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街は人いきれの雨で

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自分には音楽の才能があるんだ。そう自分に言い聞かせながら温々とした日々過ごし、技能なし実績なしのまま26歳になってしまった主人公の宮沢一。一緒に音楽活動をすることになった弾き語り… もっと読む
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街は人いきれの雨で(7) ~雨空の天の川~

 7月になっても相変わらず雨が降り続いている。というか、6月よりも明らかに雨の日の割合が多い。今日も外は大雨だ。スマホからは大雨に注意の通知が何度も届いている。ずっと家で練習しているので関係ないと言えばないのだが、毎日外に出た時に曇天だと、気が滅入ってくる。

 綺麗な、綺麗すぎる俺のフェンダーのベース。それをハードケースから取り出し、練習用のアンプに繋ぐ。

 現代のポップス音楽を遡っていくと、

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街は人いきれの雨で(6) ~アコギとベース~

 久しぶりにお昼の時間帯に明莉さんのお店に来た気がする。思えば、初めてこのお店に来たのもこの時間帯だったかもしれない。
「信じられます⁉全く弾けないんですよ。全く。ホントにまっっっっったく‼」
「えぇ!それでよく例大祭のステージを引き受けたわね。イベンター来るって事も柑菜から話したんでしょう?」
 晴れた日には窓側の席から店内に日が差し、より一層店内が明るく見える。今日はあいにくの雨だが、窓に打ち

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街は人いきれの雨で(5) ~練習スタジオ~

 俺は宮沢一26歳!有名なミュージシャンになりたいと神社でお参りをしていたら、ひょんなことから知り合った女、秋山柑菜と一緒に音楽活動をすることに。やれやれ、まだ俺はやるなんて言ってないんだけど。慎重派な俺とグイグイ行く柑菜のコンビは最初からいきなり衝突!?これからどうなっちゃうの~。
 …といった少女漫画ストーリーになることはなく、出会ってから三日間、特に何が起こるわけでもなく七月に入った。いや、

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街は人いきれの雨で(4) ~駅西口広場~

 柑菜の後を付いていき、駅の西口広場まで来た。広場の端にある手すりによりかかると、柑菜が手招きをした。耳を貸せ、ということだろう。顔を近づけると柑菜は小声で話し始める。

「このイベントだけは断っちゃだめ。絶っっっ対にだめ。」
「え、どうして?ただの地元のお祭りの余興じゃないの?」
 この広場はつい最近できたらしく、まだ舗装も新しい。駅が出勤中のサラリーマンでごった返す時間帯にもかかわらず、辺りは

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街は人いきれの雨で(3) ~秋山柑菜~

 大体、組むって一体何をするのだろう。二人で音楽活動をやっている未来が全く見えてこない。柑菜には見えているのだろうか?それとも何も考えずに即決したのだろうか?まだ相手のことで知らないことが多すぎる。

「大体、二人で活動するって言っても何をする・・・んですか?」

 柑菜に話しかけようとしたのに、結局明莉さんに向けて言葉を発していた。
 なんと言われるのか分からない人に話しかけるのは勇気がいるので

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街は人いきれの雨で(2) ~弁天様~

六月二七日
三日にわたって降り続いた雨がようやく上がった朝、俺はいつもの日課で家の近所の神社に来ていた。湿った空気の中で吹く風はいつもよりも冷たい。
まだ早朝と言うこともあって、自分以外は誰もいない。シンと静まりかえった中で参道を見ると、神仏を信じない自分でさえ神妙な気持ちになる。ここから長い長い階段を上ると本殿にたどり着く。まだ見たことがないが、お正月には鳥居の外まで行列が出来るらしい。誰も居な

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街は人いきれの雨で(1) ~プロローグ~

MANNEQUIN
作詞・作曲 宮沢一

電子の文字が意味を持ち出す
止まった時も流れ始める
君の言葉は溢れやすくて
少し遅れて心が痛む

スモッグ越しに空を見上げた
陰る私に星が煌めく
今宵の月は少し緑で
道行く人も青い溜め息

デジタル仕掛けの時計を見つめる
私の外で世界は流れる
今日の時間は少し早くて
眩く街が私を

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