さとしとカナブン(童話)

 小学4年生のさとしに夏休みがやって来ました。朝起きてまず庭のイチジクの木を見に行くのが日課です。実の成り具合をチェックするためです。
 「あと1日かな」とさとしは青みが少し残っているイチジクの実を見て思いました。
 次の日の朝、きのう目を付けておいたイチジクは全体が赤みを帯びて、ちょうど食べごろです。
 「よしっ」と言って、そのイチジクをもぎ取り、そのまま半分に割って、ガブッとかじりつくと、口の中いっぱいにとろける甘さが広がります。よく熟した、トロトロになったイチジクは甘みが強く、さとしは大好きです。
 「あぁおいしい!」
 あまりの甘さにほっぺたが落ちそうになります。 
 その隣のイチジクもいい具合に熟れていますが、もう1日そのままにして、待つことにしました。
 翌朝、きのう見つけたイチジクのことを思い浮かべ元気よく起き上がり、庭に下りました。次の瞬間、さとしは「あぁ、やられた」と声をあげます。
 赤く熟して、食べごろになったイチジクには先客がいました。カナブンです。そのイチジクにベタッと足を広げてへばりつき、ムシャムシャおいしそうに食べています。
さとしはがっかり肩を落とします。でもしばらくして気を取り直し、次のめぼしいイチジクを探します。カナブンが食べているイチジクのそばに、あすには食べごろになるイチジクを見つけました。
「よしっ、あしたは負けないぞ」。

 次の日の朝、さとしはいつもより少し早めに起きました。庭に出ると、雨水をためて隅に置いてあるバケツの中で、カナブンが足をバタバタさせて動き回っています。イチジクを食べに来て、誤って水の中に落ちてしまったようです。
 さとしは「しょうがないなぁ」と言いながら水の中からカナブンをすくい上げ、手のひらにのせました。カナブンはしばらくじっとしていましたが、次の瞬間、スッと立ち上がり、空高くどこかえ飛んでいきました。
さとしはその姿を目で追いながらつぶやきます。
 「またいつでも来いよ。次は負けないからな」。 

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