「気流の鳴る音」オンライン読書会04 2020年5月2日/ホリム・ベイ

毎週土曜日の20-22時、気流舎の名前の元になった「気流の鳴る音」の読書会をやろうと思う。
各自が本の好きな場所を1時間黙読する読書会なので、「気流の鳴る音」が手元になかったり、読み終わっていたり、気分でなかったなら他の本でも良いというゆるい感じで続けていければと思う。
静かに雑音を共有しつつ少しくらいなら喋ってもいい図書館みたいなイメージ。

後半の1時間は、その日、どんな箇所に惹かれたかを共有する時間にしているので、雑談の時間を記録していこうと思う。企画はホリム・ベイ。

読書会というものは一般に、参加者が同じ箇所を読み、それぞれの読み方を提示し、議論を深めることで、1人で読むこと以上の収穫を得る、というものだろうと想像はしてる。(自分はあまり読書会に参加したことがない。)

だけど、この読書会ではあまり議論はしたくない。
ただ参加者が、今日はここを読み、ここに感銘を受けた。という話を聞きたい。
なるべくなら、参加者の個人的な思いを語るのではなく、感銘を受けた場所を「朗読」することで提示してもらえたら良いなと思う。

それに対しては、良いも悪いもない。ただ「あー今日あなたはそこに感銘を受けたんだね」というだけだ。

参加者同士で読書量の多さや、理解度の深さを競い合うことに意味がないように思う。それよりも、各人が本を読みそれぞれ収穫を得て、そこに集まった人の感覚を共有するイメージ。

それでは議論はふかまらないし、複数人で読んでいる意味がないのかというと、それがそうでもないと思っている。これは目論見としてもそうだったけど、何回かやってみての実感としてもそういうものが確実にある。「読書会」を開くことの可能性を毎回感じている。

参加者は同じところを読むこともあるし、違うところをあげることもある。あるいはこの読書会では「気流の鳴る音」と銘打っているけれども、別の本でも良いことにしているので、気流の鳴る音ではない本の話も混じる。

それでもその日、同じ時代の先端を共有し、読書の時間を共有し、集まった人々のグルーブがある。それを記録していきたいと思う。

議論をしない思索の深め方として、以前、気流舎でイベントをしてもらった「哲学対話」がヒントになってる。対話のゴールを決めず、結論を出さず、時間が来たら終わるスタイルの気持ち良さが忘れられない。

まずは「気流の鳴る音」から。
*参加者A

『<焦点をあわせる見方>においては、あらかじめ手持ちの枠組みにあるものだけが見える。「自分の知っていること」だけが見える。<焦点を合わせない見方>とは、予期せぬものへの自由な構えだ。それは世界の<地>の部分に関心を配って「世界」を豊饒化する。
 「わしはそいつを一立法センチメートルのチャンスと言っておるんだ。」ドン・ファンが言う。』
(「気流の鳴る音 交響するコミューン」文庫p107 「焦点をあわせない見方」)

『「世界を止める」ということは、すでにみたように、まずさしあたり「内なる対話の流れをとめる」という言語性の水準で規定される。しかし「焦点をあわせない見方」や目の独裁にたいする批判は、「世界を止める」ということがさらに、対応する身体性の水準をもつことを示唆する』
(「気流の鳴る音 交響するコミューン」文庫p108 「しないこと」)

「前に、強いからだをつくる秘密はなにかをすることではなくて、しないことにあると言ったろう。そろそろ、いつもしてることをしない時期だな。ここを発つまですわって、しないんだ」
(「気流の鳴る音 交響するコミューン」文庫p109 「しないこと」)

*参加者B

『いったんこのような「世界」のあり方が確立されると、われわれはそれを死ぬ日までくりかえし再生しつづける。たえまないことばの流れによって。
 「わしらは自分のなかのおしゃべりでわしらの世界を守っておるのだ。わしらはそれを新生させ、生命でもえたたせ。心のなかのおしゃべりで支えているんだ。それだけじゃない。自分におしゃべりをしながら道を選んどるのさ。こうして死ぬ日まで同じ選択を何度もくりかえししとるんだ。死ぬ日まで同じ心のおしゃべりをくりかえしとるんだからな。」
(「気流の鳴る音 交響するコミューン」文庫p86 「世界を止める」)

