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【食事制限∞日目】終わりの始まり 波乱万丈のポリープ除去手術

3日間の食事制限を終えた私。
その最終ゴールは内視鏡検査だった。
もっと詳しく書くと、大腸のポリープを除去するための内視鏡検査、というか手術。
手術のことを書くつもりはなかったんだけど、人生初の経験だったのと、それが想像以上に予想外の連発だったので、まとめておくことにした。

起床 〜おうちでの最終調整〜

朝7時起床。
ニフレックという腸内洗浄のための薬を飲む。
薬というと粉末状のものや錠剤などを水で飲むのを想像するが、これはそうじゃない。
2リットルの水が入るビニールの袋に白い粉末が入っており、それを溶かして飲むのだ。
一気に飲むと体に良くないらしく、まずはコップ一杯のそれを15分かけてゆっくり飲むよう注意書きがされている。

これが本当に飲みづらい。
インターネットで調べると、スポーツドリンクと海水の間のような味と出てきたが、なんてたとえ上手なんだろう。
まさにその通り。
飲んでいるとだんだん気持ちが悪くなってきて、でも飲み切らなきゃと無理やり口に入れてみるが、体が拒否する。
残り500〜600ミリリットル残したところでギブアップしてしまった。
とはいえ、その時点で腸内の状態は万全だったので、薬の入ったビニールとコップを台所に移動し、出発時間までごろごろすることにした。
おそろしい素人判断。ごめんなさい、病院の人。

出発 〜動かない電車〜

病院の予約は12時だった。
軽く化粧を済まし、出発時間までの時間をつぶそうと開いたTwitterのトレンドに目が留まる。

運休

ああ、そういえば大寒波で日本海側は大変なんだっけ…不要不急の外出は避けてくださいという気象庁からの発表が出たくらいだもの。
日本各所、雪で電車が止まっているのかしら。
と、なかばひと事でその文字をタップする。

○○○○線 人身事故の影響で運休

をい。
もろ私に影響あるやつやないかい。
しかも病院まではその沿線を使うしかないので、振替も利用できず。
バスという手もあるんだろうけど、普段使わない交通手段を使うのは悪手な気がしたので、タクシーを使うことにした。
ついていないな、と思いつつ、運転手に行き先を伝え、病院へ向かう。
ただ、なんとか予約時間には間に合いそうだ。

到着 〜病院内で迷子になる〜

病院の玄関前にタクシーが乗り付けたのは、予約時間の5分前だった。
受付の自動端末を操作し、出力された紙をもとに消化器科のあるエリアの待合席に座る。
前回来た時にも思ったが、とても大きな病院だ。
迷うことなくここに辿り着けたのは、分かりやすい案内板や自動端末などでシステム化されているおかげだ。

すぐに名前を呼ばれ、保険証を提示する。
いよいよか…と内心ドギマギしていたら、受付の女性からあなたの目的地はここではありませんよ、と伝えられる。

紙に書いてある通りの場所に来ているはずだが…?
システムの不具合…?
まぁそんなこともありますよね、こんなことで私は騒ぎ立てませんよとクールに対応。
改めて伝えられた目的地へ向かうことに。
案内し慣れているのだろう、その女性の説明はとても分かりやすかった。

「あちらに見えるエレベーターで下におりて通路をまっすぐ行った先の14番の窓口です」

ふんふんふんふん。
理解、理解。
ありがとうお姉さん、と一礼しエレベーターに向かう。
声の通る人だったな。耳の遠い患者さんも多いだろうし、必須スキルなんだろう。とても感じのいい人だな、などと考えながらエレベーターに乗り目的のフロアに到着。
11番窓口だったっけ?どっちだ?とキョロキョロ辺りを見回すと「11」と書かれた場所はすぐに見つかった。
が、そこはただの診療室の一室にしか見えなかった。
おや?11番じゃなかったっけ?あれ?

鳥頭がすぎる。
正解は14番なんだけど、そんなことはもう記憶にないので適当にフロアを歩いて目的地を探すことに。
ここでふと思い出す。
前回の診察で最後に説明されていたことを。

「自動受付機では○番と書かれた紙が出てくると思うんですが、処置室は別の場所になるのでそちらへ直接来てくださいね」
「案内の紙にも書いておきますね」

…あ。
そういえば、そうだった。
事前説明を受けた際、同意書の控えやら食事制限に関する注意事項やら、大量の用紙をもらっていたのだが、その中に手書きで修正されたものがあった。
なんなら、2枚あった。
2枚の用紙に丁寧に14番と書かれていた。

