(小説)Youは 出張しに 日本に行っても お姉ちゃんのことで 頭がいっぱい!(2話)
の続きです。
わたしは火曜日の朝、六時過ぎに起きて昨日買っておいたSIMを携帯電話にセットしてパッケージに同封されていた説明書を読みながらAPNの設定を進めて動作を確認しました。それが終わったらホテルの近くにあったミニスーパーで買ったパンとドリンクを口にしました。そしてそれが済んだら千葉駅から電車に乗りました。途中、蘇我という駅で乗り換えて七時四十分頃に海浜幕張駅に着き、掲示物に書いてあるとおりに「コンピューティング・アンド・インフォメーション・テクノロジー・エキスポ」会場の幕張メッセに向かいました。入口付近のベンチで札を持って待っていた渚さんから出展者証をもらいそれを首にかけて一緒に中に入りました。
会場内のノゾミシステムズブース前に着くと専門の業者がブースを手際よく組み立てていました。その中で会場に届いた配布物の入ったダンボールの封を開けて中身の検品をしました。それが終わったら商談用のテーブルで会社概要やソリューション製品を宣伝するパンフレットやチラシ、ノベルティーのボールペンを一セットにまとめて袋詰めしました。それが終わる頃にはブース設営も終わり、今度はソフトウエアソリューション商品紹介用の大型モニタとデモ用ノートパソコンのセッティングをしました。コンクリート床にあるふたの下にあるコンセントにコードを繋ぎ、会場内に用意された出展者用Wi-Fiが使えるように設定をしてデモ用IDのログインをして動作確認をしました。
昼過ぎの午後三時頃に全作業が終わって、その後渚さんを含むノゾミシステムズの社員数人と会場を出た後一緒に歩いて海浜幕張駅前のレストランで会食をしました。そこでわたしの勤務先の状況を軽く話しました。うちはウェブサイトと画像管理アプリの制作、運営管理をしていて、ノゾミはおもに通販サイト・アプリの運営管理をしています。そしてお互いがそれぞれのアプリ、ソリューションといった商品を販売する海外ディストリビューターでもあります。わたしがなにか話すと英語がわからない社員のために渚さんに日本語に要点を訳してもらってその社員が日本語でなにか話したときは彼女に訳してもらいました。わたしは夕方にホテルに戻って明日以降三日間の会期のために早めに寝ました。
次の日わたしは朝、出展者証を持ってホテルを出て会場のノゾミシステムズブース前に直接向かいました。渚さんと軽く打ち合わせた後、
うちの勤務先が開発したシステムのデモ機の最終チェックをして訪問客にすぐに見てもらえる状態にしました。展示物は日本語版アプリなので念のため字が読めないわたしのかわりに彼女にも目を通してもらいました。彼女からは「仕事というよりはお祭りのようなつもりでやってくださいね。雰囲気が暗いと誰も寄ってきませんから」と言われました。
開場時間になるとノゾミシステムズの社員数人が表に立って通路を通る人たちに声をかけてパンフレット入りの袋を渡したり、ブース訪問客の入場者証のバーコードを読み取ったり、名刺をもらったりしていました。どんな内容の声をかけているんですか?と横にいた渚さんに聞いたところ、
「商品の登録が面倒、売上管理でお困りですか?でも大丈夫。弊社の通販プラットフォームならそれが解消できます!」
みたいなことを言っているそうです。そして説明役の社員が関心を持ってくれて中の展示物を見てもらったときに訪問客の分からなかったことを答えたりしました。そして彼たち、彼女たちの帰り際にステッカーやマルチ充電ケーブルなどといったノベルティを渡していました。その中には少量ですがわたしが持ち込んだうちの勤務先のロゴが入ったポーチやTシャツもありました。わたしは日本語がビジネスで通用するレベルで話せるわけでもなかったので表に立つというより主に外国からの来場客との商談や問い合わせを受けていました。
木曜日の比較的余裕のあった時間帯、渚さんに
「シャーリーさん、会場回っておいで、きっとなにか面白いもの見つかるよ」