『「世界を止めるにはどうしたらいいか。」というカスタネダの問いにたいして、ドン・ファンは「まずなによりも目から重荷をいくらかとりのぞいてやらねばいかん。」と答えている。「わしらは生まれたときから物事を判断するのに目を使ってきた。わしらが他人や自分に話すのも主として見えるものについてだ。戦士はそれを知っとるから世界を聴くのさ。世界の音に聴きいるんだ。」』
(「気流の鳴る音 交響するコミューン」文庫p100 「目の独裁」)

『このような<目の独裁>からすべての感覚を解き放つこと。世界をきく。世界をかぐ。世界を味わう。世界にふれる。これだけのことによっても、世界の奥行きはまるでかわってくるはずだ。』
(「気流の鳴る音 交響するコミューン」文庫p102 「目の独裁」)

*参加者C

 『マルクスはその初期の草稿において、コミューン主義というものを、たんなる所有の平等や共有ではないものとして、次のように語る。
 「私的な所有の止揚ということは、人間が世界を人間のために、人間によって感性的にみずからのものとして獲得するということであるが、このことはたんに直接的な、一面的な享受という意味でだけとらえてはならない。すなわち、たんに占有するという意味、所有するという意味でだけとらえられてはならない。人間は彼の全面的な本質を全面的な仕方で、したがって一個の全体的人間としてみずからのものとする。世界にたいする人間的諸関係のどれもみな、すなわち、見る、聞く、嗅ぐ、味わう、感ずる、思考する、直感する、感じとる、意欲する、活動する、愛する、こと、要するに人間の個性のすべての諸器官は、対照的世界の獲得なのである」「私的な所有はわれわれをひどく愚かにし、一面的にしてしまったので、われわれが対象を所有するときにはじめて、対象はわれわれのものであるというふうになっている」「コミューン主義、すなわち私的な所有の止揚とは、すべての人間的な感覚や特性の解放である」
 このおどろくべき起爆力を秘めた把握は、しかしその後のマルクス主義思想のなかで、明確に展開されてきたとはいえない。
(「気流の鳴る音 交響するコミューン」文庫p212 「生きることと所有すること −コミューン主義とはなにか−」)

*参加者D

 「たとえばウシュマルのピラミッドの上にのぼると、「樹海」という日本語はこのためにあったのかと思う。視界のつづくかぎり、ほぼ同じ高さの緑のジャングルの地をおおう中を、ピラミッドだけが突出している。それが人間に視界を与える。ピラミッドとはある種の疎外の表現ではなかったかという想念が頭をかすめる。幸福な部族はピラミッドなど作らなかったのではないか。テキーラの作られないときにマゲイの花は咲くように、巨大な遺跡の作られないところに生の充実はあったかもしれないと思う。
 ピラミッドではなく、容赦のない文明の土砂のかなたに埋もれた感性や理性の次元を、発掘することができるだろか。」
(「気流の鳴る音 交響するコミューン」文庫p39 序「共同体」のかなたへ)

*参加者E

「南方で死刑の判決をうけたB・C級戦犯の手記などをみると、収容所を引出されて判決の場所に向かう途上ではまったく目に入らなかった道や小川が、判決の帰途にはかぎりなく美しく、なつかいしいものとして見えてくるというような記述にしばしばぶつかる。不可避のものとしての死への意識が、いったんは意味論的な回路を獲得した精神の、「未来」への意味の疎外をとつぜんに遮断するので、現在のかけがえのなさへと逆流した意味の感覚が、世界を輝きで充たすのだ。
 いうまでもなく真に明晰な意識にとっては、われわれはすべては死刑囚であり、人類の総体もまた死刑囚である。
(「気流の鳴る音 交響するコミューン」文庫p152 「幽霊たちの道」)

「いっさいの価値が空しくなったとき、かえって鮮烈によみがえってくる価値というものがある。
 仏教のいちばんいい部分には、万象を空しいと観じた時に、逆にふわっと浮かび上がってくる万象の価値への感覚があるように思う。色即是空、空即是色という転移の弁証法は、人間と世界との関係のいっさいの真理をつつむ。」

*参加者F

アメリカ大都市の死と生 (SD選書 118) ジェーン・ジェコブス (著) 黒川 紀章 (翻訳)

[新版]アメリカ大都市の死と生 ジェイン・ジェイコブズ/著、山形浩生/訳
鹿島出版会 http://www.kajima-publishing.co.jp ※ユニークなリンクがないので

