小説「英彦(えひこ)の峰の気を負いて」抜粋③
福永光男のこと
渋谷の喫茶店、バトーでの読書会は福永が主宰していた。彼は世話好きで、いつも飲み会の幹事役だった。高校時代から彼は会話の中心人物だった。体格は中肉中背で、高校生にしては老けた顔をしていた。人の物まねが得意で、受験勉強で退屈な高校生活の間、周囲を楽しませたのが彼の声帯模写だった。高校の先生はすべて彼の話芸の標的になった。大相撲の貴乃花やプロ野球の張本選手も得意で、彼らの真似が始まると、自然と周りに輪ができ笑いの渦が起きた。福永が受験生の憂さを晴らした恩恵は同級生