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職員室デジタライゼーション〜深き絶望の果てに〜

 迷宮のような校内サーバーを掘り起こし、ようやく見つけた名簿ファイル。なんと、データは、Word形式だった。数男は少し、ショックを受けながらもWordデータをExcel形式に変換した。年度当初、Excelで作成した名簿さえあれば進められる事務的な作業は多い。

 名簿をCSVファイルにして、辞書登録しておけば、誤変換を防ぐこともできるし、他の資料に名前を使うときも楽である。
 名簿をもとにExcelでチェックリストを作成しておくのもいい。Excelで作成しておけば、後々、Wordに差し込むことも簡単にできる。

 そんなことを考えながら、ふと、気になったことがあったので明子に質問してみる。
 「通知表や要録って、どんな形で作成するんですか?」

 同じく年度はじめの事務作業を進めていた明子は、「えっ?」と困惑しているようだった。当然かもしれない。今日は、新年度の一日目。そんな状況で、いきなり学期末、学年末のことを質問されたのだから。
 「うーん、まだ、今年度の提案がされていないから、正確なことは言えないけれど、通知表は、シールね。」
 明子の答えに、数男は、更に困惑した。
 「シール?」
 「そう。シール。通知表の台紙を業者に頼んで印刷して、成績はスタンプを打って、所見はシールを貼るの。手書きよりずっと楽になったわ。」
 明子は、くったくなく答える。そして、
 「要録は、Excelね。あ、そうそう。出席簿は、学籍担当の先生が用意していたから、もらってきましょう。名前の判子を押して、日付と曜日を記入しておけば、後から楽よね。」
 と言って、学籍担当の先生とやらから、薄い冊子を受け取り、数男に手渡した。

 数男は、叫びたくなる気持ちをぐっと堪えて真っさらな出席簿を受け取った。とことんどこまでもアナログな環境である。数男自身、アナログな手法を全否定するつもりはない。特に、芸術の分野では、デジタルとアナログのそれぞれに良さがあり、むしろアナログにしか出せない雰囲気に惹かれる方である。
 しかし、事務処理については、アナログがデジタルに勝ることはないと考えている。事務処理は、合理的かつ機械的に行うことで最大効率化が図られると考えているからだ。
 例えば、出欠席を記録する出席簿の記入が手書きかPC入力かを比べたら、圧倒的にPCの方が正確で汎用性が高い。さらに、デジタルで処理することによって、出席簿と通知表や指導要録と連動させることも容易である。
 通知表や指導要録には、出欠の記録を残さなければならない。この記録の根拠となるのが出席簿である。アナログの出席簿だと、毎日、担任が出欠状況を記録する。その記録を通知表に転記する。通知表の記録を更に指導要録に転記する。という作業が必要になる。全て手書き、出席割合などは個々の欠席状況を数えて電卓を使って計算する。
 当然、その処理の過程でヒューマンエラーが多発する可能性がある。そこで、二重、三重のチェック体制が必要になる。授業や学級経営など教育の本来の重点である仕事に費やしたい時間を消費する作業となる。


 

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