それを思い出す頃には、自力で「内視鏡〜」と書かれた案内を見つけ出すことに成功していた。
奥に確かに「14」の数字が見える。
なんか、いろいろごめん。

受付 〜立ちはだかる関門〜

小さな窓口に自動端末機から出てきた紙を差し出すと、まずは熱を測るように指示を受ける。
体温計をわきにはさみ、ピピピと音が鳴るのを待つ。
思ったよりも時間がかかるので、もしやエラー?と確認しようとしたところで音が鳴る。
ほっとしながら体温計を取り出し表示を確認してぎょっとする。
気まずい気持ちで受付にそれを渡す。

「え!?37度…?」

正確にいうと37.2度。
はっきりと言われてはいなかったが、熱がある状態では手術は受けられないだろう。
食事制限をしてきたこの3日間がすべて水の泡…?

体温計を受け取った女性も想定外といった感じではあったが、私に比べるとよっぽど冷静で、「上着を脱いで、時間を置いてまた測ってみましょう」と言ってくれた。
よかった、その場で即帰宅という事態にはならなかった。

ダウンジャケットとマフラーを傍に置き、渡された問診票2枚に記述する。
次測った時、また熱があったらどうしよう…。
ていうかなに37度出してくれちゃってんの、私の体温。
体調はお腹がぐるぐるなくらいで、他はいたって通常だのに。
自覚症状は全くない。

もしかしてあれか。
ヒートテックの上から測ったからか…?
たしかに、先ほど体温計をわきに挟む際、地肌にではなくヒートテック上に挟んでいた。
そんなことで熱が上がるのかは分からないが、考えられる原因はそれくらいだ。
スマホで「ヒートテック 体温計」で検索してみるが、どちらともつかない検索結果しか出てこない。
とりあえず、今度はちゃんと地肌ではかろう…
そう心に決めていると、先ほどの女性が体温計を持ってやってきた。

「では時間も経ちましたのでもう一度お願いします」

ドキドキしながら、体温計を受け取る。
今の私は、さながら計量前のボクサー。
少しでもオーバーすると失格だ。
熱出ちゃ、ダメ絶対。

あまりにも不安だったので体温計を挟むわきの力を少しゆるめてみようかな、と邪な考えを巡らせたところで検温終了の音がピピピと虚しく鳴り響く。
果たして、結果は…?

「36.8度でした、でへへへ」
ヘラヘラしながら受付に体温計を返却する私。
第一関門、突破である。

着替えと点滴 〜私が抱える懸念事項〜

検温クリア後、更衣室のロッカーの鍵を渡されてからしばらく待っていると、先ほどとは違う女性が、すごい物音を立てながらやってきた。
手に持っていた小型の機械を落としたようだ。お茶目。

その人に記入した問診票を見ながら色々と質問をされる。
先ほど落としていた機械に繋がったクリップのようなものを指先につけられ、なにかを計測しようとするが、機械がうんともすんともいわない。
さっき落としたから壊れちゃったかしら、と言いながら何度か電源のオンオフを繰り返していると、機械から軽快な音が鳴る。
どうやら復旧したようだ。
その機械で計測した数値(どうやら脈拍らしい)を手元の用紙に書き込み、特に問題がなかったのだろう、そのまま更衣室へと案内された。

更衣室の説明を受け、少々頼りない検査着を見に纏う。
靴は自前のものを履いたままで、靴下も処置前に脱ぐとのことだったので、かなり不格好になってしまったが、ここは病院なので格好がどうだとかは考える必要がない。
それに、検査着の中はお尻に穴が空いた紙パンツ一枚だ。
私は無敵だ。
こわいものなどなにもない、かかってこいファッショニスタ!

更衣室から出ると、小さな部屋に通される。
処置前の最終準備と、術後の休憩に使う部屋のようだ。

リクライニング式のソファに座らされ、血圧や脈拍を計測される。
点滴をするために右手首の血管をサワサワされる。
その様子を興味津々に目で追っていると、「きりみさんは(血管に針を刺す様子を)見ていられる人なんですね」と言われ、なんだか誇らしい気持ちになる。
別に褒められたわけじゃないのに、マスクの下で鼻の穴を膨らませる。

私が見すぎていたせいか、一度目は針がうまく入らなかったみたいだが、二度目は無事うまくいったようで、点滴がスタートする。
ひまだったので、「この点滴ってなんですか?」と質問してみると、パックに入っている成分の説明(を受けたが内容はあんま覚えてない)と、この管からこのあと使う眠くなるお薬を入れるんですよ、と教えてもらう。

