見出し画像

ミナトゴハン×魚の旅 Vol.02-1 2021.04.01 ”銚子つりきんめ”

千葉県の銚子市に10年間連続水揚げ日本一という大きな漁港があります。
加工業者も多く、約3人に1人は水産に関わる仕事をしているという水産業の盛んな街。

そんな銚子の名物は?と聞かれたら何を思いつきますか?
さんま?さば?いわし?
たくさん思い浮かぶと思いますが今回はきんめだい。

銚子漁協に属する外川港の沖合で丁寧に針で釣り上げられたきんめだいは”銚子つりきんめ”として知られています。


きんめだいといえば煮付けが定番ですが、特に脂ののった1kg越えの”つりきんめ”に出会ったら、どうか塩で味わってみてください、とお願いしたいくらいの美味しさ。

1年に1度行われるきんめ祭は大盛況(コロナ期間は中止)、毎年日比谷で開催されているフィッシュワングランプリでは”きんめ煮炙り丼”が2018年に1位に。タイや台湾、ニューヨークにも輸出されています。

そんな銚子の町が誇る”銚子つりきんめ”。以前日帰りでふらりと訪れたことはありましたが、今回は銚子市漁協外川支所ご協力のもと、入港~次の日の漁の準備までを見学させていただきました。

↓こちらは昨年ふらりと行った時のとりとめのないお話。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

銚子外川漁港へ

今回は都内を始発で出発し、総武線ー総武快速ー銚子電鉄と乗り継ぎ、港のある外川駅へ。

銚子電鉄はとても雰囲気のある電車。窓から名産品のキャベツ畑などを見ながらのんびり進んでいきます。終点で降り、まっすぐ急な坂を下って行くと、5分ほどでお目当ての外川漁港が見えてきます。

銚子市街にある大きな港(銚子漁協第三魚市場)に比べ、静かで落ち着いた雰囲気。
坂道の合間に一軒家が立ち並び、趣きのある街並みです。港のそばにはきんめをはじめ銚子の新鮮な魚介を使った定食屋さんもあるので、銚子電鉄に乗り、おいしい魚介を食べてから町や海際(漁港内は立ち入り禁止です)をお散歩、なんていう日帰りの旅にもぴったり。

am8:40 外川漁協へ

まずは港の2階にある銚子市漁協外川支所へおじゃましました。この日は雲も風もない穏やかなお天気。太平洋を見渡せる窓からは38隻の漁船が次々に帰ってくるのが見渡せます。 

船は前日の23:00~0:00に出港し、50km離れた場所にある漁場で日の出とともに針をおろします。この漁場こそが”銚子つりきんめ”のおいしさの秘密。親潮と黒潮がぶつかる場所でプランクトンが豊富なため、餌になるえびやイワシもそのプランクトンを食べにたくさん集まってきます。きんめだいはその魚介類を食べることで身の引き締まった質の良い脂ののった”銚子つりきんめ”に育ちます。

画像2

特にイワシを食べているものはが脂がたくさんのっていて美味しいのだとか。

きんめがいる場所は深さにしておよそ300m。その日の潮の流れでどのポイントから針を落とすのかを決めます。

前回お話をうかがった小伊津の漁師、金築さんもおっしゃっていた潮の流れ。この流れを読めるかが漁師さんの腕の見せ所なのですね。

a.m9:25 入港&荷揚げ作業


見学させていただく船、大勝丸ももうすぐ戻ってくるとのことで港へ移動します。

大勝丸に乗るのは船頭の田村勝義さん(60)、弟充泰さん(55)、勝義さんの息子、昌義さん(29)の3人です。

船が接岸すると昌義さんが船を降り、素早く車を船の脇につけて魚倉にある蓋付きの大きなタルをクレーンで車に移します。この時点できんめの姿は見えません。

画像3

タルごと水揚げするのは釣り上げられてから市場に着くまでに、きんめの鮮度が下がらないよう氷水に浸けているため。より新鮮に運べるように漁師さん達の話し合いでこの容器も水温も決められています。

a.m 9:30 銚子第三魚市場へ

この日水揚げされたのは容器6個分。あっという間に積み終わり、船が着いて5分後には外川漁港を出発し、車で15分ほど離れた銚子第三魚市場へ向かっていました。

画像4

向かう道の途中に、何台もの大型船の脇を通っていきます。これはさばやいわしを獲ってきたまき網船。他にも銚子では生まぐろも水揚げされるそう。しかし大きい!まき網漁を行う際、メインの船の他に探査船、運搬船と各役割を担った船も一緒に行くそうですから、すごい規模。

画像5

a.m9:45  仕分け作業

市場に到着し、中に入ると一角ではすでにきんめの仕分けが行われていました。これも漁師さん達のお仕事。先に市場に着いた人から皆で手分けして進めています。

専用の機械でタルが開けられていきます。タル1個で約25kg分の真っ赤なきんめだいが氷水と一緒にザバーっと出てくるのは迫力満点!

