見出し画像

たいせつな時間

うすゆきそう

 フルタイムで働いているような生活をしている私にとっては、久しぶりに行ける授業参観日。娘のエミも、出がけに「お母さん、今日、何着てくるの?かわいい恰好で来てね。」と、よほど楽しみな様子だった。同じ女の子でも、2歳上の姉からは、そんな言葉を聞いたことがない。3人兄姉の末っ子の娘は、ご近所のお母さん方にも、優しくて面倒見がよいとかわいがられ、どうやったらエミちゃんのような子が育つのですかとお手紙をいただいたこともあった。

 いそいそと私も小学校に向かった。学年合同体育の授業で、250人ほどの子どもたちが、校庭いっぱいに拡がっている。私は、やっと行くことのできた参観日、1分でも多く我が子を見たいと必死になって探した。やっと見つけると、嬉しそうに私の方を向いて、ニコニコしている。私は、そっと手をふった。娘が正面に見えるところに陣どった。先生の合図で縄跳びが始まった。しばらくいい調子で跳んでいた娘は、縄にひっかってしまった。そして、すわった。「残念!頑張ったね。」とまなざしを送ろうとすると、娘は、さっと後ろ向きになってしまった。「お母さん、せっかく頑張って来たのに。なんで、クルッと後ろ向きになっちゃったんだろう。」と、少し淋しい気持ちになった。

 参観日を終え、帰宅した娘にクルっと後ろ向きになった訳を聞くと、娘はケロっとして、「だって、ゆあちゃんすごく上手なんだもん。」といった。後ろのお友達がとても縄跳びが上手なのを、見たいのと応援をしたかったらしい。

 私は、友達の素晴らしさを素直に喜び、応援できる我が子を発見することできて、とても嬉しかった。20年も前のことなのに、その幼い笑顔は、今もはっきりと私の心にのこっている。
人生のささやかなひとこまです。でも、私にとっては、とっても大切なひとこま。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?