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オム・テグ愛をこじらせた結果、初主演作『イントゥギ』(2013)リブートに必要なものは何かを考え始める

まずタイトルがよくない。
「イントゥギ」はing・闘技、ものすごく意訳すると「常住戦場」ぐらいになるっぽいですが、どっちにせよインディーズ臭キツすぎ。要検討。

物語はIngtoogi: The Battle of Internet Trollsとオリジナルの英語副題にあるとおり、ひとことでいえば「ネットイナゴの戦い」。
オンラインPvP戦を現実に持ち込んでみた、つまり格闘技ゲームで争っていた相手に呼び出され、まんまとボコられるオム・テグ。というところが映画のスタートです。
そのボロ負け模様が相手によってネットに拡散され、当然のように顔バレしたせいでまるで2021年みたいにマスクで顔を隠さなければいけなくなるわ(映画公開は2013年)、絶対仕返ししてやる。と意気込んでジムに通い始めるんだけど殴られたPTSDのおかげですぐビクッてなっちゃうわ、母子家庭のお母さんが仕事うまくいかないからもう海外に移住しよう、コスタリカに行こう。って急に言い出すわ、と立て続けの災厄に見舞われる主人公。
言ってみれば「口だけ達者なヘタレ」という、なんだか他人事とは思えない、典型的なネット人格なんですよ。

友人と一緒に通うことになったジムのオーナーの姪っ子が韓国映画女子高生あるあるで、気が強くキックボクシング有段者レベル、学校では孤立している(唯一の親友がパク・ソダムです)。
彼女は彼女で承認欲求を満たすため、今でいうモッパンYouTuberをやっている。

ヘタレ主人公と、なんだかんだ彼と行動を共にする女子高生の珍道中、目的地は映画冒頭でボコられた奴に仕返しすること。さて彼らは無事にゴールできるか?

ってまとめれば、へー、面白そうじゃん。ってなる(なる?)けど、残念ながら以下の問題が。
・主要登場人物が「ヘタレ男子」「女子高生」だけでなく、もうひとり「ヘタレ男子の友人」というトリオ構成になっていて、最後の彼のキャラ設定が不十分
・せっかくの主題「オンラインに浸食される現実」をふくらましきれていない。口だけ達者なヘタレが調子に乗って誹謗中傷するものの裁判沙汰になったらしおしおのぱー、みたいなエピソードが欲しいですよね?
・曲がりなりにも成長譚なので、もうちょっとオチから逆算したプロットにしないと。具体的にはヘタレ男子が逆上して女子高生に告白するシーンとか要らないとは言わないけど、それならそれでもうちょっと事前に観客に心の準備をさせろ

ここで私が連想したのは『私のボクサー』(2019)です。

オム・テグ贔屓なのでそうでない人が見たらどうなんだろう、という懸念はあるものの、最低でもキュートな作品であることは保証可能では。
こんな役も出来るのね。って「いつものオム・テグ」ではない役どころに新鮮な印象を持ちつつも、見終わるころにはなるほどオム・テグだったわ。って展開なんですが。
オムニバスの1本、30分短編として監督が2013年に発表した「Dempseyroll: Confessions」から6年、あたため続けていたテーマを念願叶ってフル尺で撮った。という物語だそうで、パンソリとボクシングの組み合わせにせよ、主人公の設定にせよ、よく練れてはいる。
のですが、パンソリ+ボクシング+恋愛+不治の病、etc., etc. 足し算で出来ているように思え、再開発で居場所がなくなるボクシングジムとかキリスト教とか、足すだけじゃなく掛け算できそうな要素がちょいちょいあるんですよ。もっと大きな作品になり得たのでは。などと無いものねだりをしてしまうのも、ぜんぶオム・テグ可愛さのあまりなので許して。

パンソリに合わせてボクシングすると面白くね? って監督とその友人の完全な思いつきを6年あきらめずにいたら長編デビューできました、ってところだけを取り出せばハッピーエンドですけど、上にも書いた通り、あまりに監督が大事にこねくり回したせいで、全体に息苦しい蛸壺感が出てしまっているんですよ。
パンソリボクサーなんて架空の設定なんですけど、そこをあえて説明しないことで不思議な空気を醸すことに成功しているものの、懇切丁寧に説明しないことでメジャー感が失われるというリスクも発生しており、その匙加減は原作監督脚本、という当事者では無理なんです。
そして、全く同じことがイントゥギにも、いえます。

『イントゥギ』(2013)を仮にリブートするなら-誰もそんなことは考えていないわけですが-主要登場人物は男女男ではなく男女に減らすか、3人なら3人の関係性を再考するぐらいドラスティックな改変まで踏み込むことが重要で、繰り返しになりますがオム・テファ兄に求められるのは愛着ある脚本をズタズタにされてもいいという心構えではないか。
まあね、そもそも主人公をオム・テグが演じることはもう年齢的に無理だし、このnote最初から最後まで徹頭徹尾、大きなお世話しか書いてないんですけどね。それよりなにより、日本国内から正規で視聴できる配信サービスを整備してくれ(17日ぶり2度目の訴え)。

Image from Official Trailer

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