「つらいよ」って言わない、優しい人。寅さん記念館20周年

父親とふたりで暮らしていた頃
私が相談する、あらゆることに関する彼の答えはふたつだった。
「クソして寝ろ」オワ「寅さんを観ろ」。
50歳をすぎた働き盛りの社員に、大学生の女の子の悩みなど
答えようがなかったのにちがいないが、あんまりである。

そのせいではないと思いたいが、私は寅さんが好きだ。
優しい人しか出て来ない世界が好きだ。
山田洋次監督の、普通の人を見る視点の優しさは
神様のそれに近いのではないかと思う。長生きして欲しいものである。

葛飾区柴又にある「寅さん記念館」が20周年を迎えた。
山田洋次監督と倍賞千恵子(さくらちゃん)が挨拶をすると聞いて
いそいそと出かけていった。
満員のお客さんがふたりの登壇を待つ中
偉い人(議員さんとか議員さんとか議員さんとか社長さんとか館長さんとか
議員さんとか)の祝辞がえんえんと続く。
退屈で毛が抜けそうになっていたとき、京成電鉄の取締役の祝辞が
私の頬を叩いた。

「えー。おかげさまで柴又駅前にはハナコの銅像が立ち」


! 
ハナコ!
象かよ!

人に優しく出来ない自分に「しょうがないじゃん、だって」と
思いそうになったとき、私は寅さんたちを思い出す。
自分のことをぐっとおさえて、人の悲しみを想像できる
あの世界の人たちを、私はとても尊敬している。


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