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生きていること以外全部やめちゃった期間

私にはまさしく「どん底」と思える期間がある。
10年超努めた店舗設計事務所をうつ病になって苦しみ、退職した後の3ヶ月間を含む約10ヶ月間だ。果たして本当にうつ病だったのかどうかは当時病院にかからなかったため定かでないが、近年になってうつ病が病気として認められた頃に症状と言われる項目をみて、「あぁ当時はうつ病だったんだな」と思ったのだ。
退職した後、両親に言えなくて(反対押し切って転職したため)朝いつもと同じ時間に家を出て、車の中で夜まで寝て、夜遅くに家に帰る毎日を3ヶ月過ごした。何にも考えず、誰にも会わず、家族以外と言葉を交わさない、本当に生きているだけだった。何かしなければと焦る気持ちさえ湧かず、時間が流れるばかりだった。

きっかけはある年の9月。飲食店の工事をめぐってのクライアントと社長の意見が合わず、社長がクライアントを避け続けたためとばっちりを全部受けてしまったことだ。「お前が担当だ。片付けてこい」という指令のもと、ひたすら機嫌取りをしていた。そうしている間に工事は進む。クライアントはなんとか社長を引っ張りだそうと難癖をつける。社長に報告してもほったらかされる。
工事が終わり支払いの時になって「社長がこないと金は支払わない」と言い出し、社長の報告するも「お前が担当なんだから金はちゃんと支払ってもらってこい」と突き放される。他の社員も社長を恐れて助けてくれない。
そして困りすぎて、しんどすぎて、心が壊れてしまった。

異変の始まりは味がわからなくなったことだった。甘い甘いお菓子を食べても、唐辛子いっぱいの激辛ラーメンを食べても味がわからくなった。一緒に食べている人の感想やリアクションが不思議だった。
次に社長の前で言葉が出なくなった。社長に説明しようにも言葉が出てこず立っているだけになってしまった。社長はイラついて怒る。急かされるたびに体が硬直しますます言葉が出なくなる。不思議なことに社長以外とは話せるし、電話も出ることができる。社長は自分だけの頑なな態度と思い、言葉がますます荒くなる。頭がまっしろになって、言葉の代わりに涙がボロボロでるようになってしまった。
助けてくれない他の社員に対し敵対心や警戒心が生まれ、一言一言を深読みし、過敏に反応してしまうようになった。自分の言ったことが社長に伝わるのが嫌で発言しなくなった。不信感でいっぱいだった。

社長も少しおかしいと感じたのか、直接言ってくることがなくなり、他の社員を介して仕事を振ってくるようになった。そうすると今度は見放されたような気持ちになり不安で落ち着かなくなった。
そんな私に社長はモチベーションを上げる研修を課した。目標設定だの将来の夢だの自分の課題だのたくさん書かされたが嘘ばっかり書いた。そんなもの一つも思い浮かばなかったのだ。
書いたばっかりに「そうならなくちゃ」と思うようになる。なぜできないのか、自分はだめだと自分を責めてばかりになった。

翌年の2月の終わり、とうとう事務所のドアが開けれなくて入口で立ち尽くした。後から来た社員がドアを開けてくれて入れたが、その時に「あぁもうダメだ」と思った。そのまま社長宛に退職願を書いて渡した。社長は無表情で「あっそ」と言っただけだった。
3月末で退職したが、それまでの1ヶ月間はもう重要な仕事は回してもらえず、資料整理や掃除をしてやりすごした。最後の日、社長は会社にこなかった。

自分の私物を車に運び入れ、鍵を社員に手渡し、事務所を出た。寂しいとかスッキリとか何もなかった。ただ明日から来なくていいんだと、社長に会わなくていいんだと思うとホッとしたのを覚えている。
送別会もなし、退職金もなし。今思えばちょっとひどい。ま、自分がひどかったので仕方がないが。

3ヶ月間毎日車の中で寝ていたが、本当によく寝れた。うつ病は眠れない症状がある人が多いそうだが、その時の私は一日中寝ているようなものだった。
トイレに困らないよう、スポーツ施設の駐車場の片隅に停め、ひたすら寝ていた。その施設は郊外にあるテニスコートやプール、イベント広場などのある広い広い敷地だったので利用者があちらこちらに点在し、利用者じゃなくても分からないので咎められなかった。同じように車の中で寝ている人がよくいらっしゃるので、安心して(?)寝ていられた。
困ったのは運転席で寝ていたら窓側の右半分だけ日焼けしちゃったことかな。

3ヶ月がすぎたころ、自宅に在職中にお世話になったクライアントから電話が入り、母親にバレて家にいることができるようになった。クライアントは「最近来ないなと思って会社に電話したら退職したと聞いて。預かっていたものがあるからと嘘ついて連絡先を教えてもらった。これで自由に頼めるね」と喜んでくれた。嘘をつくのはなんだかなと思ったが、そこまで追いかけてくれたことに感謝した。
が、退職金もなく薄給で貯金もほとんどないのに3ヶ月寝ていた私の預金通帳の残高がどんどん減っていく。仕事を探さなくちゃと求人誌などを眺めていたのだが、うつ病の後遺症かどの仕事にも興味が湧かず、やる続ける自信もない。同業だけは近寄らまいと探し続けていたのだが、ちょこちょこと依頼してくださる案件が出てきたので、フリーランスで仕事をしようと決心した。やっと前を向くことができた。

ひたすら寝て脳も飽きたのか、何もせず寝倒して満足したのか、その後徐々に復帰できた。食べ物が美味しくなり、話すことが楽しくなった。依頼してくださる内容は未経験が多かったけれど、本を読み、知恵を絞って取り組んだ。そして紆余曲折しながら現在に至る。
この後挫折をもう一度味わうのだが(以前に投稿した「細胞学から悟った自分の仕事の立ち位置」参照)行き詰まった時は立ち止まって考える時なんだと思う。スッキリ答えがまとまればよし、まとまらなくても考えたことで一歩前進、また進んでいける。

どん底まで落ちればもう下はない。上がろうともがくから息が苦しいのだ。バタバタするから疲れるのだ。ただただ、どん底に横たわり、上を静かに見てたらいい。
そのうち脳も体も飽きちゃって、どうやって登ろうかと考えれる日が来る。


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