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スウィンギング・ロンドン

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オンライン開催 長澤 均 & 霧とリボン 共同企画展《スウィンギング・ロンドン》|2022.11.20〜11.25|1960年代後半から1970年前半、鮮烈に花開いたロンドンのス… もっと読む
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スウィンギング・ロンドン|巻頭エッセイ|長澤 均|熱狂から落陽へ、ユース・クウェイクの10年

 イギリスの名優デヴィッド・ニーヴンが主演した『大頭脳』(1969)という映画がある。列車に積まれた金塊を盗もうとする男たちの話だが、映画は活況を呈しているカーナビー・ストリートを舞台に始まる。「スウィンギング・ロンドンの熱狂」がいわれた当時の風俗をそのまま描写して圧巻のシーンだ。  モッドなスタイルのカップルや、極彩色のシャツやパンツを穿いた男女が通りを埋め尽くしている。そのなかでダーク・スーツで中年のデヴィッド・ニーヴンがひとりだけ浮いているという具合だ。  スウィン

スウィンギング・ロンドン|河井いづみ《1》|おいでよ、あたらしい時代

 時代が動く音がする。  刹那的で爆発的なエネルギーを秘めた特別な時代へ、河井いづみの魅力あふれる四点の作品が明るく手招きする。  あの空気。あの匂い。あの感触。  スウィンギング・ロンドンの世界へ、ようこそ。  響き渡るハロー!の声。新しい時代。  あたたかなイエローとユニオンジャックをまとった凛とした手袋が、ストリートの視線を釘付けにする。私たちも行かなくちゃ。乗り遅れないように。 *  躍動する時代。その中心にはいつだって輝く若者たちの存在がある。いつもより少し攻

スウィンギング・ロンドン|宇山あゆみ|華やかな時代へ

 ポーズ人形とスウィンギング・ロンドンの出会い。その奇跡のきらめきがここに。  スウィンギング・ロンドンをテーマに人形作家・宇山あゆみが創作したのは、時代を牽引したBIBAのファッションにオマージュを捧げたポーズ人形。  時代の魅力を巧みに掬い上げ、ノスタルジックな感情を呼び起こすことに長けた作家ならではの、細部までこだわりを感じさせる愛らしさと懐かしさにあふれた作品となっている。その魅力を余すことなく伝える写真は、作家自身によって撮影されたものである。  昭和の時代に

スウィンギング・ロンドン|DAY 1

本記事はオンライン展覧会《スウィンギング・ロンドン》DAY 1の配信記録です。 Text霧とリボン  モーヴ色の空から時を超えて頽廃の香気が舞い降り、小雨となって冷たい空気をスウィングさせた一日。  パンデミックの影響で延期を重ね、二年越しに開催が叶った長澤 均さま&霧とリボン共同企画展が本日ついに開幕しました。  オンライン上のストリートを闊歩しながら、スウィンギング・ロンドンの空気を胸いっぱい吸い込んで下さった皆様に深く感謝申し上げます。 *  はじまりは、一冊の

スウィンギング・ロンドン|カタユキコ|未来の旅1965-1974

 エネルギッシュで象徴的な世界観を持つカタユキコさまの作品は、まさに1960年代半ばから瞬く間に広がったロンドンの熱気そのもの。  シンメトリ―な女性たちが連帯し始める、爽やかな時代の息吹きを描いた4作をご紹介します。  ミニスカートから、大胆に突き出した脚が枠ぶちのように、扉の中から二人の女性に誘われる――女たちが紡いできたパッションへと!   小首を傾げ、余裕を残した姿態は新しいモードの萌芽を感じさせる。 *  芝生の草が肌をやさしく刺激する。ヒールを投げ出して

スウィンギング・ロンドン|須川まきこ《1》|クイーン・オブ・ハートの鼓動をきいて

 華々しく時代を一新し、自らの眩しさによって神話と化したブランド〈BIBA〉。神話を作りあげたのは、ショップに並んだ伝説を、選び取り、身に纏った女の子たち。  最新作のバッグ、オリエンタルな髪留め、愛用の仮面と羽根飾り。ごちゃまぜな懐古主義が、部屋を舞い踊る。  モダンの終焉を予見したバーバラ・フラニッキが作り上げた王国〈BIBA〉、ついたてさえない試着室は、毎日が盛大なパーティーのようだっただろうか。人間も衣服も、もみくちゃに、生身をもった物質へと一体となりながら。

スウィンギング・ロンドン|massaging capsule《1》|翳りを纏うアームコルセット

 『BIBA スウィンギン・ロンドン 1965-1974』に掲載されている活き活きとした図版の数々の中でも、とりわけ心を撃ち抜かれたのが、サラ・ムーンの撮影した、宵闇から浮かび上がるような、いや反対に溶け込んでもいるような少女の肖像です。  巻き毛がかかる額、20年代を思わせる黒いアイメイク、ボルドー色の口紅、大きな瞳の物憂い眼差し、何よりもゴスへの系譜にも繋がるそのアンニュイな仄暗さが衝撃でした。それまでは漠然とポップでミニマムなイメージだけを持っていた60’sモードのこ

