見出し画像

おとめノ味

クリームソーダかカルピス。小さな頃から親や祖父母に喫茶店に連れって貰うと、決まってこのどちらかを頼んでいたように思う。それ以外を飲んだ記憶が、まるでない。喫茶店ドリンクの重鎮、ミックスジュースだって、祖母がいつも頼んでいるのを横目で見ていた程度だった。

関西圏では喫茶店のメニューのドリンク欄に当然のようにカルピスの文字がある。何なら普通のカルピスどころか、カルピスをコーラで割ったものや、ホットカルピスに至るまでカルピスをアレンジしたメニューも多岐にわたる。

私が好きなのは少し薄めのカルピス。どうやら母が重い悪阻に苦しめられている最中、何とか口に出来たのが薄めのカルピスとバタートーストの組み合わせだったらしい。(不思議なもので、私はどんなものよりもこの組み合わせが大好物。胎児の記憶おそるべし)

「モーニング」の意味をまだ知らない頃、両親に連れて行って貰った喫茶店のモーニングでも、すべからくカルピスを選んでいた。家ではなかなか真似出来ないようなプロフェッショナルな焼き跡にバターがじんわり染み込んだトーストと薄っぺらいハムとカルピスのコンビネーションは、お子様ランチと同じくらいテンションの上がる食べものだった。そう考えるとカルピスは小さい頃からずっと、平和で幸せな朝の象徴だ。

幼い記憶を辿ると共に、今は姿を消してしまった飴色の瓶と少しゴワついた水玉模様の紙を懐かしみながら、今日も今日とておとめノ味に恍惚とする。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?