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今年一番聴いたアーティストについて

どうも、「LINEスタンプが無料で使える」、「毎週更新のプレイリストがあってそれのラインナップがクール」という2点だけを理由にLINE MUSICを使っている奇数です。

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どうやら1年で560時間34分も音楽を聴いていたみたいです。寝る時は基本ラジオ聞くし、ペーパードライバーゆえに車のBGMで音楽をかけることもないからこの560時間は「真剣に音楽を聴いていた時間」ということになります。
560時間って日数換算すると23.3日になるらしい。「どうだ、凄いだろ」って気持ちよりも「暇だったのかよ」という気持ちが勝つ。暇でした。

500時間あったらファイナンシャルプランナー1級技能士になれるらしい。「暮らしとお金」のFPとは真反対な「夢と野望」の音楽を沢山聴いてしまった。かかってこい、現実! 

その中でも今年最も聴いたアーティスト「Mom」の話でもしようかなと思います。1番聴いてるだけあって訳分からないくらい褒めると思います、だって凄すぎるんだもん。


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きっかけは2019年のAppleのCMで聴いた『Boys and Girls』だった。


サウンドも歌詞もキャッチーなのにどこか陰りもあるような音楽。こんなもの聴いたことがなかったし、あっという間に虜になった。
抽象的な歌詞が多いから含意を全て理解することは難しかったけれど、直感で「ほんとのことを歌ってるんだ」ということだけは分かった。


𓈒𓂂𓏸

本当の感情は喜怒哀楽の4つでは分類できない。そう、4つではないはずなのだけど、何か作品を作る上では「これは楽しい物語だ」とか「これは哀しい歌だ」みたいに感情を提示してあげる方がリスナーとしては消費がしやすくなる。

だけど、Momはそれをしなかった。明るい歌の中にも憂いは存在したし、反対に悲しい歌が歌われる時には蝋燭の火のような救いも一緒に歌われた。
例えるなら、大好きな人と過ごす時でさえも少し悲しい気持ちになるような、あの複雑な気持ちがMomの曲の中には含まれていた。

𓈒𓂂𓏸

Momのアルバムはそのどれもが〝時代の空気感を閉じ込めたタイムカプセル〟のように感じる。
例えば、コロナ禍にリリースされた『終わりのカリカチュア』というアルバムでは当時の鬱々とした気持ちや近年の音楽シーンに対する反発心のようなものが強く感じとれた。

ただの退屈しのぎにしてはダメなのさ
怒りは一番尊いものさ
サボテンの花に水をやるように
わりと覚悟やら辛抱やら愛がいるものさ

『心が壊れそう』

「泣ける」と謳われた映画、誹謗中傷を暗に煽るようなネットニュース、切り抜き。本来はもっと尊いはずの「感情」は均一化されて、どの作品もすぐさま消費されてしまうような時代。

ジャッジも高評価か低評価の2択、もしくは星での5段階評価。全てのものはもっと複雑なはずなのに。スワイプ、高評価、スワイプ、低評価、スワイプ、スワイプ、スワイプ

めくるめく時代の流れに誰もが少し病んでる中でMomは「怒りはもっと尊いもの」だと歌った。感情はもっと複雑で、簡単に消費されてはいけないと歌った。

光はそれぞれの胸にあって
東京タワーやスカイツリーにはないよ
―――
君が弱さを見せてくれるから
僕がいるのさ

『カーテンコールのその後で』


もちろん、怒りだけではない。愛とか、誰かを想う気持ちとか、その他の名前がついていないような暖かい感情も画一化でき得ないほどの何かで構成されていて、Momはそれと向き合っている。
気に食わないことを歌にしていることで、それらのポジティブな表現も本当だと思えた。

背中を押すでもなく、寄り添うでもない。ただ自分と同じように言葉にできない感情をいくつも持った人がこの世の中に生きていて、その感情について歌ってくれることがなによりの救いになった。

𓈒𓂂𓏸

そんなMomが1ヶ月前に約1年振りとなるアルバムをリリースした。このアルバムは“映画のサントラのようなものを作りたい”という着想から制作され、《ミッシングストリート》という架空の街を舞台としたコンセプトアルバムになっている。実際に一枚を通して聴いてみると映画を一本見たような感覚が耳に残る。


僕が思うMomの魅力の1つに「独特かつ研ぎ澄まされた言語感覚」がある。

最後の丘を越えたとこで
ヒールを履いた美女がワンと吠える

『あかるいみらい』

もしもし、 こちらみんなの SOS クラブ
絶望は鈍い金属の音だぜ

『鉄人28号になって』

上に挙げた2曲はどちらも過去作だが、歌がなくともその凄さは充分伝わるだろう。まるで自分の目でディストピアを見てきたかのような鮮明さがこの詩の中にはある。

もちろん、今作でもその才能は遺憾なく発揮されていた。

今目の前にある優しさは
数世代前においての無責任さ

『涙(cut back)』

悲しい出来事はつきまとうよ
前年度の収入を上回っても下回っても
横ばいでも Take it easy

『悲しい出来事』


ここまで本当のことを歌っているアーティストを他に知らない。「いくら稼いだって悲しい出来事はなくならない」と歌っているアーティストを他に知らない。だからこそ、その次に出てくる言葉を信じられる。

今日の悲しい出来事が
僕らの明日を映し出している
消えずに残る あの星々は
意外な光を放つだろう

『今日のニュースとこれからの計画』


怒り、悲しみ、不安、切なさ、その他複数の数え切れない感情の数々。それらは均一化すべきではなく、尊いものだ。その怒りや悲しみはいつか光になって明日を照らし出してくれる。Momはそう歌う。

𓈒𓂂𓏸

《ミッシングストリート》とはきっと人生のことだ。僕らはその中でずっと迷い続けて、孤独や社会に苛まれて、苛立ちながら生きていく。だけどきっとそれで良いのだと思う。光はそれぞれの胸にあり、そのえも言われぬ感情こそが光なのだから。



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