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最初かつ3番目の男


「実録レポート 能登半島地震支援」の原稿を書いているときにふと「そういえばあの人石川県に住んでいたような」と思い出した人がいた。お正月、友人のみどり丸と雑談ラインをしながら、誰かあのへんに住んでいる人がいたっけという話をしても全然でてこなかったKさんだった。

なんで出てこなかったんだ、愕然。

みどり丸は「Fさんの実家が石川だよ、帰省してるかな」と言った。もう10年以上会っていないが、大学時代一緒に働いていた書店で、みどり丸が一時期片思いをしていた男子だった。私は「よく思い出したね、さすが!」と言った。みどり丸はバイトの休憩時間にFさんから突然ふざけて首をしめられて、それをきっかけに好きになってしまったのだ(は?)さらにそのすぐ後、同じくバイトの休憩時間に告白して振られたのだった。みどり丸の心に、速攻終わった恋であってもFさんのデータがちゃんとしまわれているのをいいなと思った。

だから私なんでKさん出てこなかったんだ!なのだ。検索した。

すぐに見つけた。Kさんはすごく偉くなっていた。そして、近影を見る限り、見た目もあまり変わっていなかった。というか全く変わっていなくて結構本気で驚いた。50代半ばになっているのに。

元気なんだね、そしてちゃんと出世している。よかったな、と思って、私たちが離れたときのことを忘れてその瞬間とても幸せな気持ちになった。私はたぶん顔も赤くなって笑っていて、小さな花や光などが体から放射状に出ていたんじゃないかと思う。営業のTさんが「清水さん打ち合わせ…いまじゃない方がいいですか? ちょっと待ってって感じ?」と聞いてきたくらいだ。

Kさんがゲスト出演していたラジオ番組があったので聞いてみた。何度も夜中に電話したKさんの声だった。おそらく自分で書いた原稿ではないんだろう、棒読み中の棒読みだった。毒にも薬にもならない情報原稿を読まされていた。心の中で悪態をついているだろう、その声まで聞こえるようだった。

Kさんは大学卒業後、就職で関西に引っ越し、私たちは離れていた時期があった。私は当時高校生だったから、さらに彼女でもなかったから、簡単に会いにいくこともできなかった。私は彼によく手紙を書いた。彼はいつも、しっかりと返事をくれた。とてもきれいな字で、素晴らしい文章だった。そして夜中によく電話で話をした。彼はお酒が大好きだったが、私が電話をしたいと言った日に酔っ払っていることは一度もなかった。そして電話をかけると、必ずかけ直してくれた。私は、何時間でもしゃべった。

それでも当時私が少し違和感を持っていたのは、彼の職業だった。なぜ、書くことを仕事にしないのか。寂しくて斜めに見ていたところがあるかもしれないが「将来の子どもに自分がつくった電車を見せたい」という入社面接で話したという理由も本心ではないように感じていた。まあ、でも、私も関西の大学に行こうかな… ということは考えていた。そのことを少し話したら彼は言った。たぶん転職する、東京に戻るからと。東京で、また会えるんだ。嬉しかった。受験がんばろうと思った。まさかぼんやりしていて4年間横浜・戸塚に通う大学に入学しちゃうとは思わなかった。英文学部にしておけば後半2年東京だったのに。とほほ。ははは。横浜に会いに来てもらったりしてたわ。

彼はちゃんと書く仕事に転職した。社名を聞いたとき、あらゆる書く仕事のなかで、彼にいちばんぴったりだと思った。そこで成功していることが嬉しかった。

彼が私と本格的に距離をつめようとしてきたとき、我々の男女のタイミングは終わっていて(つまり最初からダメだったってことだよな…)私たちは永遠に離れてしまった。彼には妻子ができていた。私にはふたり彼氏がいて、3人目はにんともかんともトゥーマッチだと思った。でも友達としての距離で関係を続けることはもう難しいと思われた。

「文章のうまさ」はずっと、私が恋に落ちるポイントのひとつなのだが、Kさんの影響もあるのではないかな、と思ったりする。初恋だったのだ。私が結婚した人は元エディターで、私なんぞよりもずっと文章が上手。なのになんでつくる仕事しないの?と言っては「金にならない」と返され続けている。まあそうか、そうかもね。

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