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「できることなら、一からやり直したい」

2024年1月23日
 日曜日、兵庫医師会で講演(オンライン)をした。大変でない介護はないが、少しでも負担を減らし、できれば親と過ごす日々を喜びに感じられるためにはどう接したらいいかを私自身の経験をふまえて話した。
 父がある時「忘れてしまったことは仕方がない。できることなら、一からやり直したい」といった。父の言葉を聞いて、一からやり直すことはできないけれども、これまでのことは手放して、今、そしてこれからのことを考えていくしかないと思った。
 その日の夜、『サムダルリへようこそ』を観た。このドラマには、プ・ミジャとコ・ミジャという二人の海女の話が描かれている。海が荒れることが予想され漁は中止になったが、コ・ミジャは前日も何も採れなかったからと、もう一度潜ると言い出した。プ・ミジャは「明日にしよう」と止めるが、結局二人は一緒に潜り、プ・ミジャは遭難し亡くなった。夫はコ・ミジャを許せない。海に潜るといわなかったら、妻は潜ることはなかったし、死ぬこともなかったからである。
 母親もコ・ミジャを許せない。認知症を患っている母親は普段は穏やかだが、時折娘のことを思い出し激高する。娘が逝った海を眺める親はずっと忘れずにいたかもしれない。
 その母親と娘の夫がこんな話をする。
「ミジャを恨まないようにね」
「お母さんの娘を憎むはずはないでしょう」
「私の娘でなく、ミジャ、コ・ミジャを。あなたがコ・ミジャを許すことが、私たちの娘を忘れることにはならないよ」
 夫は号泣し、母親はそっと手を重ねる。

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