参加者が持っていたのは多分旧版で、黒川紀章の訳。新版は山形浩生。

「都市論のバイブル、待望の全訳なる。近代都市計画への強烈な批判、都市の多様性の魅力、都市とは複雑に結びついている有機体である。1961年、世界を変えた1冊の全貌。」
(南洋堂書店ウェブショップ https://nanyodo.co.jp/php/detail_n.php?book_id=30607274


映画『ジェイン・ジェイコブズ ―ニューヨーク都市計画革命―』公式サイト
http://janejacobs-movie.com/index.php

「お金儲けのためだったり、目新しさのためだけに、建物を壊していく街は罪をおかしていると言える」
予告動画より本人の言葉。予告動画より、下北沢や、「気流の鳴る音」ピラミッドの話にも通ずる気がした。

*参加者G
エックハルト説教集
https://www.iwanami.co.jp/book/b246972.html
ドイツ神秘主義の源泉エックハルト(一二六〇頃‐一三二八?)の説教二十二篇と論述一篇ほかを収録.説教の中心は心の自由と平安の問題であり,苦しみや悲しみのただ中にあってもなおそれを高く超え出た在り方のあることが「離脱」の概念を介して説かれる.ユングはエックハルトを評して「自由な精神の木に咲く最も美わしき花」だといった.

*参加者H
漆原友紀「蟲師」(マンガ)
https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000030168
動物とも植物とも異なる、生命の原生体たるモノ──”蟲”。それらは時に人智を超えた現象を呼び、そしてヒトは初めてその妖しき存在を知る。ヒトと蟲とを繋ぐ存在、それが”蟲師”と呼ばれる者──。

マンガやばいな。ナウシカ、AKIRA、20世紀少年、コロナ時代を予感していたことごとくがマンガのような気がしてる。

*以下、雑談
鶴見済「完全自殺マニュアル」
http://www.ohtabooks.com/publish/1993/07/05202311.html
世紀末を生きる僕たちが最後に頼れるのは、生命保険会社でも、破綻している年金制度でもない。その気になればいつでも死ねるという安心感だ! 自殺の方法を克明に記し、さまざまな議論を呼んだ、聖書より役に立つ、言葉による自殺装置。

鶴見さんの視点は一貫して「生きづらさ」とそれを抱える人の救済のような気がしている。死刑囚が判決を受けて、「いっさいの価値が空しくなったとき、かえって鮮烈によみがえってくる価値というものがある。」ように、「自殺することもできる」という精神のお守りが、かえって生きる術を与えてくれる。


ペストが蔓延した時にさかんに「メメント・モリ(memento mori, 死を思え)」と説かれた、という話


コロナが来て、「生き抜く」という生命にとっての、うっちゃられていたファーストイシューが前面にでているように感じる。そういう意味で、コロナ時代は日々に迫力があるように思う。


あるいはまた、スティーブ・ジョブズのスピーチで「死」について話していたことなど思う。
https://www.youtube.com/watch?v=VyzqHFdzBKg
毎日鏡にむかって、今日が人生最後の日だとしたら、今からやろうすることをやるだろうか?と問いかけ、もしそうならよし、もし違うという日々が続くのなら、生き方を変えた方がいい、というやつだ。


見田宗介が自分の仕事を振り返り、これは後世に残せて価値があったと自身が思う3冊であげていたのが以下とのこと

「時間の比較社会学」(真木悠介 名義)
「自我の起源」(真木悠介 名義)
「現代社会の理論」(見田宗介)

で「気流の鳴る音」が入ってなかったという話。
「でも、『気流の鳴る音』がぶっちぎりだよねー」という話になった。


『「気流の鳴る音」は社会学にカスタネダみたいなシャーマニズムをぶっこんできて、「自我の起源」はドーキンスみたいな理系をぶっこんできてる』って話がおもしろかった。

自分も「気流の鳴る音」はカスタネダのドン・ファンシリーズのremixのように捉えていて、なんていうか完全に真木悠介作品だと思ってる。



戦後思想の到達点  柄谷行人、自身を語る 見田宗介、自身を語る
https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000818022019.html
2019年11月25日発売


梶谷真司「考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門」
https://www.gentosha.co.jp/book/b11951.html


「考えることは楽しい」開放感が得られる“哲学対話”とは
梶谷真司(東京大学大学院総合文化研究科教授)インタビュー
https://dot.asahi.com/wa/2019020700021.html?page=1


見田宗介「現代社会はどこに向かうか -高原の見晴らしを切り開くこと-」
https://www.iwanami.co.jp/book/b369933.html

(文責 ホリム・ベイ)


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