桐木憲一

手塚憲一。PN・桐木憲一。サラリーマンと漫画家をやっています。妻・猫・ロシアンブルー・…

桐木憲一

手塚憲一。PN・桐木憲一。サラリーマンと漫画家をやっています。妻・猫・ロシアンブルー・ベンガルの2人と2匹暮らしです。Twitter: https://twitter.com/kenichi_kiiriki

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  • 小説「Webtoon Strokes」

  • 手塚家の日々

    漫画の神様・手塚治虫の長女・手塚るみ子と、サラリーマン漫画家の桐木憲一と子猫の生活を描いたエッセイ漫画です。

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小説「Webtoon Strokes」12話

創作において、最も厳しい判断を下すのは担当編集者でも、編集長でも、経営者でも、クライアントでもない。その作品に対価を支払って読む読者である。時に編集者が作品に対して厳しい修正を指示するのは、それを理解しているからに他ならない。 エンターテイメントは制作に関与する作家のアーティスティックな側面を含みつつ、最終的にはサービス業となる。需要がなければ供給もされず、作品は淘汰されていく。これは極めて民主的な形の循環である。 コミックアングルの制作第一弾のウェブトゥーン作品「転生し

    • 閑話休題 小説「Webtoon Strokes」について

      いつの間にやら小説も10話も超えたので、閑話休題的に与太話をしてみようと思います。 元々ウェブトゥーンの業界を舞台にした物語を描いてみたら面白いのではないか?と思っていまして、当然それを形にするならウェブトゥーン形式で、と思っていたのですが、業界お仕事ジャンルと言うものがウェブトゥーンでは少ないですし、それを誰が描くのか?予算はどうするのか?など現実的な問題もあり、構想はしつつも中々商業作品として実現するのは難しいなと思っていました。 しかし、恐らく今この現状でウェブトゥ

      • 小説「Webtoon Strokes」11話

        コミックアングルの初のオリジナルウェブトゥーン作品、 「転生したら円卓の騎士でした」 がリリースされる日が近づいて来た。 担当編集者の木村の目からして作品の質は合格点。カラーも仕上げも他社の現行作品と見比べても見劣りしない。後はどう売り出すかが編集者として重要なポイントなって来る。コミックアングルは新興のスタジオの為ブランド力も無い為、レーベルとして売り出す際に多くのユーザーへどう届けられるかがヒットの鍵となってくる。 その際に、ウェブトゥーンの電子配信の手法として、

        • 小説「Webtoon Strokes」10話

          「友達なんかいらないさ、金があれば良い」 ドライブの途中、カーラジオからふと流れてきた邦楽の中の歌詞が、新庄社長の生き様とその信念に奇しくも重なった。今年40歳を迎える新庄に友達や親友と呼べる存在は居ない。いるのはただ金の力に従う人間だけだった。 日本でも屈指の資産家の家系に生まれ落ちた新庄美智雄は、金の重みやその欠如を感じることなく、これまでの人生を歩んできた。 彼は自分の行動や言葉に、他者からの疑念や訂正を受けたことは記憶の中に微塵もなかった。常に彼の影の中には、声

        小説「Webtoon Strokes」12話

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        • 小説「Webtoon Strokes」
          13本
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          24本

        記事

          小説「Webtoon Strokes」9話

          仕上げの担当者の白石が、勢いよくチャットに文章を書き込んだ。 「ウェブトゥーンの仕事って全然儲からなくない?」 「思ってたより作業量多いし・・・。」 「修正もフィードバックも何回も入れるの?って感じ。」 「なんか編集の木村さんも頼りないし、進行大丈夫なのかな?」 楓が誘われたチャットツールのグループではスタッフのみが招待され、今回のウェブトゥーン制作についての本音が赤裸々に話されていた。 背景担当のマロ、着色担当のzzz、仕上げ担当の白石、がそのグループのメンバー

          小説「Webtoon Strokes」9話

          小説「Webtoon Strokes」8話

          ウェブトゥーン1話の分量、70コマ。 ネームのコマをスクロールする度に、木村の胸中は確かな手応えに心を打たれていた。現代の女性がアーサー王の古の世界に足を踏み入れ、騎士ランスロットとして転生するヒロインの運命が織りなす物語の筋が、絵に宿る躍動感とともに目の前に展開されていく。 しかし、ウェブトゥーンの編集経験の浅い彼にとって、このネームがどの部分で彼の心を捉えてたのかを、正確に言葉として表すことは難しかった。編集者としての立場からすれば、それは大いな失態かもしれない。物語

          小説「Webtoon Strokes」8話

          小説「Webtoon Strokes」7話

          スマートフォンで縦にスクロールさせつつ読んでいくウェブトゥーンには、読者の指を引き止める力が求められる。楓はその秘密を知りたく、ネームの研究を始めた。彼女が感動を受けた作品の作画やコマ割り、それらの背後に隠れた意味を追い求めながら、模写を始めた。これは過去に読んだ漫画指南書に記されていたネーム学習法だった。純粋に観察するだけでは作品の奥深さに触れることはできない。そこで、楓は「模倣」が真の「学び」への第一歩であると悟った。西洋画の素描同様、自らの手で描き出すことで、コマの構成

