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なにぶん嘘日記12/15『モーニング』

昔々、家人とはじめてお出かけしたのは神社の初詣だったと記憶している。
いつものテキトーな服装で出かけようとする私に、姉が「かわいくしていきなさいよ」と赤いマフラーをリボンのように器用に結んでくれた。私は不器用なので、マフラーといえばクルンと巻くことしか未だにできない。

それからおよそ三十五年。昨日、同じ神社に家人と出かけた。
家人は足が不自由になったので杖をついてゆっくりと歩く。駐車場から本殿までは少し距離がある。よく晴れた日の朝で木漏れ日が美しい。
神社はゆっくり歩くのがいい。まだ参拝者も少なく、澄んだ空気の中にゆっくりといられる。

家人は子どもの頃、この神社の近くに住んでいたそうで、神社は遊び場だったらしい。今までの人生でいったい何回訪れたのだろう。私でさえ、この三十五年で百回以上は訪れている。
感傷的になったりしないのかと想像するが、何も言わないので胸の内はわからない。私も聞かない。

本殿に着く。杖を預かり、参拝する後ろ姿を見ている。
お参りできてよかったね、と思う。目が霞む。
初詣にも来られるといいけど。
家人に杖を返して私も参拝する。諸々に、ただ感謝する。

境内には別宮もいくつかあるが、体力を考えてご無礼させていただく。
車に戻るとまだ九時半。
助手席で待機していた居候のこびとが「おなかすいたー」と言う。
あんたは朝食べてたでしょー、先日姉からもらったフィナンシェを。

しかし家人も珈琲を飲みたいと言うので喫茶店にモーニングに行く。
その喫茶店はメニューが豊富で、家人はハムロール、私は小倉トーストを。

こびとは、ゆで卵に腰かけている。温かいらしい。

あんこー♡ ٩(๑•ㅂ•)۶うぇーい!
言うまでもないがこびとは小倉一択である。甘いもの好きなんだからー。
真ん中のいちばん食べやすい所から好きなだけパクパクと食べ、ほぼパン耳となってから残りを私が食べる…。ゆで卵はいらんと言うのでそれは私が。適度に半熟で合格。まだほんのりとぬくい。
黄身の周囲が黒くなっているような固ゆで卵がつくモーニングは不合格。

塩をぱらぱらと振り「あ、かけすぎた、まぁいいか」などと思い、そう思うことが人生で今までに何回あっただろう…などとも思う。
ややしょっぱい卵も美味しい。人生も時にしょっぱいものだ…。

モーニングを食べ終えたら十一時近くになっていたので、昼食はもういいね、となる。家人も私も少食。
こびとだけがぷーぷーと鼻を鳴らす。こびとの鼻はぶーぶーとは鳴らないので不満そうに聞こえないけれど不満らしい。

「なに、ぷーぷー言ってんの」
「お昼はおひるっ」

仕方がないので冷凍ごはんをチンして、ちいさめのおにぎりを作ってやる。
「たらこないの?」
「ないよー」
ぷーぷー。
梅干しにしとけ。

隣の部屋では家人が眠っている。
平和な午後である。


※更新はきまぐれです。また、コメントいただいた場合、返信は居候の小人にさせますので失礼がありました場合はご容赦くださいませ。(だいたい「うぇーい」とか言って言葉使いもテキトーです)

※私の日記は表題通り『なにぶん嘘日記』です。百パーセント真実ではなく、半分、あるいは三分とか八分とかの嘘、すなわちフィクションが含まれるという意味と、「なにぶん嘘もありますのでどうぞよろしく」という意味の両方が含まれております。


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