私の美容液

私がスキンケアの過程の中で最も好きなのは、美容液を塗る時。化粧水や乳液、クリームだけでも十分なのかもしれないけれど、美容液を塗るだけで、なんだか特別なベールを纏ったかのような気分になるところが好い。

考えてみると、私は日常生活に於いても美容液のような行為を愛している。

甘く愉しい時間に交わした言葉を一字一句記憶しておいて、翌日に反芻すること。
フォーガルの靴下に脚を通して、そのなめらかさを存分に味わいながら恍惚とすること。
鞄の中に美味しいタブレットを忍ばせておいて、ふとした沈黙に取り出し誰かと分かち合うこと。
部屋の照明を落とし、ディプティックのキャンドルに火を灯しながらキース・ジャレットを聴くこと。

そのどれもが別に在っても無くても然して変わらないことかもしれない。だけど、私にとってそれらは所謂日常の必需品以上に無くてはならないものだし、特別なベールを纏ったような気持ちになる素敵なもの。仮令霞を食べる日々になったとしても、私はこれらの行為を手放したくないと願うだろう。

勿論、青天の霹靂が無くとも、自分にとって貴重な物事というのは往々にして儚かったりする。だからこそ私は、時間や感性の浪費をしたり、知らず知らずのうちに自分にとっての美容液を無駄に指の隙間から零してしまわぬよう、本当に好きなものや好きな人を注意深く見極めていたい。ただの贅沢は醜いぜい肉やシミを招く危険も孕んでいると思うから。

そういえば、先日頂いた一通の手紙。
私の文章や言葉が美容液みたいだと書いてくださっていたのが凄く嬉しくて、とても印象的でした。本当にありがとうございます。願わくば私の言葉が誰かにとって、「在っても無くても良いけれど、どちらかと言えば在った方好いもの」になりますように。

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前田紀至子

イイねのおと6

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