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布団をおなかに乗せながら。

横になっている。

深夜四時。ニトリで買ったマットレスと布団の隙間に挟まれながらスマートフォンで文字を打つ。

ニトリにはいくつかのマットレスがあるが、展示された中では高いものを買った。2万円くらいだったと思う。かけ布団は適当に5000円くらいのものを買った。

実家の布団もマットレスなのだが、それも数万円する。そして掛け布団は数千円。とにかく体を預ける方には金をかけ、乗っかる方は適当にしておけと言わんばかりに我が家の布団は上か下かで露骨な格差がある。

なので、ここでグレードを下げて安い布団にすると眠れなくなるのではないかと思い、敷布団にはしっかりお金をかけた。

初めての一人暮らしで難しかったことはこれまで快適に過ごせていたもののグレードを見定めることだった。安物で揃えればいいものと、しっかりお金をかけるべきものを少ない予算の中から選択するのは一苦労だ。もののありがたみは無くして分かる。

何にいくらかけるか。身の回りにあるものの値段はいくらぐらいだったのだろう。家のものはだいたい母が買っていて、私にわかるのはゲーム機や本や文房具の値段くらいだ。

私の母は利便性の高いものにはお金をしっかりかける人だった。見た目の美しさよりも、使えるかどうか。丈夫かどうか、パフォーマンスが出せるかどうかが大事だと考えていたようだ。なので私のカバンはいつもキャンプ用品を作っているメーカーのものだったし、靴もミズノとかスポーツメーカーの靴から順に履かせて『履きやすいものを自分で選びなさい』と言っていた。しかし私は、見た目のかっこよさで靴を選び、案の定靴ずれを作っていた。

丈夫なものを一つ、それにしっかりお金をかけて、壊れるまでは買い換えない。それが母のやり方だった。服もシーズン毎に買うのだが冬と夏だけ買っていた。早い話が寒いときに着る服と暑いときに着る服を売り出されたときに一度だけ適度に買って、それで数年過ごすという生活だ。高校生になるまで、私は春服、秋服というものの存在を知らなかった。今でも春服と秋服の区別はつかない。

高校生の時「いつも同じ服だね」と言われた。その時初めて、自分の服を意識したと思う。しかし、私にとっては昨日来ているトレーナーと今日着ているトレーナーは別物だ。トレーナーが三着、ズボンが三着。なにより、不登校から立ち直りかけていた当時学校に週は3日しか行っていなかったので、服はこれで足りていた。のちに、週5日学校に通えるようになった頃、物理的に服の数が足りなくなるというアクシデントがあり、その時初めて恋人に服を選んでもらって買った。

そうして、今までやっていた服の選び方は高校生としてはあまり一般的ではないことがわかった。丈夫かどうか、というのはシンプルでわかりやすい軸だが、それを理由に一年間何も買わないというのは、流石に極端な例だったらしい。

しかし、丈夫なものにしっかりお金をかけて長く使う。特に、体を預けるものに対してはお金を出し渋らない。 

なので、物理的に体を預けられる敷布団のほうがしっかりお金をかけられて、私に体を預けてくる掛け布団は粗雑なのである。今やエアコンもあるので、暖かさの確保というところでは多少心もとなくても問題ない。

そういえば、靴には平気で2万円くらい出すけれど、手袋はそんなに高いものを買わない。靴下やパンツも適当にセール中のものを買った。

体を預けるものは高いものを買う。逆に体に乗っかってくるものは、適当に済ませる。椅子には随分気を使っていたけれど、エプロンはかなり適当だった。

そんな母を見ていた私は、一人暮らしをするときも機能優先で選んできた。使うかどうか、役立つかどうか。使うならしっかりお金をかけて、その後数年は買い換えない。 

そして機能以外は、気にしない。機能としていらないと思えば、そもそも買おうとさえ思わない。

お米はパックでチンすればいいと思っていたので、炊飯器を買わなかった時期がある。ダウンジャケットがあれば寒くないという理由で、それ以外のコートを着なかった。今でこそ改めた考えもあるが、この「今はまだ、代わりがあるからそれでいく」という精神は私の中に深く根強く残っている。 

歩ける距離にだいたいある。なので、私はまだ自転車を持っていない。

掛け布団があって暖かいので、夏用のタオルケットを持っていない。夏はどうしているかというと、冬用の布団をお腹あたりにかけて寝ている。 

夏、私の家に来た恋人が「……なんで布団が出ているの?」と私に聞いてきたときに「あ、これダメなやつなんだ」と悟った。恋人用に、夏のタオルケットは買ったが私は私でまだ冬用の布団をお腹のあたりにかけて寝ている。 

多分今年の夏も、今と変わらぬ姿で私は寝ながらエッセイを書いていることだろう。

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