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イカになって撃たれるゲーム

最近noteの更新が滞っているのは、スプラトゥーン2にうつつを抜かしているからである。

面白い。もう本当に面白い。イカを操作して互いに撃ち合う対戦ゲームだ。どんな企画書が出されたのかわからないが、一言で説明するといつも意味不明な内容のゲームになってしまうのがスプラトゥーンである。FPSという戦場で撃ち合うゲームをしている人であればおおよそイメージしやすい部分もあるかもしれない。

スプラトゥーン2といっているが、対戦ゲームなので1から買う必要はない。私も2から始めた。しかも先月始めたばかりである、なのでめちゃくちゃ弱い。めちゃくちゃ撃たれる。めちゃくちゃ死ぬ。しかし、それでも勝てるのがスプラトゥーン2の面白いところだ。塗った範囲が得点になるなど、何回誰を倒したかとか、倒されたかとか、そういうところとは別のところが勝負になってくる。なので、10回倒されようが勝てることもあるのである。

今の私にとってスプラトゥーン2は戦場を徒歩で歩きながらインクを撃ちまくり、横から来た敵に一撃で吹っ飛ばされるゲームである。こうして書くと全然面白そうではないが、毎晩のようにこのゲームを起動してはエッセイをほったらかしている。そして、一人反省会をするなどして、ややストイックな部分を見せながらイカが画面を走り回るゲームを楽しんでいた。

しかし、勝ったり負けたりしながらも「あぁ、自分って弱いんだなぁ」と痛感しながら進めるゲームは、だんだん面白くなくなってくる。しかし、それを打開したのは今月の中旬ごろから、大学時代の友人のTさんと一緒にスプラトゥーンをするようになったことだ。その友達がめちゃくちゃうまい。

「なんでそんなにうまいの?」

身もふたもない質問をしてみた。

「俺は5年やってるから」

身もふたもない回答である。埋められない壁だ。5年は長い。ゲーム歴では全く太刀打ちできそうにないが、5年も撃ち合いをしていればそれはうまくなるよなー、と思いながらインクを発射する。

高校時代、私は一度FPS系のゲームに手を出して、スプラトゥーン同様めちゃくちゃにやられていた。全く勝てないのでその後あまり手を出すことは無かったが、発売されたばかりのゲームでボコボコにされる意味がわからず同様の質問をしたときにも、同じリアクションが帰ってきた。システムの似ているゲームは応用が効くらしい。 

「FPS好きなの?」

「正確にはTPSだけどね」

そんなTさんと、ここ数日ずっと、もうずーっとスプラトゥーンをしている。恋人が「あぁ、またスプラトゥーンか」と呆れるくらいにはずっとだ。仕事を終えてから、夜遅く日付が変わるくらいまでTさんは私の相手をしてくれる。

それはそれはうまいので、Tさんが仲間になって一緒に戦ってくれる時はすごく楽しい。Tさんから離れずにいれば近づいてきた敵をやっつけてくれる。しかし、ずっと勝ってばかりともいかない。オンラインで一緒に組むことになる敵や味方が必然的にTさんと同水準のランクの人になってくるので、それはもうぼっこぼこにされる。一人でやってる時が「惜しいな」というくらいであれば、今は「なんか知らんが気が付いたら死んでる」くらいである。でも、死ぬ瞬間はわかるのだそして、その力量の差があまりにも遠すぎて笑えて来る。

「あ! 今一発当たった!」

「一人倒した!」

もう、そういう世界である。しかし、倒した回数ややられた回数が勝敗に直結しないというのは素晴らしいことで、私一人が無意味にやられていく中Tさんを含めランクの高い仲間たちが、勝ったり負けたり、ゲームを作っていく。私はそんな中でうかつに飛び出しては爆弾に吹っ飛ばされ、慎重に進んでは背後から撃たれている。

