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アイシャドウのお作法

化粧品は女にとって高価な栄養ドリンクのようなところがある。新しいものを一つ買うだけで、薄暗く沈んでいる気持ちもたちまち和らぐような不思議さ。

その中でも圧倒的に華があるスターアイテムはアイシャドウではないだろうか。もちろん肌の底力を上げてくれるスキンケアアイテムや顔の雰囲気を一新してくれるチーク、艶やかな魅力の象徴とも言えるルージュ。どれもこれもが素晴らしいけれど、メイクボックスの主役とも言えるアイテムを問われれば私はやっぱりアイシャドウだと答えてしまう気がする。

シャネルにディオール、トム・フォード。四色の美しい色が行儀良く整列したアイシャドウはどれもこれも宝石箱かオートクチュールの生地見本、もしくは端整に詰められたボンボンショコラかという程に美しくて、蓋を開ければいつだって幸せなため息が溢れる。

そうでありながら私が毎日手を伸ばすものはある程度決まっている。それどころか皮膚が薄くて何も塗らずとも瞳に影が射してしまう私は、目元のメイクはアイライナーだけかほぼ無色のシャドウだけに留め、大小のラメや瞬くパールたちを瞼の上に乗せるより机に置いて恍惚と眺めることの方が圧倒的に多かった。

だけど、つい先日気づいてしまったのだ。もしかして私、そもそもアイシャドウを塗りすぎなんじゃない?ということに。

きっかけはメイクさんの一言。

「アイシャドウは塗れば塗るほど汚くなる」

その時はうすらぼんやりと受け流していただけだった。でもある日ふと洗面台の鏡の前で思いついたのだ。塗れば塗るほど汚くなるのだとしたら、果てしなく薄く薄く塗ってみたらどうだろう?と。

結果は大正解だった。撮影でプロの手によって施される時の様なごく僅かな気配やグラデーションの再現もお手の物。目元がぐっと華やぐのにそれでいて「がっちりメイクしていますよ感」も無い。私は今までずっと必要以上の量のアイシャドウを必要以上の力で塗っていたのかもしれない。

この気づき以来、ヴァイオレットやピンク、レッド、ブルーといった攻めた色のアイシャドウも積極的に使えるようになって、ファッションとメイクを計算することが益々愉しい。今の所メイクを冒険したからと言って、家を出る直前に「これはやりすぎ?」と不安になるというよくあるトラップにも陥っていない。

もしもあなたの手元に巧く使いこなせていないと持て余しているアイシャドウがあるとしたら、力むことなくもう一度そのパレットを開いてみてください。そして気をつけることはただ一つ。

塗るのでは無く、乗せる。

これがきっとアイシャドウのお作法。

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