画像6

台の上に開けられたきんめは手早くトレーに乗せられ流れていき、重さ別にとろ箱のなかに次々に滑り落ちていきます。

画像16

この機械の導入により人の手に触れる回数も減る上、作業効率も上がりきんめが痛むリスクも減ったそう。

きんめが滑っていく様と、機械のカッチャン、カッチャンいう音がなんともいいリズムです。しかしとにかく手早い!どんどんタルがひっくり返されて空になっていきます。

たまに違うお魚も。こちらは深海魚の”メタイ”。目がくりくりして大きくて可愛らしいですがサイズはビック。

画像7

a.m:10:00〜 入札 

仕分けしたものから市場の中央に並べていき、入札がはじまります。
オレンジ色の帽子をかぶっているのが仲買さん。
入札とはそれぞれの仲買さんが希望の価格を出し、その中で最も高い値段をつけた所がその魚を買い取れるという方式。

画像16

これは傷がついて規格外になったもの。ほんの少しの傷でもこのようにはじかれるそうです。これもブランド魚ゆえのお話ですね。

画像9

a.m10:30 次の日の漁の準備

作業を見せていただいてから外川港へ戻ると船の上では勝義さん、充泰さん兄弟が次の漁に使う餌のイカを切っています。

画像17

その脇では別の船にのっている外川の若手漁師3人のうちの1人、鴨作泰幸さん(27)が釣り糸に針を結んでいました。

画像17

家族に後を継げと言われたことは1度もないですね。という泰幸さんは自然と漁師への道へ。

”底たてなわ”という漁法で、この針60個を1本の縄につけ、乗組員の人数+1本分を船に積み漁に出ます。

1つの船に乗船するのは1~3人までなので最大で4本までしか持っていきません。

船の縁に次に行く漁の針がセットしてありました。イカは海の上でつけるそう。

画像16

大量の縄と針を積んでいくものとばかり思っていたのでとても意外です。

聞き間違えたかと思い、何度も聞いてしまいました。

きんめの量が減らないようにね。(きんめの量をたくさん獲るよりも)細く長く続けていくことが大事。

と、兄の勝義さん。資源管理もきんめ漁を守るための大事な活動。
外川の漁師さん達は数が減らないよう1985年から資源管理を始めました。

操業時間を1日あたり3時間以内に制限しているそうですが実際はそれよりも短い時間で帰ってきています。漁協に飾ってあった年表には平成18年(2006年)、はえなわ漁の全面禁止、の文字が。

最初は二束三文だったキンメダイ

他にも興味深いお話を聞きました。
きんめだいは関東では伊豆地方が最も有名。外川でもあがっていましたが、浜値(水揚げされた市場でつけられる価格)で1kgで500円ほどにしかなリませんでした。1kgというと切り身が4〜6切れ取れますから、素人の自分でもかなりの安値だとわかります。

漁師さん自らPR活動を

そこで現会長さんを中心にPR活動を始めます。漁港での”きんめだい祭”を企画し、そのお祭りを知ってもらうために漁師さん自ら海ほたるや都内などに試食販売をするために毎年出かけました。

漁師さん自ら魚の試食販売をされていたら、直接いろいろなお話も伺えるしその場できんめのファンになってしまいますね。

過去にはミナトゴハンの活動拠点から徒歩15分の場所でも試食販売されたことがあったとか。知っていれば行きたかった!

そんな活動の積み重ねで2006年には千葉県初のブランド魚に。

2013年からは漁師さんの奥さまたちが結成したかあちゃん食堂も始まり、さらにお祭りの人気は盛り上がりました。フィッシュワングランプリ1位になった”きんめ煮炙り丼”はかあちゃん(漁師さんの奥様方)と銚子漁協外川支所の方で考出したもの。

漁師さんのチームワークでつくりあげたブランド

次の漁に使うオモリを仕込み、氷を魚倉に詰め終わると一区切り。あとはご自宅での作業になるとのことで、ここで今回の見学もおしまいです。

画像13

一連のお仕事を見せていただいて感じたのはチームワークの良さ。全てがあうんの呼吸で作業が進んでいました。

聞けば、みなさん外川で生まれ育ち、保育園から中学校までずっと一緒で家族同然のお付き合いなんだそう。

お話を伺っていても、漁協の方の提案ではなく、漁師さん同士が考えて意見を出し合い話し合いが行われるという事が多いのにも驚きました。

みなさんとても穏やか、そして港ときんめを大事に想う気持ちが伝わってきます。

左から大勝丸のと充泰さん(弟)と勝義さん(兄)。

画像14

今は20代の若手漁師3人の力も加わり、ホームページを制作したり、オリジナルの自動販売機を企画したりと”銚子つりきんめ”の魅力をさらに発信し続けているそうです。

銚子つりきんめのホームページはこちら。 
http://www.tsurikinme.jp/choshitsurikinme.html

これは外川に4台設置されているという、つりきんめ×コカコーラ社の自動販売機。お散歩がてら探すと楽しいかも。

画像15

若手の3人のうちの2人、昌義さんと泰幸さん。この日は会えませんでしたが、もう1人、22才の若きホープがいるそうです。

picture_pc_b2ecabf623995522068e7b9f97efdc74.jpegのコピー

この外川の漁師さん達の気持ちが食べ手に伝わっているからこそ、皆に愛されるブランドになったのだろうなあと納得。

高級魚の”銚子つりきんめ”。毎日のように食べられるお魚ではありませんが、これも漁師さんの生活を守り、そしてきんめを減らさないための大事な事。

もし、銚子のきんめを見かけたら、そんな事を思いながら大事にいただきたいと思います。

入港〜次の日の準備まで短い動画にまとめました。iphonでの撮影になりますので少々見づらいですが、きんめの選別作業、楽しいのでぜひご覧ください。

YouTube  ”銚子つりきんめ” 水揚げ〜お仕事風景



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・*記事内で記載している時間は季節により変わります。

ミナトゴハン×魚の旅 Vol.02-2 は”銚子つりきんめ”を使った料理のお話の予定。のんびりゆっくり更新予定です。