労使の溝ができる理由

私が何気なくXにポストした「労使の溝は埋まらない」がちょっとバズった(というには恥ずかしいレベルだけど)のでもうちょっと深堀りを。

このページにかいてあることをざっくり言えば

〇月給30万円の人を雇うのに会社は36万円以上を負担します
〇月給30万円だと従業員の手取りは24万円以下になります
〇金額にして12万円以上、比率にして50%以上の異なりがあります。
〇よって、労使に溝ができます。
〇発展編1 お金以外に働き甲斐みたいなものが必要です
〇発展編2 事業計画のワンポイントアドバイス
〇発展編3 労働集約産業は1時間1万円稼がなければなりません


Xへのポスト内容

税理士になって分かったこと3
会社と従業員の溝はなかなか埋まらない。
会社はこいつにこんなに給料払ってると思ってて、従業員はこれしかもらってないと思う。
いろんな要因があるけど、税理士目線で語ると、、、
月給30万円の人 会社側・・・交通費と社会保険料の会社負担分含めるとなんとなく36万
従業員側・・・社会保険料と税金引かれて手取りはなんとなく24万円。
そのギャップは12万円。 労使の溝は埋まらない。

私のXより

普段思っている内容をちょこっと書いたら70リポスト(昔でいうところのリツート)もついた。普段リポストされることなどない身からすればちょっとびっくり。

キチンと計算してみた

前提条件

額面月給30万円、通勤交通費月1万円の人。
年齢は40歳。夫婦共働きで、配偶者も正社員として普通に稼いでいると仮定。子供は小学生2人というシチュエーション。昨年も同水準の稼ぎ。東京の会社勤めでサービス業。

会社員の給料から天引きされるもの

会社員の給料からは実にいろいろな項目が天引きされる。
税金として、所得税、住民税
社会保険料として健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料
労働保険料として雇用保険料
が引かれます。
計算過程は省きますがこんな感じでした。
額面給料    300,000円
所得税     △6,530円
住民税     △9,300円
健康保険料    △16,000円
介護保険料        △ 2,912円
厚生年金保険料  △29,280円
雇用保険料        △1,860円
手取り額     234,118円

Xでは、なんとなく24万円と書きましたが、24万円を大きく下回ってました。。。 
ちなみに、上記には通勤交通費を加えていませんが、加えたとしてもJRやらの交通機関にそのまま取られるので手取り額には反映してません。

会社側は月給30万円の人を雇用するのにいくらかかるか

福利厚生とかは無視して考えてみます。
会社側は月給30万円の人を雇うのにいくらかかるでしょうか。
本人に払う金額は額面30万円ですが、その他に通勤交通費、社会保険料等の会社負担額がかかります。
社会保険料等の会社負担額は次の通りです。
健康保険料会社負担分           16,000円
介護保険料会社負担分     2,912円
厚生年金保険料会社負担分 29,280円
雇用保険料会社負担分          2,945円
労災保険料会社負担分     930円
通勤交通費会社負担分   10,000円
合計           62,067円

Xにはなんとなく36万円と書きましたが、会社側の支払いは362,067円となりました。

埋まらない労使の溝

結局、月給30万円の人を雇った場合、
従業員の手取り額は234,118円
会社が負担する総額は362,067円
となりました。
差額にしてなんと127,949円、従業員の手取り額を分母とすると、54.7%の差が出る結果となりました。
会社側からすれば、Aさんのために36万円も払ってると思ってる。
Aさんからすれば、会社は23万円しかくれないと思ってる。
これはかなり大きなギャップだと思います。
会社側は実際に36万円以上払っているのは事実で、従業員側からすれば23万円台しかもらってないのも事実なので、どっちの認識が間違えているという話ではないと思います。
要するにお互い不幸というか。
会社側は従業員を23万円ちょっとで生活させていると考えなければいけませんし、従業員側は会社は36万円ちょっと負担してくれていると考えられればみんな幸せになるのですが、普通はそうは考えられないですよね。。

というわけで、会社と従業員は金銭的に見ればお互い相思相愛にはなれないというのが見て取れます。
現代版、ロミオとジュリエットなのかもしれませんね~

発展編

ついでなのでこの辺りにまつわる経営者が知っておきたいことをいくつかご紹介。

発展編1~少しでもお互いが幸せになるために

弁護士の薬師寺正典先生(弁護士法人第一法律事務所、https://daiichi-law.jp/lawyers/detail.php?pkId=31)がこんなポストをしてくれました。

とても示唆に富むポストだと思います。
大手企業を中心に賃上げが行われていますが、中小企業はそれに追随できないのは事実です。(中にはみなし残業時間を増やして見栄えだけよくしている会社もありますが。)
けれど、これは私のサラリーマン経験としても、経営者の経験としてもいえることですが、賃上げしてもその直後はテンション上がるもののすぐにその給料水準に慣れてやっぱり溝は埋まりません。
もちろん賃金上昇は大切なことだとは思いますが、同時に会社の理念浸透、働きやすい環境づくり、自分たちの存在意義を共有していくことが中長期の会社経営にとってともて重要なことだと思います。

発展編2~事業計画を作るときの考え方

事業計画を作るとき、意外と困るのが社会保険料等の会社負担額の計算。
これは、ざっくり額面給料の25%と考えてしまっていいと思います。
上述のとおり、月給30万円の人を雇用するには会社は362,067円がかかるのでざっくり給料額面の20%増しなのですが、福利厚生等も考えると25%増し、福利厚生が充実している会社であれば30%増しで考えるとよいのではないでしょうか。

発展編3~労働集約産業の場合の1時間あたりコストと目標売上

私は税理士事務所経営が中心ですから、労働集約産業真っ只中におります。
1か月に160時間勤務として考えてみますと、会社負担分を含めた1時間あたり時給は2,263円です。
しかし、従業員は月160時間稼働することはありません。(残業は考慮しないとして)
有給やら会議やら移動やらサボりやらで、おそらく実質稼働時間(売り上げを得るのに費やす時間)は30%減の112時間くらいなんじゃないでしょうか。
となると、売上を得るために費やしている時間の時給は3,233円まで跳ね上がります。ということは当たり前ですが、1時間あたり3,233円以上の売上を上げる必要があります。固定費やら賞与財源やらの確保を考えると、なんだかんだその3倍の9,698円、つまり、時間当たりの売上は10,000円でないと話にならないということになります。





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