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観光業、高付加価値化に重点を*

*令和4年7月26日付
日本経済新聞「私見卓見」欄より転載

観光庁が5月に発表した報告書「アフターコロナを見据えた観光地・観光産業の再生に向けて」によれば、観光は地域に年間55.8兆円の生産波及効果と456万人の雇用誘発効果を生み出しており、日本の成長戦略の柱であり、地方創生の切り札だという。

世界経済フォーラムの観光競争力ランキングで日本が初の首位になったと報じられ、その直後の6月からは外国人観光客の受け入れが再開された。コロナ禍が収束すれば政府の全国旅行支援策も見込まれ、国内・インバウンドの旅行需要は回復すると予想される。

観光庁の報告書は、宿泊業や旅行業が抱える積年の課題を取り上げ、地域の観光を再生する施策をまとめている。地域一体となった観光地の面的な再生・高付加価値化、宿泊業の企業的経営への転換、旅行業の誘客型へのシフトなどを提言している。

なかでも観光商品やサービスの高付加価値化と価格の適正化は優先的に取り組むべき課題である。私は最近、九州を中心に各地の観光の実情を見て回ったが、土産品の品ぞろえが画一的で、商品やサービスが驚くほど安い価格で提供されていることが気になった。世界的なインフレの加速と円安の進行は、日本の物価の安さを際立たせている。

この機に地域の観光業は自社の商品やサービスを再評価し、価格を見直し、商品を絞り込み、付加価値の高い商品を生み出すことに集中すべきだ。デフレ思考を脱却し、新しいプレミアム商品を開発することが求められている。

高価格商品を提供することへの不安感は根強いが、マイクロツーリズムやワーケーションの普及に伴い、地域に関心を持つ人口は国内でも確実に増えている。その地域でしか手に入らない商品に対して旅行者がプレミアム価格を払う用意はあるのではないだろうか。

プレミアム商品の提供には、観光に携わる人が苦労や工夫、安全性への配慮、また地域の自然や文化とのつながりを物語としてセットで訴えることを提案したい。特徴ある商品を説明する物語が共感を呼べば、価格への納得感も生まれるだろう。物語を紡いだプレミアム商品の提供により、持続的な観光地経営の確立を期待したい。

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