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壊さないで

それはもうあっという間だった
僕には気づく余地すらなかった
彼女の心はガラガラと耳障りな音を立てて崩れ落ちていった
僕にはどうすることもできなかった
横たわったままもう動かない
不思議だ、僕は呼吸を繰り返すのに
彼女が息を吹き返す気配なんて微塵もない

許せなかった
彼女をここまで追い詰めたものを
彼女は自分自身が追い詰められてることにすら気づいてなかったんだ
そうして彼女の吸う空気はいつしかじわじわと薄くなっていった
彼女は何も悪くないのに
悪いのは彼女じゃないじゃないか
涙が溢れてくる
どうしようもない
どうしたってもう彼女が笑うことなんかない
それが現実なんだって

嗚咽が漏れる
彼女もこうして泣いていたのだろうか
どうして
どうして守ってやれなかった
彼女の笑顔を
どうして気づいてやれなかった
感情を察知するのが得意じゃなかったのか僕

ああ

本当は気づいていた
彼女は疲れ切っていた
あのとき
彼女は心の中で苦しいって
泣いていたのかもしれない
僕も疲れていたから
気遣っていたつもりだったけど
隠せていなかったのだろうか
遠慮させてしまっていたのだろうか
まさかこうなるなんて予想だにしなかった

でももうなにもかも遅い
どうしたって僕たちは戻れないんだから
彼女を追い詰めていたものは今は他の人を追い詰めていて
そうやって人を喰らって生きている
どうしてそこまでするんだ?
彼女の笑顔を僕から奪わないでくれ
人が人を喰らうなんて共食いだ
僕の大事な人たちをこれ以上壊さないでくれ
そして僕自身も

壊さないで

ありがとうございます。サポート代はマイク等の機材費の足しに使わせていただきます。環境が整えば音声作品を投稿する予定です。