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これも芸の肥やし

 桂米裕という落語家がいます。人間国宝に認定された桂米朝氏(故人)の一門で、ABC優秀新人賞も受賞しています。
 この桂米裕さん。岡山のお寺の娘さんと恋愛し結婚して、その寺の住職を継ぐことになりました。で、師匠の米朝氏に相談に。破門されるかと思ってハラハラしながらも思い切って言ってみた。「落語家をやりながら住職もしたい」。頭の中でぐるぐる思考が回っていた。
 
 師匠からは、恐らく次のような言葉で一喝されるのではと想像した。「落語一筋で懸命に精進してやっていても、芸の道というのは、なかなか究められるものでない。それなのに、ほかのこともやりながら落語もやる、おまえは、何を考えてるのか!」。
 もしくは、次のようにたしなめられるかとも考えた。「寺の住職が、副業で、テレビとかラジオに出てお笑いやってたら、檀家の人たちもあまりいい顔はしないだろう。落語家やめて住職に専念したらどうか…」。
 
 そうしたら、師匠からこんな答えが返ってきました。弟子の目を見て身を乗り出して一言。「落語家と住職を両方する。おもろいやないか」。
 さすが人間国宝、米朝師匠。道を究めた人は、発想が豊かで、器が大きいですね。「そういう生き方も、おもろいやないか」と肯定している。いい生き方とか悪い生き方とか区別する次元を超えていますね。「何ごとも芸の肥やし」ということでしょうか。

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