あ、そういえば。
病院に来る前、聞いておこうと思っていた質問があったことを思い出す。

「その、眠くなるお薬っていうのは、効き目に個人差があるんですか?」

なんでこんなことを聞くかというと、前回内視鏡検査を受けた際にも同じように「眠くなるお薬」を使ったのだが、これが全く眠くならなかったのだ。
検査前の説明では、「投与後すぐに意識が薄らぎ、目が覚めたら検査が終わっている、なんてこともありますよ」と言われていた。大体の人はそうだ、と。

これまで、歯医者以外での麻酔経験がなかったので、その説明を受けてワクワクしていた。
外的要因で混沌とする経験なんてそうないから、どんな感覚なんだろうと。
期待していたのに、眠くなることは一切なく、意識のある状態で検査は進んだ。

もちろん、痛みはない。
だけど、意識ははっきりしているので、看護師さんに紙パンツについている紐をぶちぶちぶちっと引きちぎられたことや、下腹部でいろいろなことがなされているのは、目に見えずともなんとなくわかってしまい、なんとも言えない気持ちになった。
大体の人には効き目があるお薬なのに、私には全く効き目がなかったのはなんでだろう?
できるなら、私も気絶していたい。

だから、聞いてみたのだ。
前回全く眠くならなかったんです、なんでですかね?と。

「お酒が強い方は、耐性があるみたいで効きにくいですね」

え。

「お酒、強いの?」

あ…よく、のみます。(強くはない)

「あら〜。でもまぁ、力は抜けるから(=痛くないから)大丈夫よ」

いざ本番! 〜マックスです〜

絶望と不安を抱えた私に、じゃあ移動しましょうか、と促す看護師さん。
言われるがまま点滴をコロコロ転がし手術室へ移動する。
通された部屋はとても広く、その一角にベッドがちょこんと置かれているだけの簡素な場所だった。
ベッドの周りには大きなモニターやいろんな機械が置かれている。
最後の本人確認で、モニターに映し出された名前と生年月日を確認させられる。
「チリミさんで間違いありませんね?」と微妙に違う名前で呼ばれたが、モニターの情報が正しかったので特に気にしなかった。

ベッドに座らされ、履いていた靴と靴下を脱ぐと、左向きに寝転がるように指示を受ける。
その状態で、左腕には血圧計と、右手の人差し指には脈拍を測るクリップを装着される。
「お待ちくださいね〜」
と言われ、先生を呼ぶ段取りをしている様子が聞こえる。
いよいよ、はじまる…!

数分待っていると、足元から医師と思われる男性の声が聞こえてきた。
私は寝転がっている状態なのでその風貌を見ることはできなかったが、声の印象で割と若い人かな?と判断できた。
この人が主治医のようだ。
その声とは別の男性の声が頭上から聞こえる。

「ではこれから眠くなるお薬を入れていきますね」

それ、私は眠くなりませんけどね?
とその薬に対してすっかり拗ねてしまっている私は心の中で返事をする。

そんなことを思っていたら、薬を注入されたあとすぐに、鼻のあたりがほんの少し、酔っぱらった時のような感覚に襲われた。
うまく表現できている気がしないが、なんかそんな感じ。

あれ?これきたんじゃ?と期待させる感覚だった。
このまま気づけばさっきの個室に戻っている展開希望。

「では始めます」
そして下腹部でごそごそと色々なことがなされている感覚。

うん。
全部わかる。
意識、はっきり。
記憶鮮明。

もう〜〜〜〜〜〜!!!!!!

ていうかなんなら、痛い。
痛いというか、圧迫感でつらい。
「うっ」「ぐぅっ」という声が自然と漏れる。
その声に、「お薬足しますね」という神の声。

麻酔マシマシ。
やった、ようやくこれで眠れる…。

「うぅ」
「ぎゅうぅ」
やむことのない私からの言葉にならない声。

全然きかねぇ〜〜〜。
痛くはないんです。だけど、つらいんです。
うまく伝えられないんだけど、そんな感覚で涙が出そうになる私に、先ほどの看護師さんが優しく声をかけてくれる。
「大丈夫?つらい?お薬足しましょう」

あああああありがとう、天使って本当にいるんだ。
さらに足される麻酔たち。
これで私も…。

「ん゛ん」
「ひぅ」

全然飛ばない、私の意識。
しっかり張り付いて離れない。
なんだよ、お酒飲むとあんな簡単に記憶なくすのに、なんでこんな時だけしっかりしがみついてくるんだよ。
いつでもそうであれよ。

つらそうな私をみて、看護師さんが医師にさらに麻酔を足せないか確認するが、返ってきた言葉は「もうマックスです」
私にとっては絶望の言葉だった。
もうこれ以上は、ない…のね。

