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益田ミリさんの旅の本

いつでも行ける場所であっても、次回も同じ旅ができるわけではない。気分、気候、体調。それぞれのバランスで旅の温度は決まっていく。同じ旅はもうできない。それをなんとなくわかっているから、いつまでもなごり惜しいのだと思った。

益田ミリ『ちょっとそこまで旅してみよう』幻冬舎文庫

もちろん漫画も大好きだけれど、益田ミリさんの旅行記が好きだ。旅をしながら、思い出が蘇ってきたり、ほんの些細な部分を見逃さなかったり、いつもいる場所でない自分を楽しんでいる。
淡々としているのに、リアクションが大きい! 言葉を尽くして感動を語るのでなく「すごい」と一言、思わず漏らしてしまう反応を大事にされている。

記憶違いを起こしてポカするところもいい。五重塔を見にいこうとしたのにない。東寺と東本願寺を間違えたりする(しかもちょうど復旧作業中)。それでもなんとなく楽しんでしまう。

東本願寺を懐かしそうに眺めるお母さんを見て、
「中学時代を思い出している母の、中学時代の自分の細胞はどこにも残っていないはずなのに、でも、忘れていないのである。不思議だなぁと思う。」
こういう文が、不意にやってきて、読んでいて「あ」と思ったりする。それは漫画と同様に、いつも言葉にあんまりしていない「気づき」だ。

スカイツリーに登ってみたいというお母さんのために、事前に下見、どこでなにをするか、チェック、なんてすごいなーと素直に尊敬してしまう。自分だったらいきあたりばったり通り越して適当になり、土産がどうこう言われたら「どこでも買えるでしょ」とか言いそう。自分、最低だな〜。

食欲旺盛なのもとてもいい。
「リポーターならすぐに仕事がなくなりそうなくらい実のない褒め方しか浮かんでこなかったのだけれど、本当においしかった。」
いいのである、それで。でも、
「豆本来の味が濃くあるのに、青くさくなくクリーミィ。」と続く。ちゃっかり食レポしている。

本の中では二度訪れているのは実家にお正月の時に帰って「散歩がてら」出かける京都(二度目にしてお母さんと東寺に行けてよかった)と、フィンランド。フィンランドは後に一冊本も書かれているほどに気が合う場所みたいだ。
なんとなくフィンランド、軽い気持ちで自分もいけそうな気がしてくる。やっぱマリメッコとかムーミンを「名物だし」とバカ買いしそうな気がする。かもめ食堂のロケ地、自分も行きそう〜!

「たいてい、ちょっとそこまでという気軽さです。」
読んでる方も、追体験しつつ、ちょっとそこまで感覚で、フットワークを軽くしてくれる、素敵な文章だと思う。


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