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指導医の思考過程をのぞく

私がERで研修医に指導をする際に、自分の思考過程をなるべく言語化し、共有するように努めている。どんなに疾患についての深い知識があっても、目の前の患者さんに対してそれを疑わなければ決して診断はできず、有用な病歴を引き出すことも、特徴的な身体所見を見つけることも、適切な検査を選択することもできない。

時間をかければ最終的には同じ結論に辿り着くかもしれないが、今まさに命の灯が消えかかっている患者にそんな時間の猶予はない。一見軽症そうな患者を急変する前に見つけ出さなければいけない。急変した場合でも、すぐに対応できる備えをしておかなければいけない。

私が救急のトレーニングをした施設は、ER好きの集まりだった。先輩・同期・後輩たちと自分たちが経験した症例のマネージメントについてよく議論し合い、よりよいERマネージメントを追い求めるようになった。私はいまだに、私を育ててくれた『仮想上級医』を思い浮かべ、その思考を模して決断を下すことがある。エビデンスではない、究極のエキスパートオピニオンだが、緊迫した現場で判断を迫られた時には非常に心強い支えとなってくれる。

上級医がなぜそのタイミングで患者さんにその質問をしたのか、なぜこの順序で検査を進めたのか、なぜ採血結果が出る前に造影CTに行く決断ができるのか、ひとつひとつに理由があり、その思考をトレーニングすることが必要である。

なかには、こんなことトレーニングしなくてもできてしまう人もいる。「普通に考えればそうでしょ」、「だって、これでしょ」と、いとも簡単にベストアンサー・ベストマネージメントを叩き出す。残念ながら、私はその類いの人種ではない。だからいちいち、考えなくてはならない。

ここで提示する思考・マネージメントが決してベストアンサーではない。ただ、これをたたき台にして、妄想トレーニングをすることで、思考力・決断力が養われるだろう。そんな指導医の思考過程を共有することで、少しでもER診療に役立てていただきたい。





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