「弱い! 私本当に弱い!」

私の画面には<復活まであと5秒>と表示されている。

「まぁ、仕方ないねー」

Tさんは淡々と敵を始末していく。友達とゲームで遊びまくるのは、小学校以来の体験だった。高校の時は家に人なんて呼ばなかったから、テレビゲームで対戦するなんてことは全くなかったけれど、今は通話をしながらオンラインで回線をつないで一緒にゲームをすることができる。

何よりTさんは、私のことをバカにしなかった。

「私弱くない!? もう、これ何!? クッソ弱い」

どこから飛んできたのかわからない爆弾で吹っ飛んだ私がTさんに言うと、Tさんはやっぱり「仕方ないねー」と言うだけだ。「弱っ!」というセリフは、私が自分のことを言うだけでTさんの口からは全く出てこない。それにほっとする一方、何となく後ろめたさもあった。

ゲームが弱い味方と一緒に戦うというのは、果たして楽しいのだろうか。勝敗が絡んでいる以上はとても真剣なものであるはずで、私もそこには手を抜かず、戦い終えた後はメモをしたり、照準を敵に合わせる練習をしたりする。しかし、それでも、5年という差はとても大きいもので、Tさんからしてみれば私は格下である。

Tさんはあまり主張が強くない。

「スプラトゥーンする?」

と質問しようものなら

「どっちでもいい」

という返答しか返ってこないのだ。

こちらから「やろうぜ」といわないとTさんは全く乗ってこない。

そして、ゲームはどんどん新しいものが発売される。ポケモンとかテイルズとか、いろいろだ。Tさんはゲームが好きな人なので、今月も新しいゲームを2本程度買っているようだ。

「スプラトゥーンやろうぜ!」

「あぁ、いいよ」

そんなやり取りをずっと繰り返していたのだが、つい先日Tさんはテイルズというゲームを買ったようだ。私は新しいゲームを買ったらひたすらそれに入れ込むタイプなので、Tさんもしばらくはテイルズを進めるのだろうと思っていた。しかし、私はスプラトゥーンがしたい、今日はダメでも「じゃあ明日はやろうな!」という強引な約束を取り付けてやろうと、考えながらメッセージを送る。

「今日、スプラトゥーンできる?」

「あぁ、良いよ」

しかしこの男、普通に乗ってきたのである。

「テイルズは?」

自分から誘ったにも関わらず、さすがに心配になる。私の算段は一度断られてから、それならいつがいいかという交渉のテーブルにつくことだったのだが、Tさんはもう全然そんなの無視して「ああ、やろうか」と当たり前のように言った。

「できるときに人とやる。一人でゲームなんていつでもできるから」

いつになく、真面目だった。Tさんはいつも「仕方ないねー」と軽く言って流すことが多かったので、一緒にゲームをすることに対して今まで触れたことのない情熱を感じた。ひとりのゲームを楽しむ時間も、大切だと思うのだけど……。そう思ったけれど、そんなことをいうとTさんはすぐに「じゃあ、一人で遊ぶわ」などといい始めるので、私は黙ってうなずくことにした。

「お、おう」

珍しく、Tさんにやや押し切られる形でスプラトゥーンをすることとなった。私自身、一緒にゲームができる友達は、今はTさんしかいない。私も、できるときにできる人とやっておこう。ゲームを一緒にすることができなくなった思い出があるわけではないけれど、しかし、Tさんなりに私とゲームをする時間を大切にしてくれていることがうれしかった。

そういうわけで、スプラトゥーンをしてきます。

ーー

補足

本文中にTさんが「俺は5年やってるから」と表現する場面がありますが初代スプラトゥーンの発売年は2015年でした。しかし、正直この発言には大変な絶望感を受けたので、修正せずこのまま掲載を続けさせていただきます。

3年なら、なんとか倒せそうな気がします。

追記 2019/04/14

なんとかTさんを倒しました。
まだ、勝率は1割程度ですがひとまず倒せました。

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