情報処理技術者試験とアジャイル

日本で最もメジャーなIT系の資格と言えば、IPAが主催している情報処理技術者試験だろうと思う。ITパスポート、基本情報技術者、応用情報技術者などの試験がある。
私もその中からいくつかの資格を保持しているが、受験したのは新人の頃でもう10年以上前の話。

それから時がたち、今現在同じチームの後輩が基本情報技術者試験取得を目指して勉強している。
我々のチームは業務時間中に勉強会の時間を設けており、それぞれのメンバーが自分の時間でインプットした内容を勉強会でアウトプットして理解を深めたり、チーム内で知識を共有する取り組みをしている。
基本情報技術者試験を勉強している後輩からは、日々参考書から学習した内容をアウトプットしてくれるのだが、聞いていると内容に古いものが多いなと思ってしまった。
参考書自体は最近買ったものらしいので、書籍自体が古いというわけでもなさそうなのだが、書いてある内容は私が新人の時に受けていた時からそれほどアップデートされていないような印象を受けた。

少し話が逸れるが、ソフトウエア開発はウォーターフォール型の開発とアジャイル開発の2つに分類されることが多い。
私が新卒で入社した企業ではウォーターフォール型の開発ばかりだったのだが、ここ2年ほど本格的なアジャイル開発を実践している現場での開発をしている。
アジャイルな開発を経験すればするほど、アジャイルについて勉強すればするほど、ソフトウェア開発はアジャイル開発の方が圧倒的に向いていると感じるようになった。
組み込み系の開発など、ハードウェアが絡んでくる開発は全てをアジャイルにするのは難しいだろうけれど、Webアプリやモバイルアプリなど、ソフトウェアだけで完結し、かつインターネット経由でデプロイ可能な開発において、ウォーターフォールで開発を進めるメリットなどほとんどないと思うようになった。

そんな中、基本情報技術者試験の勉強内容のアウトプットを聞いていると、ウォーターフォールの開発を前提とした知識が多く登場するようで、正直、少しがっかりしたし、今更そんなことを勉強してどうなるのだろうと思ってしまった。
人月を用いた工数の計算や、WBSを使った作業の分割など、ソフトウェア開発においてほとんど役にも立たない(むしろ邪魔ですらある)知識を国家資格の中で扱うのは控えてほしいなと思った。

基本情報技術者試験も色々と変化しているようなのだが、以前、基本情報技術者の午後試験にプログラミング言語というカテゴリがあった。いくつかあるプログラミング言語から1つを選択して回答する仕組みだった。
昔その選択肢の中にCOBOLがあったのだが、さすがに時代に合わないと判断されたのか、COBOLが廃止されてPythonが追加された。
技術系の知識を時代に合わせてアップデートするのはもちろん大事だが、開発工程についても同じようにするべきであると思う。
ウォーターフォールの開発を前提とした知識を9割くらい廃止して、アジャイル開発に関する知識をプラスしてほしいなと思った。

私自身、新人の時に情報処理技術者試験を勉強し、実務ではウォーターフォールの開発を経験し、ソフトウェア開発とはこうやって進めていくものだと思い込んでいた。しかし、本格的なアジャイル開発を経験したことで、その思い込みが間違いだったと気付くことができた。

IPAの情報処理技術者試験はこれからエンジニアを目指す人たちの登竜門的な立ち位置にもなっていると思われるし、国家資格でもある。
つまりエンジニアを目指す多くの人が学習する資格になっているはずで、そのような資格試験の中で大して役に立たない開発工程の知識を扱って若手のエンジニアに無駄な知識が埋め込まれてしまうのはなんだか切ない。
日本でDXが進まない背景にはこのような要因もあるのではないかと思う。逆に言うと、IPAの情報処理試験において、ソフトウェア開発の開発工程はアジャイルがあるべき姿であるように扱うことが、日本でDXが加速する一助になるのではないかと思う。

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ちなみに、気になったのでIPAの基本情報技術者試験のシラバスを眺めてみたところ、意外にもアジャイル開発に関する内容が色々と書かれていた。もしかすると開発工程についても色々なアップデートは行われているのかもしれない。
だとしても、書店で販売されている基本情報技術者試験の参考書のアップデートが行われていなければエンジニアを目指す人たちの認識がアップデートされない形となってしまうので、資格取得を目指して勉強している人は参考書選びも結構重要かもしれない。

情報処理技術者資格を目指す人へ

これからエンジニアを目指す人、あるいはエンジニアとして働いている若手の人で情報処理技術者資格を目指す人もたくさんいることでしょう。
あくまでも個人的意見ですが、開発工程やプロジェクトマネジメントの分野において、ウォータフォールを前提とした知識は実務においてあまり役に立つことはなく、むしろアジャイル開発をする上では邪魔になる知識も含まれるため注意してください。



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