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「哲学の名のもとに闘う」

2024年3月6日
 昨日、『悩める時の百冊百話』が届いた。これはじいじなのかと孫にたずねられた。今はこんなふうにカウンセリングをしていない。孫娘とは時々書斎で話すことはあるが。

 池田晶子は「哲学者 藤澤令夫さんを悼む 「善く生きる」覚悟の美しさ」の中で、プラトンを読まない人にも届く、正しい言葉を語りなさいとずっと藤澤令夫に励まされたと書いている。私もそんなふうでありたいと思って生きてきた。
「正統的アカデミズムから、およそ縁遠い場所にいる」池田が『帰ってきたソクラテス』(ソクラテスを主人公とする対話篇)を献上したところ、思わぬ評価をもらい、以来、つきあいが始まった。
 ところが、ある時、雑誌の連載に編集長が「どっこい哲学は金になる」というタイトルをつけた(この話は、池田晶子『2001年哲学の旅』による)。これが藤澤の逆鱗に触れ、二年ほど絶交の状態が続いた。藤澤はこう語っている。
「ふざけるのもいいかげんにしろって。金になるの、ならないので明け暮れている世の中を相手に、哲学の名のもとに闘おうって約束していたはずなのに、あろうことか「どっこい哲学は金になる」なんて(と怒った)」
 その後、岩波新書の一冊として『プラトンの哲学』が出版された時、池田は先生の仕事と姿勢に感動し、「かくも同じことをやっている二人が、そんなちっぽけなことでけんかしているのは、世界にとって損失なのではないかと」思って和解の手紙を出した。その書き出しがおもしろかった、と藤澤は語る。「『プラトンの哲学』を読んだ、と。感動のあまりつい筆をとってしまいましたって書いてあるの」。
 正規の門下生ではないが、と池田は追悼記事の冒頭に書いているが、こんな師弟関係はうらやましい限りである。私は研究室から離れて生きることになったが、著書を送るといつも礼状が送られてきて恐縮した。


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