「あなたではないなら、家に泥棒が入ったということになる。じつは以前から店の売上金は金額が合っていないことがあったから、これは常習犯だ。家に自由に出入りする泥棒の存在は恐怖でしかない。だから警察に連絡する」

わたしは携帯で110を押した。通話のボタンを押す仕草をして、もう一度夫に尋ねた。

「警察沙汰になるけど、もし本当にあなたなら、白状するなら今よ」

夫は言った。

「はい、俺です」

わたしはその白状によって、その年の初めに長男のお年玉を入れた袋から三万円が消えたことも思い出した。

「お年玉がなくなったのも、あなたなのね」
「さすがにそれはないよ、信じてほしい」

「さすがに」と言うのが嘘つきのコソ泥の常套句なのだ。その証拠に後日再度お年玉のことを聞いたら「俺です」と自白した。

繰り返される借金、数万円さえ手元にないのか、家族のお金まで平然と盗み嘘をつく。

しまいには「貸してと言いづらい雰囲気を作っていた」とわたしを糾弾し「借りてもきちんと元の場所に返すつもりだった」と言い訳までする姿に、この人間とは離婚をしなければ、子どもたちに未来がないと悟った。

黒い金の流れがあったからこそ、わたしはひとつの迷いもなく離婚に向けて進むことができたのだった。