午前1時のポテトサラダ

「そろそろ終電。帰らなきゃ」

時計のデジタルは、0時33分。シンデレラだったら大遅刻だ。

「いいじゃん泊ってけば」

祐司はゲーム機に顔を落としたまま言う。

「腹減った。なんか作ってよ」

目的はそれか。駅まで送ってもらうことは諦めていたけれど、こんな夜中に飯炊きババアにされるとは。

「なんでもいいからさ」

そう簡単に言うけれど、冷蔵庫を開けても缶ビールとペットボトルの飲みものくらいしか入ってない。キッチンにある食材はパスタの麺、それから……

「じゃがいもたくさんあるね、使っていい?」

ゴミ箱の横に置かれた小ぶりの段ボールに、じゃがいもがごろごろ入っていた。

「ああ、忘れてた。田舎から送ってきたんだ。欲しかったら何個か持って行っていいよ」

「いいなあ、北海道。一度行ってみたいなあ」

私は少し土が付いたじゃがいもを2つ取り出して、流しで洗って皮を剥く。

「へー、ポテサラって電子レンジで作れるんだ」

いつの間にか後ろに立っていた祐司が、電子レンジの中を覗き込みながら言った。

「ダメだよ電子レンジの光見ちゃ」

「なんで?」

「電磁波体に悪いよ」

「マジで言ってんの? それ迷信だよ。電子レンジのマイクロ波なんて携帯とおんなじだから。それに光はただの豆電球だよ。中の様子が見えるように庫内灯」

「本当に?」

「嘘付いてどうすんだよ。本当だよ」

おかしそうに笑う祐司にカチンときてるところにチンと鳴ったから、電子レンジにも馬鹿にされているみたいだった。

「ポテサラなんて簡単だよ。今度自分で作ってみたら」

私はボウルでじゃがいもを潰しながら言い返したけれど、何の反論にもなってないのは自分で分かっていた。

「いや、また次も遥香が作ってよ」

ソファに戻ってまたゲームをやりながら祐司が言った。まったく調子がいい奴だ。

ちょうどパスタが茹であがったので、軽くフライパンで炒める。

「はい、お待たせしました。ペペロンチーノとポテトサラダです」

「待ってました。いただきます」

勢いよくパスタを口に運んで

「うん、うまい」

祐司は笑顔で言った。

「今度の連休さ、一緒に北海道に行く?」

「えっ?」

「さっき北海道に行きたいって言っただろ」

「マジで言ってるの?」

「マジだよ。遙香のこと、親に紹介したいからさ」

「えっ、どういうこと?」

「どういうことって、そういうことだよ」

照れ隠しに口に運んだポテトサラダは、ホクホクしてとても美味しかった。

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