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高校生に向けての「外国人」としての日本人キャリアデザイン論

はじめに

高校生は、進学か就職か?
自らのキャリアデザインの大きな決断を迫られます。

ところが、進学にしろ就職にしろ、自らのキャリアデザインを実効的にするための「知識」を、高校生は、それまでの学びの中で十分に身につけていないのが通常です。
私が、高校生の時も「将来のことは、とりあえず大学に行って(就職して)から考える」という姿勢が大勢を占めていました。

確かに、このような姿勢でも成立していた現実がありますが、それは日本経済が順調だった、もしくは、日本経済が順調だったときの「貯金」があった頃までです。

1 総務省『我が国における総人口の長期的推移

しかし、これからの日本は、図1の通り約20年で3,000万人以上の人口急減期に入ります。
国力の指標となるGDPは、人口✖️生産性であることから、今後約20年で日本の国力は急速に低下することになります。

だからこそ、「将来のことは、とりあえず大学に行って(就職して)から考える」という余裕はありません。やはり、初めから適切な学部選択、企業選択をしなければならないのです。

本稿では、高校生の皆さんに向けたキャリアデザインについての一つの視点を提示したいとおもいます。それは、「変化球」のように思えるかもしれませんが、自らの価値を十二分に理解して、日本でも世界でも評価されるキャリア(Valued Career)を手に入れる視点ーー

ーー具体的には、自らを「外国人」とみなして再構築する視点です。

ーーもう我々は、自らの志向とは関係なく「グローバル人材」にならざるを得ない。

「外国人」とみなす視点:外国人の専門性

私は、『外国人雇用の実務』(中央経済社)において、「外国人の専門性は、外国人である」と述べました。

2015年から本書は、現在までに第3版まで刊行されていますが、「外国人の専門性は、外国人である」という立場を基調として、各入管法(出入国管理及び難民認定法)改正に対応してきました。

「外国人の専門性は、外国人である」とは、

α)ネイティブ外国語能力及びβ)外国文化慣習理解能力を内容としています。
これらαβは、我々日本人一般にはない専門性である一方で、非専門的・非技術的労働者である技能実習生、来日当初の若い留学生(以下「技能実習生等」とする)でも当然に有している能力です。しかし、当然に有している能力は、その当然性があるがゆえに、注目されず、活用され難い傾向にあります。

そのため、日本企業(中小企業)における技能実習生等は、「日本人でもできる」業務をしているだけであり、自らの「外国人である」というαβ専門性を活用できていません。

これは、日本企業(中小企業)の経営者側の視点からすれば、専門性を持つ人材=外国人材に単純労働をさせているという非合理的・非経済的な状況でもあります。これでは、ただでさえ経営体力(ヒト・モノ・カネ)がない日本企業(中小企業)において、自社の人的資産を十分に活用できているとは言えないでしょう。

もちろん、目の前の業務をこなすことはできるかもしれませんが、それでは現状維持レベルに過ぎず、利益が薄い自転車操業的状況等から脱することはできません。

日本企業(中小企業)が、この自転車操業状況等から脱するためには、自社の収益モデルを改革するイノベーションを起こす必要があります。

そして、その契機なり得るのが、自社に既にいる「日本人でもできる」業務に従事させている外国人材です。

「外国人」としての日本人

以上が、「外国人の専門性は、外国人である」であるという視点ですが、ここまでが前提であり、ここから述べることが本題となります(本稿冒頭で述べたとおり、一見「変化球」に見えると思います)。

「外国人の専門性は、外国人である」というのは、我々日本人にも当てはまります。

なぜなら、我々日本人にとっても、「日本人である」ことが専門性となるからです。

これは、日本と関係する外国人からすれば、日本人であれば、当然有しているα)ネイティブ日本語能力及びβ)日本文化慣習理解能力は、有益な専門性となります。

我々日本人が、自らの「日本人である」という専門性に気づき難いのは、繰り返しになりますが、αβは、日本人であれば当然有している能力だからです(日本では、専門性があると評価されない)。

だから、日本人だけの中にいるなら気づかない(日本にいるだけでは気づかない)。

一方、我々日本人は、αβ以外にも大学等で様々な分野で専門性を高めることができます。この専門性をγ)「知識」(正当化された真なる信念)と称しますが、他者から求められるレベルのγ)を身につけるのは、非常に難しいと言えます。それは、卑近な例から言えば、「難関大学」に合格することがγを身につける担保の一つになっていることからも理解できるでしょう。もちろん、大学合格は、γのスタートラインに過ぎません。

そして、αβは、日本人である高校生であれば、当然に有している能力です。

つまり、日本の高校生一般は、活かし方さえ気づけば、世界に通用し得るαβ能力を既に有しているということです。

でも、このαβ能力は、日本にいて、日本人の中にいるだけなら、その有用性に気づけない。それゆえに、この自らの有用性(日本人である)を顧みることなく、闇雲にγを得ようとして、自らの立ち位置を見失ってしまう。

「日本人であること」:前提としてのグローバル人材

モンゴル首都 ウランバートル

高校生の皆さんは、これから進路を考える段階に来ると思います。
この段階において、まずはαβについて考え、それを活かすにはどうすべきかを考えてみて下さい。この思考過程を経れてみれば、どのγを得ればよいのかーーどの選択(学部・企業)をすれば良いのかーー自らのキャリアデザインについて実効的に取り組めると考えます。

これは、世界で勝負する自らを「外国人材」=グローバル人材と見なし、グローバル化を前提としたキャリアデザインという「視点」を得ることです。科学技術の飛躍的発展と、それに伴う「ヒト・モノ・カネ」のグローバル化は、とどまることを知りません(新型コロナウイルス感染症の世界的拡大もまた、加速度的に進行するグローバル化の「裏面」である)。

しかし、少なくない日本人は、まだ「日本だけでやっていける」という「幻想」を抱いていることも事実です。この「幻想」を打ち破るためには、自らの専門性をαβ「日本人である」とし、自らを「グローバル人材」と再定義し、自らが活躍するフィールドを世界と設定することです。

但し、それは、日本が先進国であるからこそ可能なことであります(αβに経済的価値がある)。

私は、私を含めて皆さんがαβ「日本人である」専門性を活かし続けることができれば、再び日本は、世界で存在感を出すことができると考えます。それは、私と皆さんが、「日本人である」という価値を高め続けるからです。

日本人だからできる!

これを基調として自らのキャリアデザインに取り組んでみて下さい。
そうすれば、皆さんにとって実効的な「知識」を構築できるでしょう。

母校「常翔学園」での講演

参考文献 近藤秀将『アインが見た、碧い空。あなたの知らないベトナム技能実習生の物語』(学而図書)


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