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水と空気

隔離ホテルの暮らし

海外在留邦人向けのワクチン接種プログラムを受けるため、先日から一時帰国している。現在、キルギスとインドネシアからの入国者は政府指定の隔離ホテルで10日間滞在することが義務付けられており、6畳くらいの部屋で一歩も外に出られない状態で過ごしている。とはいえ、大きな窓が付いていて外の景色を楽しむことができるので、それほど閉塞感はない。別々の部屋で過ごす妻からは昨日、よく晴れた晴天と飛行機の写真が送られてきた。食事はお弁当が決まった時間に3回配られ、水は頼めばいくらでも持ってきてくれる。リネン類は電話一本で交換可能で、足りないものがあればAmazonで注文すれば係の人が部屋まで持ってきてくれる。空調は細やかに温度設定が可能で、冷蔵庫はキンキンとまでは言わないが飲み物を冷たくしてくれて、各部屋にはユニットバスだが浴槽がある。

私と妻は生来インドア派なのもあるが、この生活に大いに満足していた。しかし、部屋と食事の写真をそれぞれの生家に送ったところ、示し合わせたかのように似たような同情の声が寄せられ、我々夫妻を困惑させた。ここで気づいたのだが、彼らと我々の間には幸せのレベルの大きな隔たりがある。

インドネシアでの隔離ホテルの暮らし

我々はここに来る少し前、インドネシアでもホテル隔離を経験した。その時に泊まったのはメルキュールホテルで、ホテルのグレードとしては今泊っているビジネスホテルよりも上等だった。

しかしそこはインドネシア。サービスの端々に、我々のよく知るインドネシアらしさを感じさせた。

インドネシア人の同僚たちは、「インドネシア人」という人間は存在しないと言う。インドネシアという国は、他民族が共生し、文化や風習、言葉が異なるので、「インドネシア人」というのはある種の共同幻想に近いらしい。ただし、我々の目から見ると、自分たちとの比較でおおらかであるという点が共通しているように映る。言い換えれば大雑把である。

我々が暮らしたホテルでの例を挙げると、

・冷蔵庫があるが、冷えない。代わりに空調は温度設定を拒否し、部屋をキンキンに冷やしてくれる。

・食事は3回、不定期に届く。朝食が7時の日もあれば、10時を超す日もある。1食だけ来ない日もあった。

・リネン、水は数回に渡り根気強く頼むといつか持ってきてくれる。

といった感じであった。批判的な文面に受け取られかねないが、勘違いしてはいけないのは、それがインドネシアの普通なのであり、ことさらインドネシアが悪いということではないのだ。自分の望みを労せず満額で得られることを当然と思ってはいけない。我々は気を抜くとすぐ幸せのレベルを上げ、本来当然でないことを当然と思い、そこに対する感謝の念を忘れがちである。よく冷えた水を飲むとき、温くなくてうれしいという喜びを見出す気持ちを持たなければならない。

そうでなければ、この生活に浸って幸せのレベルが無尽蔵に上がり続ける気配を見せる今の自分では、ワクチン接種後に再び訪れるインドネシアのホテル隔離生活を乗り越えることができそうにない。

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