【ショートショート】春を奏でる
並んで街を歩いていた彼がふと足を止める。楽器店のショーウィンドウの前、そこに展示されているアコースティックギターにどうやら心引かれているようだった。
「そんなに気になるなら見せてもらったら?」
その場に貼り付いてしまったかのように動かない彼に私は声をかける。彼はそうするね、と言って店に入り、店員さんに頼んでそのギターを手に取った。
「ああ、これはいいギターだ。春ギターだね」
そうつぶやきながらギターの指板を優しく撫でる。
「春ギター?」
彼の言葉の意味がわからず、私は疑問を投