【振り返り】新入社員研修2023

2023年度も4月から6月までの3ヵ月間、IT企業向け新入社員研修を実施した。無事に(?)終えることができたので、今年の研修全体の振り返りをまとめます。

e-ラーニング

新人研修が始まるのは4月からだが、研修受講者は事前にe-ラーニングのサービスを受けることができる。管理者は進捗管理ができるのだが、話を聞くとほとんどの受講生がeラーニングの進捗はボロボロなのが現状のようだ。大半は本人のモチベーションの問題ではあると思うが、個人的にe-ラーニングの内容が微妙であることも進捗が悪い一員であるように思う。
内容はパワポで作成された教材をそのまま動画にして流しているのだが、途中から音声もなくただ単にパワポのスライドが無音で流れているだけのものになるらしい。そして内容もそれだけ見て分かりやすい内容とはなっていない。せっかくシステム化されているのであれば、学習しやすい、かつモチベーションを保てるような仕組みがないと勉強のやる気も出ないだろう。
そういった機能がないのであれば、eラーニングシステムなど提供せずに、Progateやドットインストールを事前に登録して自己学習することを推奨した方が良いのでは?と思った。オリジナルのコンテンツにするなら、動画はやめてテキストベースにし、進捗を進めたくなるような機能があるシステムにしないといけないよな、と思う。

内定者研修

4月からの本研修が始まる前、3月の段階で3日間ほど内定者研修なるものをやっている。少しでもIT業界に興味を持ってもらう、もしくは基本的な知識を身につけてもらうという名目で実施している。内容としては、

  • カレー作り(カレー作りを通してプロジェクトの流れを学ぶ)

  • PC分解(五大装置を学ぶ)

  • 情報処理基礎(ソフトウェア、ネットワークなどの基礎を学ぶ)

  • Office講座(Excelの使い方を学ぶ)

といった内容になっているのだが、一新した方が良いなと思った。
カレー作りは研修生同士が仲良くなる目的で実施するには最適だが、プロジェクトの進め方に関する知識を得るのに向いているかというと結構微妙だろうと思う。
PC分解はそれなりに面白いし勉強にはなるが、ソフトウェアエンジニアを育てるのに必要な知識が得られるかというと微妙である。私自身、PCの分解を行ったのは講師になってからだが、それまでの開発経験の中でPCの分解を経験していて良かったと感じる場面はなかった。
情報処理の講義は退屈な座学になりがちなので大抵眠くなる。ほとんど暗記ゲーの内容なので自分で情報処理技術者試験の本買って読んだ方が勉強になるだろう。
Office(Excel)なんて今の時代のエンジニアが使うツールじゃない。むしろ開発現場からExcelをなくす方向で動いてくれないと困るので、教える意味などない。むしろ下手にExcelの知識をつけられて開発現場でやたらとExcelばかり使われても困るので、教えない方が良いかもしれないとすら思う。
内定者研修をするなら

  • タイピング、ショートカットキー講座

  • Notion講座

  • ChatGPT講座

あたりが今の時代にはフィットするように思う。
来年度以降も実施するなら内容の刷新を提案してみよう。

ISMS

研修とは直接関係ないが、私が所属している企業がISMSを取得した。
その結果、セキュリティに関する運用ルールが色々と増えた。
セキュリティの運用が強化されたために、新人研修の運営にも色々と影響があり、昨年度に比べると面倒なことが増えた。セキュリティの意識を高めることはもちろん大事だとは思うが、新人研修とは相性が悪すぎてストレスが多い。来年度も研修をやるのだとしたらISMSの影響を受けない形の運営をしてくれないとなかなか辛い。どうにかならないものか。

アシスタント不在

去年までは講師のほかにアシスタントが1人いて、色々と研修の業務を手伝ってもらっていた。今年は受講生の人数が昨年度よりも少ないという理由からアシスタントはつけてもらえず、講師1人での研修となった。
まあ、できないことはないのだが、細々した作業が色々あって1人でやるのは辛かった。アシスタントがいれば依頼できる作業を全て自分でやらなければいけず、長時間集中できるまとまった時間がほぼ取れなくなるのがなかなかにきつい。
アシスタントの経験は色々と勉強になるともあるし、今後講師をしたい人を育てるという意味でもいてほしいと思う。
研修生の人数がどうであれ、アシスタントが欲しい。

