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NO.10『事件その2「凶器は隠して…」』

前回の事件の後、また事件が起きました。ドキドキしたけど、これまでとは少し違うふれあいが出来たような…。
いいふれあいって何だろう。ちょっと聞いて~

へっぽこ娘

そして、前回の事件から幾日も経たないうちに第二の事件が起こったのだ。その日は私も母も休みで家にいて、主人だけが出勤だった。朝から自分の部屋で何かしていた母が大きな荷物をいくつか抱えて恐ろしい表情で2階に上がってきた。「まったく、全部何にもなくなっちゃうんだから!」と大きな声で怒鳴っている。見ると片方の手に園芸で使う先が鋭い熊手のような物を持っていて「これで殺してやろうかと思って!」と3階に上がろうとする。「えっ?どうしたの?」「あんたの旦那だよ!また私の物を全部盗んでいったんだ!」ちょっとヤバい?!と思いながらも、前回のことを教訓に母の思いを聞いてあげようと思った。主人が仕事でいないことがわかると当たりどころがなくなったのか持っていた荷物を2階の階段から1階へ全部投げつけた。その時熊手も投げたので、とっさに拾って凶器は見えないところに隠してから「何がなくなっちゃったの?」と優しい声で切り出してみた。相変わらず説明はまったくできないが主人が盗んだことだけはずっと言っていた。いつもはここで「なんでそんなこと言うの!」とか「自分で無くしておいて人のせいにして!」という心にどうしてもなるのだが今日の私は違う。「そうなんだ…」「どこにいっちゃったんだろうね。出てくるといいね…」するとそこから母は時間をかけてポツリポツリと色々なことを話し出した。昔の話、例えばとうに亡くなっている自分の父親がどんな思いだったかと言いながら声を詰まらせたり、この家は自分の兄の家だったのに、あなた達に取られたんだよとか、まったくつじつまが合わない訳の分からない話だったが、時間があったのと、心に少し余裕があったのでじっくりとそのままを聞いてあげると段々と落ち着いてきた。そのうち「お母さん、こうだったよね。忘れちゃったの?」と冗談交じりにとそんな言い方で聞いても「そうだよね。それはわかってるわよ~」などと笑いながら返してくれるようになって、最後は「今度の年金が入ったら2人で洋服買いに行こう!」「そうしよう!」と笑顔で約束して話が終わった。

あ~疲れた。でもきっとこういうふれあいが認知症の人には大事なんだなと身をもって体験した気がする。でも、こんな対応がこれからも常にできるのだろうかと思うと全く自信がない。その証拠に第一の事件で感じた恐怖もだいぶ薄れてきてしまっているし、母に疎外感を感じさせないようにという決意さえも少し薄れてきて、相変わらずの対応をしてしまうことが多くなってきているのが現状だ。これからも少しずつ変化していく母と向き合い、こんな感じで一喜一憂する日が続くのだなと思う。

聞いてくれてありがとう。


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