薬での対処ができなくなったので、看護師さんがおなかを抑えるなどのフォローをしてくれる。
素人の私にはそれに効果があるのかはわからないが、触れられていると少しはマシになったような気分になる。
あとは私を安心させるためだろう、優しく声をかけてくれる。

手術中、2、3回は言われたと思う。
医師にも説明していた。
お酒強いみたいですよ、って。

紹介してくれてありがとう。
だけど私は、この時ばかりはさすがに「お酒やめようかな」と思った。
それくらい、つらかった。

無事終了 〜全部覚えてるからな〜

私のポリープ除去手術は思いのほか難航したらしく、終了時に声をかけてくれた主治医の男性から「大手術になっちゃいました」と冗談めかして言われるくらいだった。
途中、この医師が「(ポリープがどこにあるか)わかんないです」とサジを投げそうになっていた瞬間も、私ははっきり記憶している。

麻酔を担当していた医師が彼よりも経験があるらしく、アドバイスをしている様子も聞こえてきていた。
「俺もOBからの患者を検査したら全然見つからなくて、その時はほんとに汗が止まらなかったよ」
今思い返すとアドバイスっていうか自分の失敗談で励ましてるだけのやつだった。
全部聞こえてるし鮮明に覚えてんぞ。

色々と問題は発生したが、手術自体は成功し、ポリープも無事摘出できたようだ。
術後のはっきりとした意識の中、看護師さんにパンツと靴下を履かせてもらい、起き上がってベッドに腰掛ける。
その様子をみて、「お酒強いのね〜」と再確認をされる。

普通なら車椅子で先ほどの小部屋に移動するらしいのだが、私にはその必要がなかったので、来た時と同様、点滴のパックをコロコロ転がしながら移動した。
その後は15分ほど椅子に座って体を休ませる。
ここでぼんやり眠くなってきたが、いまさら意味はない。
しかもぼんやり程度で、眠りにつくことはなかった。
バックヤードで、主治医が「難しかったです!」と言っていたのが印象的だった。

帰宅 〜まだまだ続くよ想定外〜

15分が経ち、先ほどとは異なる看護師に声をかけられる。
「一度立ってみましょうか?」と意識がはっきりしているかどうかのチェックをされる。
お姉さん、私は酒が強いんだぜ。心配ないぜ。

そのあとはそそくさと検査着から自分の服に着替え、術後の注意事項について説明を受けてすぐにその場を後にした。

会計用の窓口へ移動し、そういえばお金払うんだっけなと現実に戻る。
いや、ずっと現実なんですけどね。
会計を待っている間ひまだったので、そういえば流石に電車は復旧しているかしら、と思い運行情報を調べてみると、まさかの「運休」。
時間は14時半過ぎくらいだったか。
こんな時間まで復旧ができてないってどういうこと?と思い、さらに調べてみると、この日なんと2度目の人身事故による運休とのことだった。

こんなことある?
稀有すぎて最初に伏せ字にした路線名も意味がない。

もはや私のせいか?と思えるほどの巡り合わせにがっくりしているところを会計に呼ばれ、自動精算機ではじき出された額にさらにがっくりした。

昨日のお昼から絶食状態だったのでせめてご飯くらいは…と思ったが、帰り際に受けた注意事項で、術後数日は消化に良いもの、一週間は禁酒を言い渡されていた。

心得た私は、病院を出たあと近くの商店街にあったなか卯に立ち寄り、注文した品をよく噛んで食べた。
何を頼んだかはここには書かない。だが、一定の満足感を得られた、とだけは言っておこう。もぐもぐもぐ。

さいごに 〜終わりの始まり〜

その後はタクシーを拾って帰宅。
朝からとても長い一日だった。
いろんなイレギュラーをぎゅっとつめこんだ濃厚な一日だった。
こんな日のことはそうそう忘れることはないだろうが、記憶というのは信用ならないものなのできちんと書き留めてみた。
最後疲れてしまったのでだいぶ割愛したが、それまではできるだけ詳細に書いたので7000字近い文章になってしまった。
あ、今超えた、7000字。

私は誰かにこの不運を笑ってほしいだけの一心でここまで書いてみたのだが、これから内視鏡検査を受けるかもしれない人からしたら、もしかしたら不安な気持ちになるかもしれない。
だが安心して欲しい。
こんなイレギュラーはそうそう起きないだろう。起きてたまるかよ。
お酒好きな人だけは、十分気をつけてね。

そしてこれから一週間、禁酒生活が始まります。
数日間の胃腸に優しい生活も。
終わりは始まりの合図なのである。
お粥とうどんを極めるぞ。

それではみんなも、大腸は大切に。


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