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おもちゃの修理を通して見てきた「親と子の絆」おもちゃドクター19年の想いをキリトル

今回は、東海村総合福祉センター「絆」(以下、「絆」という)にある「おもちゃクリニックとうかい」で、19年間という長きに渡り活動してきた吉津 亮(きつ・りょう)さんにお話を伺ってきました。おもちゃの修理を通して吉津さんが見てきた親子の絆やおもちゃを取り巻く時代の変化をキリトリます。


吉津さんの横顔

1941年(昭和16年)生まれの82歳。
福島県南会津郡只見町出身。
日立製作所多賀工場(日立市)入社。
その後、佐和工場(ひたちなか市)に移り定年まで勤め上げる。
おもちゃドクター養成講座に参加したことをきっかけにおもちゃクリニックの活動を始める。
その他、放置林の整備、幼稚園の各種行事のお手伝いなど、多方面にわたる地域ボランティア活動にも積極的に参加。

おもちゃドクターになった”きっかけ”

2005年(平成17年)7月、東海村社会福祉協議会(以下「社協」という)が主催した「おもちゃドクター養成講座」に参加したことがきっかけです。当時、この講座を担当していた社協職員の川井さん、古市さんから誘ってもらったこともありましたが、何より、日立製作所での経験を生かして「自分でも出来そうだな、誰かの役に立てるかな」と思ったことが一番大きな気持ちでした。

左から金子記一(かねこ・きいち)さん、吉津さん、髙橋英雄(たかはし・ひでお)さん

おもちゃクリニックを立ち上げるための準備

社協の川井さんやチームのメンバーと作戦会議を重ね、みんなで協力しながら、開設に向けての準備を進めていきました。

準備にあたっては、先行して活動していた日立市の「おもちゃ病院」を何回も訪問し、運営方法や準備物など一つひとつ丁寧に教えてもらいました。
 ・始めるために必要となる手順
 ・運営に必要となる道具類
 ・その他の準備物や注意点など

2005年(平成17年)11月に「おもちゃクリニックとうかい」を開設した際に設けたルールは以下のとおりでした。

・村内及び近隣に住んでいる人を対象として、月2回、「絆」の会議室を借りておもちゃの受付をする。
・修理受付時におもちゃの状況を確認し、だいたいの費用を見積もり、修理の可否を伝える。
・診断や相談のみは無料。修理する場合は、1件100円とするが、部品代などは別途いただく。
・修理期間の目安は2週間以内とする。
・一般からの相談・修理のほか、「絆」内にある児童センターやファミリーサポートセンターのおもちゃについては、無償で修理する。

具体的活動の内容

「おもちゃクリニックとうかい」は13名のメンバーでスタートしました。月2回の窓口開設のほか、村内で開催されるイベント(ふれあい福祉まつり、やったん祭、環境フェスタ)で専用ブースを設置し、おもちゃ修理の受付や相談対応も行ってきました。多い時には、年間200件近い依頼に対応したときもありました。

持ち込まれるおもちゃ。時にはラジカセの依頼も⁉

おもちゃ修理のほかにも、村内の幼稚園などに出張し、親子工作教室なども行っていました。

そのような取り組みを評価していただき、
●2013年(平成25年)に茨城県社会福祉協議会の大会で表彰
●2021年(令和3年)に茨城県知事表彰
をいただくこともできました。

2015年(平成27年)には、設立10周年を記念して「おもちゃクリニックとうかい活動と10年間の紹介」と題した会報誌を作成しました。

会報誌の一コマ

近年は、コロナ禍の影響を受けて活動を縮小せざるを得なく、年々受付件数が減少している状況もあり、登録メンバーとしては8名いますが、実質は4名で活動を続けています。それぞれ自宅に工房を持っているので、修理するおもちゃの状況に合わせて自宅に持ち帰り、修理作業をしています。

現在、吉津さんは、「絆」の児童センターと一緒に作るおもちゃ「コロコロねこちゃん」の試作品を作っているそうです。材料はどこの家庭にもあるラップの芯と竹串とのこと。子どもたちが夢中で作る姿が目に浮かびますね。

