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ボロは着てても心は錦

日曜日にゴルフに行った。ゴルフとは早朝の高原をジョギングし、そのインターバルにクラブでボールを打つスポーツである。上達するほどボールを打つ回数が減り、コストパフォーマンスが悪くなるという珍しい特性を持つ。

日本ではジャケットを羽織り、革靴を履いて紳士的な振る舞いでクラブハウスに入ることを求められるが、インドネシアでは入場時服装自由である。恐らく何かしらの不文律は存在するはずだが、現地インドネシア人を含めて誰もそれを守っていない。

また、日本では午前中一杯かけて前半9ホールを回り、しかる後クラブハウスへ戻って昼食を摂り、午後から後半9ホールに挑むが、インドネシアでは食事休憩なく一気通貫で18ホールを巡る。日本にいた頃は昼休憩なくゴルフをすることに体力的、精神的な点で驚きを隠せなかったが、慣れてしまった今となっては逆に、たかが9ホールを終えて食事をする意味が分からなくなった。この違いにより、日本においてゴルフとは1日かけて行うスポーツだが、インドネシアにおいては半日で終わるお手軽なものという差異がある。

ゴルフ狂はこの違いを利用して1日2ラウンド、すなわちダブルヘッダーに臨む。下手なうちにこの予定を組むと、気温30度の中で12キロ弱のジョギングと300回近いスイングをする羽目になり、TVで観る優雅なイメージと異なり、体力的に己を追い込む事態に陥る。


日本においてコース上で四季折々を楽しむことができるように、インドネシアのコースでもまた、日本とは異なる景観を楽しむことができる。

まず、郊外にしかゴルフ場がない日本と異なり、インドネシアではジャカルタの都心部にもゴルフ場が存在する。そういったゴルフ場では、すぐ奥に高層ビルを眺めながらゴルフをすることができる。「あのビルに向かって打ってください」という日本では中々聞けないアドバイスをキャディから聞くこともできる。

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足を伸ばして郊外のゴルフ場へ出向くと、豊かな自然が待っている。ゴルフ場には南国のフルーツを実らす木々が植えられており、キャディは暇なときにそれをもいで食べている。グリーンにはたまにサソリが出て、木には日本のカナヘビとは異なり立体感のあるトカゲが張りついていて、ラフにはコブラがいるので深入りは禁止されている。雨上がりは蚊が飛んでおり、刺されると最悪の場合ジカ熱、デング熱を発症する。また、通称トムキャットと呼ばれる虫がおり、不用意に触れたり潰したりすると肌が爛れるので注意がいる。

池に目を転ずると、他の海外のようにワニや鮫がいるということはないが、人がいる。大きな池になると複数人がいる。

彼らは池に打ち込まれたボールを採取し、9個集めて中古ボールとして我々に販売するという商売に従事している。12個同じ種類のボールが集まると、どこから入手したのか、そのメーカの箱に詰めて1ダースセットとして売ってくれる。明らかにゴルフ場とは無関係の人々のはずだが、彼らの間で池の縄張りやホールごとの販売権が存在するらしく、我々の預かり知らぬところで激しい争いを繰り広げている。

初めて見ると驚くが、慣れてくると河童のようなものだと思い始める。相場感を掴むと値切り交渉も行えるようになる。かつては9個で50,000ルピア(350円強)が相場だったが、昨今は少し値上がりしている。この辺りにインドネシアのインフレが窺える。

また、ゴルフ場は半ば近隣にも開放されており、近隣住民のバイクがコース横の道路を生活道路として利用していたり、お婆さんがティー周りで勝手にバナナを売っていたり、夕方、子供がグリーン傍で遊んでいたりする。

大抵のゴルフ場には周りにお金持ち用の邸宅も併設されており、庭代わりにゴルフ場が使用されている場合も多い。たまにコースを大きく逸れた球がそこに打ち込まれるのを見るにつけ、なぜこの家を買ったのだろうと疑問に思う。

そういったインドネシア固有の景色を楽しみつつ、適度なジョギングと過度な振り込みに勤しんでいるとあっと言う間に18ホールは過ぎていく。終わってみると来たときよりもゴルフボールの数が大幅に減っていることに気づくが、これも一種の寄付のようなものだと紳士的に思うようにする。クラブハウスに戻り、温度の安定しないシャワーを浴びて、キューティクルを殺す備え付けのジャンプーで髪を洗い、有意義な半日を終える。

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