カリキュラム

今年はカリキュラムの内容を一新した。
「Javaを使ってWebアプリケーションを作れるようになるための技術を学ぶ」という根底のコンセプトは変わらないが、Javaの細かい部分をかなり修正した。テキストも演習もテストも一新してほぼ作り直した。
去年までのカリキュラムはEclipseを使ってJavaと同時にJSPやServletを学び、最後にSringBootを学ぶ流れだった。
今年はIDEをEclipseからIntelliJ IDEAに変えた。そしてJSPとServletは完全に廃止し、Javaの内容を刷新した。変数はvarを使うようにし、ラムダ式で関数についても学び、switchの新しい構文も使い、レコードクラスも導入するなどかなり今風の内容に改善できた気がする。
テキストの作成や演習、テストの作成がかなり大変ではあったが、結果として洗練された内容でJavaとWebの知識を学べるように修正できた気がするので、やって良かったなと思う。
研修を進めながら足りないところを随時修正するスタイルだったので、研修生に対しては不便をかけた部分あり、そこは申し訳なかったけれど、今年の研修生を利用した形でテキストをある程度洗練させることができた気がする。ありがとう今年の研修生。
課題として演習の模範解答がほぼ作れてないことが上げられる。
ChatGPTがある今の時代、模範解答などなくても演習問題をそのままChatGPTに投げればそれなりの回答は得られるので模範解答いらないよね?と思っていたけれど、理解の浅い人からするとやはり解答は欲しいらしい。
悩ましい問題だなと思う。

モブプロ

モブプロ(モブ・プログラミング)は3~4人で1つの画面を共有しながら開発を進める開発手法。研修が始まる前の案件でモブプロを採用しており、成長には良いかもしれないと思い研修でも取り入れてみた。演習問題をモブプロでグループメンバーで協力しながらコーディングしていくスタイルにしてみた。
序盤はなかなかいい感じに楽しみつつできていたようだが、カリキュラムが後半になって内容が難しくなってくると、受講生同士での理解度の差が広がってモブプロとして機能しなくなってしまった。
PC操作について学べる点や、1人で進めるのが難しい人にとってメリットもあるが、運用を色々考えないと難しいと感じた。
1人で考える力や、質問力の向上にもつなげられる仕組みとして実施する必要がありそう。

ChatGPT

研修期間中はChatGPTの使用を許可したのだが、結果として格差を広げる結果となった。毎年理解度が高い人と低い人で理解度の格差はあるが、今年度はChatGPTの存在によってその格差が広がったように思う。
理解度の高い人はChatGPTを使うことでより理解度を上げるし、理解度が低い人はそもそも何を聞いていいかもわからず、それでもChatGPTに頼って人に質問しない人が多い。結果、理解力の低い人は質問力が向上せずにずっと理解度が低いままとなった。
質問力や言語力を鍛えるうえで人間とリアルに対話することは結構大事らしい。
とはいえ、AIサービスの使用を制限してできる人の可能性を狭めたくはない。できない人がChatGPTに頼らずまずは日本語力や読解力、質問力を鍛えられる仕組みを作らなければいけないと感じた。

すぐに思いつく案としては、ChatGPTのAPIを使って独自で質問フォームを使り、そこから質問させることで研修生の質問内容を管理する方法。
誰がどんな質問をしているのかが視覚的に分かれば、質問の仕方に対するフィードバックができて質問力を鍛えることは出来そう。
問題は開発コストとAPIの使用料。
開発コストは黙って勝手に作ればいいだけなのであまり問題ではないが、使用料は結構ネックになりそうなので難しいところ。

2者面談

今年は講師と受講生の2者面談を定期的に実施した。雑談も交えながら色々話せてよかったではあるが、後半の1か月(特にチーム開発が始まってから)はみんな忙しそうだったので面談を設けなかった。その中でメンタルをやられる人が出てしまったので、チーム開発期間こそやるべきだったかもと反省。
研修の初日に性格診断を実施して、1人1人のストレス耐性や適応力が分かる状態にあったので、ストレス耐性が低い人については面談の頻度を増やすなどの対応が必要だったかもしれない。

評価軸

私が講師を担当している研修は「技術力」と「社会人スキル」の2つの軸で受講生を評価している。新社会人向けということもあり、ビジネスマナーや社会人としての基本スキルも大事ということで、そのあたりの教育にも力を入れているのだが、技術力だけの評価軸で良いと感じた。
技術力はビジネスマナーと社会人スキルを割とカバーしている。
ビジネスマナーは人から好印象を持たれるためのスキルだが、エンジニアは技術力の高い人や技術に対しての向上心が高い人の方が良い印象を持つので、技術を学ぶことがそのままマナーになる。
社会人スキルはコミュニケーション能力や報連相、確認や質問する力など、多方面に色んなスキルが存在するが、これも技術を学ぶ過程で身に付くことが多い。
技術の理解を深めたければ分からないことを質問することはほぼ必須である。その過程で質問力やコミュニケーション力が磨かれたりする。
技術を理解するには論理的思考力が必要になる。
そして論理的思考力があれば、報連相や質問は精度が上がる。
技術があれば自分に自信を持つことができ、人と積極的に話すことができたり、自分の意見を言えたり、人前で堂々と話せたりする。
技術がある人は心に余裕ができ、人からのアドバイスをメモして自分の成長につなげたり、周りの人に目を向けて気配りができたりする。
多少強引なこじつけかもしれないが、研修を実施している中で技術力の高さと社会人スキルの高さは概ね比例しているように思うので、概ね間違っていない主張であると思う。
そういう意味で、技術力を見ればある程度社会人スキルの高さも分かる。
ということで、社会人スキルの評価軸は不要で、技術力の評価軸があれば良いと思う。