スウィンギング・ロンドン|DAY 2

本記事はオンライン展覧会《スウィンギング・ロンドン》DAY 2の配信記録です。 Text霧とリボン  英国ではクリスマスプディングを用意する「ステアアップ・サンデー/Stir up Sunday」の昨日より開幕した、長澤 均 & 霧とリボン共同企画展。DAY 2を迎えた本展をご高覧頂きました皆様に深く感謝申し上げます。  かき混ぜた(Stir up)プディングのように、時を超えて新旧のアートとモードが行き交うここオンライン・ギャラリー「MAUVE CABINET」。本日

スウィンギング・ロンドン|須川まきこ《2》|浮遊する時代

 クールとチャーミングが同居するスウィンギング・ロンドンの女性たち。自己プロデュースに長けた女の子たちの自由で華やかな世界へ。  ふわりふわり、ひらりひらりと舞うのは、美しいレースのガウン。  ガウンの中ではたくさんの蝶が舞い踊り、自由に飛び回っているかのよう。  だが本当の自由を謳歌しているのは、ガウンを広げた女性だろう。  浮遊感とともに漂う安定感は揺るぎない信念の証。  時代とは、レースのガウンを広げた先にあるものなのかもしれない。 *  オシャレをして集まった

スウィンギング・ロンドン|河井いづみ《2》|呟声と時間

 時代の嵐が去った後も残り続けるモノ――。独特のノイズ感をもった鉛筆画から、じっと動かないモノの息遣いが秘かに聞こえてきます。  衣装替えの混乱が終わったあと、人々の気配が充満する部屋。傾いたハイヒール、飲み干された空瓶、打ち捨てられた林檎。  時間が止まったモノクロームの世界で、静物であるはずのモノたちがぬるりと生きているようにその存在を表している。呼吸を繰り返し、ふくらんだカーテン。来客を迎えようと、鷹揚に構えたソファ。  現在でも、オークションを華やがせるそれらは

スウィンギング・ロンドン|Du Vert au Violet|モーヴ色が仄香る夕暮れのStreet

 長澤 均氏ご著作『BIBA Swingin’ London 1965-1974』を紐解くと香り立つ、当時の息吹。わけてもバーバラ・フラニッキが創業したBIBAのロマンティックな世界観と一連のノスタルジックな写真に魅せられ、儚く過ぎ去った神話の美しい残像を、香りで表現してみたいと思いました。  1973年、ケンジントン・ハイ・ストリートにBIBAが移転し「Big BIBA」をオープン。ポプリ名「Kensington High Street 1973」の由来はここから。  

スウィンギング・ロンドン|DAY 3

本記事はオンライン展覧会《スウィンギング・ロンドン》DAY 3の配信記録です。 Text霧とリボン  冷たい雨から一転、美しい空が広がり心地よい風が吹き抜けた一日。  長澤 均 & 霧とリボン共同企画展は、本日より会期後半を迎えました。  追憶とモダンの間を行き来する描線と一閃の香りが菫色の小部屋をスウィングしたDAY 3——オンライン上のストリートを散策して下さいました皆様に深く感謝申し上げます。  2020年秋に開催予定だった本展は、パンデミックの影響で延期を重ね、

スウィンギング・ロンドン|massaging capsule《2》|石畳をスキップで

 あの時代のロンドンの、自由な風の中で生きる少女の日々を思い描きました。  決してリッチガールではないけれど、とっても頑張って一枚ずつ揃えたモードがお部屋のクローゼットにはぎっしり詰まっています。鏡の前で袖を通せば、まるで雑誌から抜け出たみたいに変身できる、そんな宝物ばかりです。  渾身のコーディネートを選んで、今夜は噂の人気ナイトクラブへ遊びにゆく約束です。ブティックに並んでいた素敵なあの最新ワンピースを来週は着たいから、少し寒いけれどクローク利用は我慢することにしてコー

スウィンギング・ロンドン|massaging capsule & 霧とリボン|うたかたの日々へのオード

 夜の訪れと共にストリートに繰り出す若者たち。お気に入りの装いにスパイスとなる小物を取り入れて、待ち合わせへと急ぐ。一瞬にも、永遠にも感じられる夜の海に身を浸して、黒々とした波間にゆれる月明かりをじっと見つめている。  瞬く間に時は過ぎて、薄明を合図に遠のいてゆくロマンティックな夢の時間。今日もまた、吸い込んだ空虚や焦燥を紫煙と共に吐き出し、倦怠の朝を迎える——  若者たちのうたかたの日々へのオードとなるカフスとサコッシュを発表します。  漆黒にモーヴ色の千鳥格子が映え