♯002 クローゼットの中の君へ

先に書いておくけど、君自身のことをクローゼットから引き出したいわけじゃないんだ。ただ、君がクローゼットの中にいることが本当に唯一の正解なのかなって思い始めただけ。それと、クローゼットの中に居るのは一体誰なんだろうって思い始めただけ。それは君の側ではなくて私の側の不具合か不都合なんだと思う。

君がゲイであることを今後も人に言うつもりはない。

君からカムアウトされたあのときのことを思い出す。私は実はすごく混乱したんだ。
異性愛者の私にとって、君が絶対に異性に性的魅力を感じることがないってのがまず全く理解できなかった。
何回も考えたけどやっぱりよくわからなくて、でも少しだけわかったことがあった。自分の常識は他人の常識ではないかもしれないってことだ。自分の価値観で測れないからと言って世界にそれが存在しないわけじゃない。見たものが全てではないってことに気づくことができた。

あの日からもう何年も経つ。

その、何年もの間わたしは君との秘密を守り続けているし、これからも守り続ける。
誰かの特別な秘密を知っているのは、正直とても気持ちのいいものだと思う。秘密を打ち明けてもらえるくらいに自分が立派な人物なのだと裏書きしてもらっているのと同じだからだ。
だから、わたしは君との秘密をずっと守り続けている。
それが君への最も誠実な態度だとも思うからで、だからこそ君も私には打ち明けてくれたのだろう。引き換えに私は気持ち良さを手に入れた。秘密を守ることができる魂の気高さと、人の多様さを認めることのできるリベラルなわたしという2つのステキな自画像を描くことができた(笑)。

最近2冊の本を読んで、その考えが少し変わった。もしかして私のやってたことはかなり間違ってたのかもしれない、って。

LGBT特集を近所の書店でやっていて、一冊は田亀源五郎の「ゲイ・カルチャーの未来へ」、もう一冊は平良愛歌「見えていないだけで、神様もゲイもあなたの前にいます」を手に取った。田亀源五郎さんは最近「弟の夫」で有名になった、ゲイエロティックアーティストで、平良愛歌さんはゲイであることを公表して牧師になった日本第1号だ。

2人は違う道のりを歩いてきているはずなのに、言いたいことの核心が驚くほど似通っていた。

「どういう人間であれ皆尊重されるべきだし、その権利を誰かにとやかく言われる必要は1ミリもない。」

「ゲイを大切にして!」でもないし「LGBTを尊重して!」でもないところに答えがあることにとても驚いたんだよ。だって、正直に言うと、この手の本はマイノリティーだからもっと尊重してよっていう論法になるもんだとばっかり思い込んでいたからね。無意識って、怖い。

性的少数者に理解がある自分、という自己イメージに胡座をかいて私は何も進歩してなかったんだってハッとした。
例えば同性婚の話。
渋谷区や世田谷区なんかで婚姻と同等の効力を持つパートナーシップ制度ができた時、「すごいね、さすが進歩的だよねー」だなんて感想を持ってしまったんだよね。でもこれこそが多数派のヘテロセクシャルの上から目線の発想だったんだね。気がつかなかった。そもそも婚姻制度から除外されている人がいるっていうのがおかしなことで、全然進んでるわけじゃなかった。いや、今の法律よりは進んではいるんだけど。
異性愛者なら当然手に入れている権利を、苦労しないと手にできなかったりそもそも手に入れられないことに私はなんの疑問も持っていなかったんだよ。

ほんと恥ずかしい。

性的少数者に限らず私は差別をしないで生きていきたいと思ってる。思ってるんだけど気がつかない所で誰かを傷つけている可能性は絶対にゼロにはできない。自分の考えや発言で辛い気持ちになる人がいるかもしれないことを常に頭に入れておかなければいけない。私は差別をしないということよりもそうやって自分の差別意識の可能性に気がつくことこそが大事だと平良さんも書いている。

クローゼットの話に戻るね。

君は自分がゲイであることをごく限られた人にしか打ち明けていない。君みたいに限られた人にだけ打ち明けていたり、自分以外に知らせていない人のことをクローゼットの中に隠れてるって意味でクローゼット・ゲイって呼ぶんだね。

クローゼットの中に居るのは君自身の意思だと思ってたんだ、この2冊の本を読むまで。少数派だから隠れててもいいでしょう、その権利があるはずだって。
もちろん、自分の性的指向なんてプライベートなものはいちいち誰かに触れ回る必要はない。でもよく考えたらすごくおかしい。人として誰もが尊重されている世の中だとしたら、少数派である事を隠す必要なんて無い。そっちがあたりまえであって、隠すのが当たり前な方がおかしいんだね。だいたい、少数派が隠れるってことは多数派がイジワルをする前提なわけでそこをスルーして考える事はできない。どんな人にだって同じように生きる権利があるって言うのはそう言う事なんだね。

自分が、間違ってた。

はっきりと自覚したよ。じゃあこれから先、私は何をすべきなのだろう?君に「クローゼットの外へ出ておいでよ」って誘うのが正しいことなのか??
そうではないと思う。そもそもクローゼットの外の世界が恐ろしいって思われてるから君はクローゼットに引きこもった訳で、その恐ろしいままの世界に出てこいって言うのは傲慢すぎる。
すぐにできる事なんて大した事ないかもしれない。けど、君が出てきてもいいかなーっていつか思ってくれるように私が変えていくしかない。誰かがやってくれる、ではなくて自分の問題として捉える事が第一歩だと思う。そして、自分が「人権を尊重できてる」だなんて思い上がらずに日々心に引っかかった小さな疑問をひとつひとつ考えていくしかないのだろう。

いつかクローゼットの外で君と楽しく笑いあうために。

#LGBT
#人権
#田亀源五郎
#平良愛香

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