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山口祐加さんの「自炊レッスン」を受けて。


今年の目標を自炊に掲げ、レッスンを申し込んでいた。その名も「自炊レッスン」。
先生は、自炊料理家の山口祐加さんです。

この状況下、オンラインでのレッスンに変更になったのですが、自分のキッチンで色々質問しながら作れるのって画期的でした。おすすめします!

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私は上手ではないけど、料理が好きだ。料理をする人を見るのも好きだ。仕事柄、料理のプロの仕事を近くで見ることがあるのだが、その仕事をしている間は自宅で作る料理もはっきりおいしくなる。うまく言えないのだが、レシピを覚えたからではなくて、その人の動きなどのリズムを覚えているのだ。ちょうど、キン肉星王位争奪サバイバル・マッチでミートくんがセコンドにいながら技を覚えたみたいに。(余談ですが私の初恋はロビンマスクです。この2行、祐加さん理解不能だと思うけど。)動きのリズムが抜けると、同じレシピでも再現できない。不思議なのであります。


そんなわけで臨んだレッスン。
祐加さんは20代のキュートな女性だが、中身は割とお母さんっぽい。「基本を教えるから、あとは自由に。とにかく体にいいもの食べて。」みたいなスタンス。10代の頃からずっと自分で家ご飯を作ってきた人だ。
料理業界の情報って、もうカオスでしかない。
私は料理関連の「好き」をかなり絞っているつもりだが(土井善晴・有元葉子・なかしましほ・白ごはん.com)新しい良さそうに見えるものはやっぱり気になる。もはや誰を、何を信じたらいいのか。信じたものが体に悪い(菌が繁殖するやり方だったり)ことすらある。私はある時から思考停止した。
料理のコツを、迷信だと思うようになったのだ。酒でも砂糖塩水でも麹でもパイナップルでもいいなら、もうそれは迷信だ、肉が柔らかく焼けるかどうかは、運(食べる夫の)だと。

土井善晴さんと仕事をした時に「ゴーヤの苦さを和らげるコツはありますか?」と聞いたら(クライアントはこういうコツをワイプで入れておきたがるものなのだ)

「なんで苦いとだめなんですか。に・が・う・り ですよ?」

と言われてしびれた。しびれたから、そこから疑問に感じたことをどんどん聞くようになった。先生はよく私の質問に「はぁ?」という顔をした後(冗談である。たぶん)しっかり教えてくれた。言葉だけでなく、戸棚から調味料を出して味を比べさせ、舌で分かるように教えてくれた。(分からなかった)。私はその頃本当にバカみたいに仕事をしていて、毎日ヘロヘロだった。スタジオで先生のご飯を食べている時、うっかり涙が出そうになったり体がゆるもうとするのを我慢していた。ゆるんじゃいけない。終電まであと8時間働くんだからと。ここは家じゃないんだからと。

ベテランの土井先生と彼女を並べたら、祐加さんはきっと恐縮してしまうだろう。だけど彼女のレッスンは、考え方が少し土井先生に近いと、彼女の体がゆるむご飯を食べて私は思った。

サラダスピナーが嫌い(プラスチックがキッチンにあるのが嫌)な私はボウルとザルを組みわせて死ぬほどふって水を飛ばしているが、俄然びしょびしょサラダであった。1枚1枚キッチンペーパーで拭いてられるかよ、と思っていた。山口さんは、1枚のキッチンペーパーでレタス全部を包み、ぎゅうぎゅう絞っていた。しっかり水を切って、ドレッシングは作って「手で」和えていた。画面を見ながら一緒にやったら、なんと外で食べるみたいなサラダができた。

また鶏そぼろを作ると、「なんかほのかにくさい」時があった。酒や生姜をふんだんに入れても。やはり西友のお肉ではだめなのか、と思っていた私だった。祐加さんは、レッスンで生のひき肉をザルに入れ、熱湯をかけて一度余分な脂を落とすとさっぱりしますと言った。それを聞いて「くさみも取れるのでは?」と私は静かに感動していたのだが、その時一人の参加者が「うちにはザルがありません」と言った。「茶こしならあります」と続いて、私は思わず笑いそうになったのだが 数分後「茶こしでできました!」に我慢できなくなって笑った。祐加さんは「よかったです!」と言った。
なんでもいいのだ。基本だけ覚えて欲しい。それを守るだけで、きちんとおいしくなるから。それが彼女が言ってることだ。もう、玄米からつくる麹とか、パーセンテージはかってつくる砂糖塩水とか、レモンをしこむなんとかとか、ビーツとか、普段の家ご飯でいらないでしょと。そういうのはやりたい人がやりなさいと。
サラダの水は切ろう。肉の余分な脂は落とそう。ドレッシングはできれば作ろう、手であえよう。お肉は焼く前に、酒と塩につけよう。かき玉汁は、お湯がきちんと沸騰している時に卵を入れよう。お肉を触ったら、手を洗おう。包丁はいいもの使って。いい包丁を使うとたまねぎがうそみたいに薄く切れるようになります。フライパンはイケヤのでいいわ。

基本を理解することは、応用への準備ができること。つまり、自分に余裕をつくることだ。「お母さんの隣で見て覚えたようなことを教えたい」と彼女は言った。映えなくていいし、新しくなくていい。隣にいるあなたが、健やかにあるために必要なことを教えたいということだ。彼女が教えてくれた「地産マルシェ」という安くていい野菜が売っているスーパーを知ってから、うちの家庭には野菜料理が格段に増えた。健やかな自炊生活である。



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