          小説「Webtoon Strokes」7話

          小説「Webtoon Strokes」6話

          PCの画面上には、楓と木村の姿が静かに映し出されている。どちらもうつむき加減に、覇気のない表情を浮かべている。その顔つきだけで、この会話が楽しいものではないことは一目瞭然だった。 「1話目のネームの締切って、もう2週間後でしたよね。」 オンラインツールを介して打ち合わせを重ねる二人。共有画面には、ネーム作家ponchoの手によって生み出されたネームが大きく表示されている。 木村は画面に映るネームを改めて、じっくりと目を通す。楓の指摘は鋭い。このネーム、それはまるでアニメ

          小説「Webtoon Strokes」6話

          小説「Webtoon Strokes」5話

          この世界は、生を受けた瞬間からその不平等さを突きつけるものだ。 作家"poncho"として知られる高山美波は、その不平等の頂に立つような環境で育った。彼女は裕福な家庭の愛情の中、高い教養を身につけ、天使の如き容姿を持って生まれた。周りの人々は彼女に対して、常に暖かい視線で接してきた。その恩寵は、美波にとっては天からの恵みのようなものであり、彼女はその全てを無邪気に、そして当然のように受け止めてきた。 彼女の20年の人生は、世界がどれほど自分に優しいものであるを証明するもの

          小説「Webtoon Strokes」5話

          『アオイホノオ』のドラマが面白かった!

          ドラマ版『アオイホノオ』をAmazon Primeで視聴し、レンタルで一気に全話見てしまいました。 その魅力の一つは、見知っている登場人物や舞台設定が織り成す漫画業界ならではの親近感にあると思います。このドラマについては先にほとんど情報を得ずに視聴したため、観ているうちに役者の演技や演出の個性に気がつき、今更ながらそれが福田雄一監督の手によるものだと知り驚きと納得感が沸きました。 これまでに福田監督の作品を何度か視聴したことはあったものの、コメディやギャグの要素に対しては

          『アオイホノオ』のドラマが面白かった!

          小説「Webtoon Strokes」4話

          ネームとは、漫画の制作において最も重要とされる過程である。そこにはストーリーテリング、コマ割り、台詞、間の取り方、キャラクターの演技、構図といった、一作品を形成するすべての要素が包含されている。完成度は作家によって異なるが、一部の作家はこのネームを下書きとして使用し、直接原稿を完成させるまでに至る。ネームは漫画の設計図とも言えるものなのだ。 横読みの漫画において、原作と作画が別々の作家によって行われる場合、ネーム作業は主に作画担当者が引き受けることが多い。原作担当者から提出

          小説「Webtoon Strokes」4話

          小説「Webtoon Strokes」3話

          楓は吉祥寺のルノワールで、友人の塔子と共にお茶を楽しんでいた。駅に近いこのカフェは、常に適度に空席があり、楓の好きな隠れ家だった。 塔子は、同人誌サークル"幻想画廊"のパートナーで、絵の雰囲気は楓と異なるが、漫画への嗜好は共通していた。彼女たちは一緒になると、常に漫画や絵について語り合っていた。 「え? ウェブトゥーン? 縦読みの漫画のことだよね? 楓、その仕事を引き受けるの?」塔子が尋ねた。 「どうしようかなって思ってて、迷ってるんだよね。」と楓が答えた。 塔子は視

          小説「Webtoon Strokes」3話

          小説「Webtoon Strokes」2話

          楓のウェブトゥーンにおける最初の打ち合わせは、オンラインミーティングで行われた。 画面に映る彼女の周囲だけは相手に良い印象を与えるために慌てて整えた。彼女が開いたパソコンの画面の向こう側には、30代前後と見受けられる男性が包み込むような笑顔を浮かべて座っていた。 「初めまして、コミックアングルの木村です。よろしくお願いします。ハイ。」 ウェブトゥーン制作スタジオ、そして電子書籍出版社の世界は未知の領域である楓にとって、彼が名乗ったレーベル名は初耳だった。コミックアングル

          小説「Webtoon Strokes」2話

          小説「Webtoon Strokes」1話

          ワンルームの小さな空間で、楓はデスクの前に静かに座っている。彼女の手には最新のスタイラスペンが握られ、その先端が青白い液晶タブレットの画面に照らされている。彼女が描き出すのは、カールを巻いた髪を持つ中世の女性だ。その美しいラインは、楓の手によって液晶画面に一筆一筆と描かれていく。 楓の作品は、ウェブトゥーンとして知られるデジタル漫画の形式だ。これは、伝統的な日本の横読み漫画とは異なり、スマートフォンでの閲覧に最適化された縦読みのスタイルを採用している。これらの作品は主にフル

          小説「Webtoon Strokes」1話

          「手塚家の日々」第二十三話

          「手塚家の日々」第二十三話

          「手塚家の日々」第二十二話

          「手塚家の日々」第二十二話