2024.4.24 草々書き申し上げ候

朝、道くんを送る。昨晩は随分遅くまで起きていて、「おしっこがでた」と言ってオムツを替えるようにせがんだ。寝室を出ると、道くんはマルちゃんの元へと一目散に駆け寄り、そのまま倒れ込んで頬をすりすりしていた。ひとしきり猫を愛でた後、音の鳴るおもちゃを手に取り「よし!」と言って寝室へ戻ろうとする。オムツは全然濡れてなくて、ただリビングで遊びたくて理由をつくっただけのようだった。恐るべし。寝室へ戻ると、道くんは案の定おもちゃのスイッチを入れて「わーらいまーしょ、はっはっは!」とおもちゃと一緒に歌うし、一本橋こちょこちょの歌が流れる度にこちょこちょしたりチョップしてきたりする。隣で寝てるアキナに怒られないように静かにリアクションをする秘密の時間。楽しかった。二歳半の道くん。毎日かわいくてたまらん。

送迎を終えて、今年の田んぼをどうするかとアキナと相談し、そろそろ芽出しにとりかかることにした。モーニングファーマーはフベンが抜けて、今年からはモリ家とjig家だけになった。フベンはフベンで家の近所の田んぼを自分たちの生活の中でやりたいとのことだ。僕らはそれが寂しくて、今年からモーニングファーマーの田んぼにフベンファミリーがいないということを直視したくなくて、なかなか田んぼのことを始められないでいた。でももう気づけば5月がくる。ひとまず芽出しだけでも始めようということになった。

その後、京都に新たにできるスペースの為の選書。鳥取の職人や僕のような素人大工みんなで改装したスペースだ。運営のテーマは「人を元気づけること」。疲れた人が訪れてマッサージを受けたり、滞在して疲れを癒やしたりするらしい。選書のテーマも「元気」や「回復」にして、読んだり眺めたりすると元気がもらえそうな本を選んだ。
9時半過ぎに家を出てjig theaterへ。三宅唱監督の『夜明けのすべて』をようやく観た。映画に出てくる人に、いわゆる「モブ」が一人もいなかった。一人一人がそれぞれの暮らしを営みながら世界の中で生きている。その中で焦点のあたった二人の登場人物の話。ラストシーンで僕は「汽水空港をいつか会社にしたいな~」と思った。映画の中に出てくる会社と、そこで働く人々の姿があまりにもよかったから。
jig theaterが近所にあってよかった。そう思いながら映画館を出た。

店に行き、今朝到着した新刊本を在庫登録する。その場ですぐタイトルと置き場、仕入れ値と売値を記録しておこうというアキナ社長からの提案だ。これをしておけば棚卸しの時、後でラクになるし、仕入れ値も把握できて良い。汽水空港では基本「子どもの文化普及協会」という小さな取次を通して本を仕入れている。全て買い切りで、取り扱い出版社にも限りがあるが、掛率が7掛けの本が多くてとても助かる。一冊一冊登録しながら「これも7!これも7!大好き!子どもの文化!」と叫びながら作業を進める。そして、最近経産省が提案した「本屋の支援案」に思いを巡らす。まだ計画途中らしいが、実際に本屋を運営している人間としては、子どもの文化普及協会のような契約金無しで様々な本を良い掛率で卸してくれる取次の存在をいつも有り難く感じているので、こうした取次、出版社、本屋の利益率を、奪い合うのではなく補填し合うような支援案が出るといいなと思う。本屋の利益率が多くなった分、出版社がしんどくなるのも良くない。かといって、「買取8掛け」みたいなきつい条件で扱っている本も汽水空港は多く、この基準に合わせ続けるのもしんどい。中間を継いでくれる取次会社の人々にもちゃんと利益が出てほしい。そして大小様々な出版社の本を「子どもの文化」で仕入れられるようになると嬉しい(現時点では取り扱い出版社に限りがある。)。
出版社から直接仕入れるという手段もあるが、最低ロッドを満たすだけの仕入れを毎回するのは汽水空港にとっては難しい。鳥取の小さな町で本屋を運営するというのは、少子高齢化&衰退した商店街のあとの町で商売をするということだ。店の前を人が歩くということはほぼ無い。そしてこの町の姿は将来のあらゆる地方都市の姿でもある。そんな中、「同じタイトルを5冊、10冊仕入れる」というようなことは博打に近い。それで汽水空港では様々なタイトルを1冊ずつ仕入れるというのが基本になっている。なので出版社との直接取り引きもなかなかできない。
というような話を経産省の人が聞いてくれるといいけどな~。と、今、南方熊楠の『神社合祀に関する意見』を読みながら思い、パソコンを開いてこれを書いている。あ、草々書き申し上げ候。

在庫登録をしながら、アキナが「前、毎月幾ら稼げたら良いって言ってたっけ?」と言うから「20万!」と答える。「今月お金無さすぎるから、昨日寝る前に色々計算してみたけど、もうちょいしたら図書館の卸しと店の売上でそれぐらいは達成できそうだよ。」と。「うおっしゃ~!!!マジか!ほれ見いの!お、れ、た、ち、が!!がんばったぞ!」と言ってハイタッチした。どうにかモリ家が生きていけるだけの利益を、ようやく汽水空港は生み出してくれる場所になりそうだ。今年で開業9年目。必死で屋根屋や建築現場や木こりのバイトし、その日当は全て汽水空港の維持費に吸収されてきた。汽水空港を運営することを、ツバメの子育てをしてるようだと感じていた。しかもこの雛(店)はちゃんと成長するかも怪しい。だけど挫けずにやってきてよかった。本当は何度も挫けてるが。
定休日の店での一コマ。なんてことのない時間だけど、汽水空港店主としてはひとつ、存在を確立させるところまでは達成できたと実感した時間だった。


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