最近、研修事業のトップの人と会話する機会があり、上記の話を伝えた。
その時の言われたのはこう。
「東京の場合、うちの研修を受けている人の中でエンジニアになりたくて就職した人は1~2割。それ以外はエンジニアになりたかったわけではなく、就活でたまたま受かったから入社した人がほとんど。その場合、例えば30人を相手に研修をしたとして、技術をまともに習得するのは3~4人程度。それだとサービスとして微妙。30人全員に習得されることができることは何か、と考えたとき、それは社会人スキルの方。だから社会人スキルの教育に力を入れることに舵を切った」とのこと。
なるほど。そういわれると理解はできる。そもそもエンジニアになりたくてなった人が1,2割しかいないという事実があまり理解できないではあるのだが。。。
そうはいっても、自分自身が今現在好きでエンジニアをやっている以上、ちゃはり技術に力を入れたいところである。ここはもっといろんな人と議論しても良さそうだ。

システムの活用

先の話から察するに、評価軸を技術だけにしようと思うと、技術を身につけられる人の数をもっと増やす必要があるということだろう。
そのためには、学習のモチベーションを保ちつつ、IT技術に対して興味を持つような環境を作る必要がある。
これには講師の力だけでは限界がある。
例えばProgateのようなプログラミング学習サービスは初心者が使いやすく、学習を継続しやすい作りとなっている。
このようなサービスを参考に、初心者がプログラミングの学習を継続できる仕組みを作りながら、足りない部分を講師が補足するような環境が必要なのだろう。
幸い、今はChatGPTといったAIサービスも多く存在するので、うまく取り入れることで学習を継続しやすい環境はアイデア次第でうまく作りやすくなった気がしている。

国語力

技術(プログラミング)の習得の早さは、危機感、好奇心、国語力あたりが影響していると思う。
危機感は本人の問題なので外部からどうすることもできない。
好奇心については、先に述べたように環境を用意することが大事だが、半分はこれも本人の問題なので、どうやっても興味を持たない人は外部からどうすることもできない。
国語力は多分、鍛えようと思えば鍛えることはできると思う。
結局、コミュニケーション力、報連相、質問力といった社会人スキルは国語力(文章力)が土台となっている。
そして技術を学ぶにも国語力(この場合読解力)が必要になる。
ChatGPTを有効活用できるかどうかも国語力にかかっている。
そう考えると国語力こそが社会人スキルと技術力の土台となっていると考えても良いかもしれない。
とはいえ新入社員向けのプログラミング研修で国語力を鍛えるカリキュラムを用意するのも変な話である。
自己学習用に国語力を鍛えるコンテンツを用意して、技術の理解度が低い人は自宅学習でそれを優先してやってもらうなどの仕組みが必要なのかもしれない。

台風とコロナ

今年は研修期間中に台風が発生し、その影響で数日リモートに切り替えた。
また、受講生でコロナ感染者も出て、その影響で数日リモートに切り方人もいる。
研修をリモートで実施することは別に構わないのだが、新人研修では国の助成金制度を利用していることもあり、助成金申請に対する影響が結構面倒であった。研修の実施方法などが当初の予定から変更される場合は変更が必要になるんだとか。つまり、対面で実施予定だった研修をリモートに切り替えると、それだけで申請の変更が必要になるらしい。
研修なんて受講生がどれだけ成長したかが大事なのに、実施方法の違いでいちいち申請が必要になるなど1ミリも理解できない仕組みだが、そういうものらしい。
計画通りにやらなければいけないなんて、いったいいつの時代のやり方なんだろうか。いい加減ウォーターフォールの思想から脱却してアジャイル的な考えになってくれないだろうかと強く思う。

助成金センター

先にの述べたが、新人研修は国の助成金を利用している。
その申請にあたって細々指摘があったり、謎資料の作成を要求されたりするのだが、研修業務を行う上で最もストレスなのは助成金絡みの対応だなーと毎年のように思う。
目的不明で作成に時間がかかるだけの資料を要求したり、重箱の隅をつつくような本質と関係ない細々したことを指摘されたりするのだが、あれを本当にやめてほしい。
例を挙げると、研修で使用した教材を全て提出して、カリキュラムに書いてある内容がどのテキストの何ページから何ページに対応しているのか、その対応表の作成を求められたりした。
コロナ雇用調整助成金は不正が多発していて、どう考えても審査がガバガバすぎる。明らかに不正をしている人を見過ごすような動きもあり、不正している人の味方をしているようにしか思えないこともあった。不正をしている人間に対して寛容な割に、まともに仕事している事業に対して謎に細かいチェックをして人の時間を奪おうとするのは一体どういうつもりなんだろうか。
税金で給料もらっといてそりゃないだろうと思う。
助成金センターがそんなスタンスなので助成金を利用したビジネスを続けたいモチベーションがなくなっている。
もっとまともに働いてくれ、助成金センターのおっさんたち。


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