全館エアコンが効いている。森野の場合、書店は散財しやすい魔窟なのだけれど、本に毒された身体でこれらがないと生きていけないのでいいのだ。暑いし涼もう。タッタッタと文芸の階まで上る。

ふと見ると、新刊の文庫が並べられた奥の棚で国書刊行会のフェアをやっていて。

ぎゃーー国書刊行会!

ここは白水社と並んで魂を持って行かれる本が多い。推し会社は東京創元社なのだけれど、他の出版社だっていろいろあるんだ。そして見てしまった。
山尾悠子のエッセイがある!!
うわー分厚い、重い、高い。

小説ではなくエッセイ? 散文集

山尾悠子は知る人ぞ知る幻想的な作風の作家で、わたしはちくま文庫で出ていた「ラピスラズリ」を読んで魂を持って行かれた。なんか語彙が出てこないんだけどとにかくすごい。刺さらない人には全然刺さらない、多分どこがいいのか全くわからない小説だと思う。でも自分は好きなんだこういうのが。

見てしまったらもうダメで手に取った。本に手のひらの湿気がじんわり伝わる。ああもう買うしかない。

一冊買おうと思ったら次々に手に取ってしまい、結局かごを持ってきた。文庫と新書の間を何往復かして散々本を入れたあげくカードで支払う。
本屋に行くと知らない間に2時間は経っていたり、気がつくとカードを切ったり、大量に買って送料無料で送ってもらったりしている。この日も知らない間に夕方になっていた。何をしていたんだろう。時間、溶けた? 大型書店は魔窟だなやっぱり。

そのあとデパ地下で値引きになったお惣菜を物色し、立体パーキングから車を出してもらった。帰る人が並んでいて少し待つ。

入るときもそうだったのだけれど、そんなに若くないおじさんたちが「こちらが最後尾」みたいな札を掲げて炎天下を行ったり来たりしていた。だから待ったとしてもスムーズに駐められるようになっている。
帰りも、そこで黙々と駐車場の機械を操作する係の人たちの近くにエアコンなど無い。この暑い中でずっと働いているのだ。もちろん休憩はあるだろうけど、それでも暑い。

さっきのカフェだって、感じの良いお兄さんはずっとエアコンのない室内で働いていた。風が通る客席と違い、珈琲専門とは言え厨房はもっと暑いだろう。帰り道で道路工事があると交通整理をしている人がいる。あの人たちもさぞ暑いだろう。

そういう人たちに支えられて生きている。

そんなことをふと思った。
ありがとう。
夕暮れ時の交差点。明日からまたがんばろう。精一杯生きよう。

テレビ塔


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?