試作に試作を繰り返しているコロコロねこちゃん

先日、おもちゃ修理の受付日に「絆」を訪問し、受付状況を見学させていただきました。

その際に、ファミリーサポートセンターの職員さんから「おもちゃクリニックとうかい」の活動やメンバーの人柄についてお話を伺えました。

「ファミリーサポートセンターは0〜2歳のお子さんをお預かりしていますが、小さいお子さんということもあり、ケガ防止が一番大切です。そのためプラスチック製のおもちゃが主体になるのですが、どうしても壊れやすいモノとなってしまいます。壊れてしまう度に、おもちゃクリニックのみなさんに修理をお願いするのですが、無償で、迅速に直していただけるので、本当に助かっています。壊れるたびに新品に買い替えることを考えれば、相当の節約になっていると思いますし、みんなで『おもちゃを大切にする』という大事な気持ちを共有できています」

なんと、児童センターとファミリーサポートセンター合わせると400個ものおもちゃがあるそうです。

ファミリーサポートセンターのおもちゃたち

最近では、一般から持ち込まれるおもちゃ修理の案件が減っていることもあり、「おもちゃクリニックとうかい」が修理しているおもちゃの70〜80%は二つのセンターからの依頼だそうです。

児童センターのおもちゃ箱

やっていて良かったと思うことは

おもちゃの修理に来てくれる方のほとんどは親子や家族で来てくれます。大事にしていたおもちゃを一緒に見ながら、修理するポイントやそのおもちゃの思い出話などに花を咲かせます。その場での何気ない会話が楽しく、好きな時間です。

これまで印象的だったのは、

高齢の女性の方が持ち込まれた「お話しする人形」。
何とか直してほしいと不安な様子で持ち込まれましたが、無事に直って手元に戻ってくると笑顔が溢れ、大変喜ばれた様子でした。普段からとても大切にしている様子や人形に対する家族にも似た深い愛情を感じたそうです。

同様に高齢の女性から持ち込まれた「ラジコンカー」。
遊びに来たお孫さんが、押し入れの奥から動かなくなったラジコンカーを見つけてきたことがきっかけで、修理をお願いしたとのこと。無事修理でき、親子2代で同じ「ラジコン」で遊ぶことができたそうです。おもちゃが世代や時間をつなぎ、家族みんなでの会話が弾むことで、温かい時間を過ごすことができたと感動していました。

「おもちゃを修理することで、そんな瞬間に立ち会えることが最高のひとときですね」とお話ししてくれました。

それぞれ自宅に自前の工房を構えています。工具も専門的ですね。

今後について

吉津さんは
「今は4人で活動していますが、みんな高齢でいつまでできるのかが一番の心配事です……(笑)

村内からの依頼のほか、ひたちなか市や日立市からも依頼されることもあり、自分たちが応えられるうちは続けていこうと話しています。

預かったおもちゃは自宅に持ち帰り作業できるし、自分のペースで作業できるので大きな負担もないのです。

でも新しい仲間にも加わってほしいな……」
と展望を語ってくれました。

取材を通して

約10年前に発行した記念誌をじっくり見せていただきました。
これまで村内外の様々なイベントに参加するなど、素晴らしい活動を継続されてきたことがよくわかりました。

そんな中でのコロナ禍。中断せざるを得なかった期間。その後、なかなか元の活動に戻れない歯がゆさを強く感じていることが、取材をとおして言葉の端々から伝わってきました。

社会の変化や子どものおもちゃ・遊びの変遷もあり、おもちゃを直してくれる「おもちゃドクター」はあまり目立たないボランティアになってしまっているのかもしれません。

しかし、この世に子どもが存在し、おもちゃがある以上、大切に使いながら次世代に引き継いでいく「おもちゃの修理」は必要なのです!

私は、「おもちゃドクター」の存在を多くの方々に知ってもらいたい。そしておもちゃを大切にする心が広がり、一緒に活動する仲間も増えていってほしいと願っています。今回の取材記事が「おもちゃドクター」を知るきっかけの一つになったらうれしく思います。

▼取材・執筆・撮影担当者

田中克朋/取材・執筆・撮影
秋田県鳥海山の麓に生まれ、就職を機に茨城県へ。東海村には50年近く在住。会社員時代にタイ王国へ出張も含めて通算8年ほど駐在し、現在も現地の人たちと交流をしている。趣味は写真をベースにインスタグラム等のSNSで村内の風景を発信すること。「T-project/東海村スマホクリエイターズLab.」では若い世代に教わりながら楽しんでいます。

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