と言われて会場を回ることにしました。同業のシステム開発会社のブースはもちろん、その他に日本の大手電機メーカーの最新技術展示、特にスマホやパソコンからインターネット経由で操作できるIoT家電もし実際に商品化されて買うとなったとき、家電というのは長い間、物によっては十年以上使うのでセキュリティ向上のための通信規格のアップデートとかをいつまでやってくれるだろうか?ということを考えたりもしました。具体的に言うと、例えば買った食品のバーコードを読み取って中身を管理してくれる冷蔵庫があったとして、商品コードデータを毎月一、二回受信して自動更新することが必要で果たしてそれを十年以上続けられるのかどうかという疑問が出てきます。そしてパソコンやスマホなどの情報機器をリサイクルする会社のブースでは、使用済み機器の回収と販売・リースに付いてのパンフレットを貰った後ハードディスク破砕装置の実演やスクラップ業者に引き渡される破砕くずの見本を見ました。VR体験コーナーではヘッドセットをかぶって椅子に座って車を運転したり、スマホアプリを使ってアニメキャラクターと一緒に写真に写ったりしてみたりしました。一人で回ったので興味があったり、わからないことについて片言の日本語で聞くのが精一杯で、あまり深い話をすることはできなかったのが残念なところです。
わたしは二時間くらい回った後ブースに戻って、渚さんにもらってきた他社のノベルティを見せました。社名入りボールペン、ロゴ入りステッカー、WEBカメラカバー、紙おしぼり、マスクケース、クリアファイルあたりの定番アイテムから、スナック菓子、チョコレートバーやグミキャンディ、ミネラルウォーター、レギュラーコーヒーパック、付せん紙、ステンレス製の保温ボトル、折りたたみ傘、簡易ドライバー、小さく圧縮されたタオル、スマホスタンド、USBメモリ、モバイルバッテリーといったものです。スナック菓子やチョコレートバーに関してはパッケージに直接配った社名が印刷されたものがあることに驚きました。
その中にアルミの袋に入った小さな石けんのようなものがあって、使い方が分からなくて彼女に
「これはなんですか?」
と聞いてみたら
「これはね、固形の入浴剤でね、バスタブにお湯を張って投げ込むと泡がブクブク出るのよ。家にあったらやってみて。本当に気持ちいいから」
と言われました。
最終日となった金曜日は比較的混んでいたので、わたしはブースに張り付いて渚さんと一緒に受付にいたり、会期中にノゾミシステムズの本社から追加で届いたパンフレットをセットして袋詰めする作業などをしていました。
そんな感じで会期の三日間が無事終わりました。ブース自体の集客の方はそれなりに盛況で、訪問した入場者証のバーコードを読み取ったり、名刺をもらった回数もそれなりにありました。よその会社のブースでは名刺回収枚数のノルマがあるらしく、呼び込み担当の間で枚数を競っているという話を聞きましたが、うちでは特にありませんでした。わたしも広報がまだまだ足りず、知名度も十分ではなくて決して多いとは言えないうちの製品の日本でのユーザーから直接使い勝手について、それ言い換えると、ここが良かったと思ったところや、使いにくかったところ、こんな機能がほしいといったことを直接聞くことができたので帰ったらうちの同僚たちに話したいです。うちの商品のパンフレットも一緒に配布したのでもっと知られるようになってくれるとうれしいです。
開催時間が終わるとともに撤収作業がすぐに始まり、ブースの解体作業と並行してデモ用ノートパソコンと配線コードを折りたたみコンテナに入れて、大型モニタをダンボールに入れて、説明パネルを大きめの袋に入れた後束ね、商談スペースの椅子とテーブルをまとめて、それらをそれぞれ台車に積んで駐車場に止めてあるノゾミシステムズの車まで運んで積みました。ノベルティは少し余ったのでうちが地元で展示したときのために提供してもらいました。
そして最終日に参加したノゾミシステムズの社員たちとわたしで海浜幕張駅前のレストランで会食をしました。途中メールアドレスや名刺の交換をしたりして別れを惜しみました。
ホテルに戻ったわたしはお姉ちゃんに向けて成田空港の売店で買っておいた富士山と新幹線が一緒に写った絵葉書にこの展示会の出来事と思い出をびっちりと書いて一緒に買った七十円の切手を貼りました。そして一旦ホテルを出て、軽食を買うために立ち寄った付近のコンビニのレジに立てかけてあったポストに入れました。
に続きます。
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