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関数男物語〜さまよえるやばいフォルダ04〜

 フォルダ構成に悩みを抱える者同士、話が早かった。数男からの相談を受けた島倉は、早速、「文書分類番号一覧表」を提示した。

「まずは、年度ごとのフォルダを作成し、その中に、この分類番号に準じる形でフォルダを作成しましょう。」

 島倉の提示した案は、数男が何となく想定していたものとピッタリと一致していた。実は、職員室の壁面には多数のリングファイルが保管されている。それらには、3桁の分類番号が振られていた。
 島倉が処理した紙の書類は、最終的にこのファイルに保管されることになる。そもそも文書には、公的に保管年数が定められている。例えば、在籍児童の基本情報である「学籍」は20年間の保存が義務付けられている。それらを適切に管理するための仕組作りは、島倉が担っていた。

 これまで数男自身も何となく「体育関係は、209のファイル」といったように認識していた3桁の数字は、どうやら市で統一されたルールに則って振られていたらしい。その事を理解した瞬間、数男の肌が粟だった。

「これ、文書分類番号ごとに整理しておけば、自治体内で共通の認識で働けますよね?」

 数男は、目を輝かせて島倉に質問する。数男の勢いに圧倒されつつも、島倉は冷静に答える。

「そうね。例えば、体育主任であれば、フォルダ番号209を探せば、必要なデータが見つかるでしょうね。市内の全学校でこの仕組が整えば、市内異動の場合、赴任直後から、自分の分掌に関連するデータにアクセスしやすくなるわね。でも…。」

 言葉を区切った島倉の表情が曇る。

「私も事務職員の集まりの際に、何度か提案したのだけど、なかなか実現はしていないわ。」

 何と言う事だろう。数男は、大きな衝撃を受けた。島倉ほどのベテランが何度も提案したにも関わらず、実現できていなかったのだ。その背景には、一体、どのようなものがあるというのか。先日の出席簿関係の法的根拠についてもそうだ。数男は、自身の知識や経験の少なさを歯痒く思った。

「でも、高木先生がゴーサインを出したから、まずは、表計算小で実現してみましょう。実績が根拠になって、他校でも導入されやすくなるはずよ。」

 数男に声をかける島倉の目には、力強い意志が宿っていた。

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