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爆笑、爆発せず――M-1グランプリ2023 私的感想

年末である。年末といえば、M-1である。今年の決勝は、クリスマスイブだった。この日に決勝を執り行うのは17年ぶりとのこと、確かに小さなころはクリスマスとM-1が同じ日だった気がする。自分の中でM-1が特別なのも、そんな楽しい記憶と結び付いているかもしれない。

M-1グランプリ公式サイトから引用

もちろん楽しくない思い出もある。いつだか忘れたが、ケーキに寿司に鶏肉にと爆食いし、生まれて初めて食べ過ぎでトイレにこもったのもクリスマスだった気がする。確か小学生だった。

17年前の優勝といえば、チュートリアル。冷蔵庫とチリンチリンで圧倒的に面白かった覚えがある。さて今年はどこが優勝するのか。運命のファイナリストが発表されたのは、12月7日の木曜日。

その日はあいにく飲み会があり、22時からの発表会見はオンタイムで見られなかった。決してネタバレすまいと渋谷から1時間ほどの帰宅時には、ネットを遮断。もちろん電車のサイネージも見ない。危険なのは、周囲の人のスマホ。うっかり目に入ってしまいそうなことが多々あったが、何とか帰宅した。というかそもそも、みんなそんなにM-1に興味があるとは限らない。

ようやくTVerで、ファイナリスト発表会見を視聴。期待していたマユリカ・くらげ・ヤーレンズを中心に、盛り上がりそうなメンバーでめちゃくちゃワクワクした。のだが、結果から言って今年の決勝はそんなに盛り上がれなかった。

この記事も乗り気じゃないから前置きが長くなった。長くなればなるほど、記事の本質である各組への感想に辿り着く前に離脱する読者はいるだろう。だがべつに読者のためにこの記事を書いているのではない。あくまで来年への備忘録である。とかなんとか言ってるとまた長くなるので、そろそろ始めます。前説は興味なかったら飛ばしてください。誰に向けていっているかはわからないけど。


●前説:3回戦で面白かった組


例年、何とか頑張って3回戦は全て見ているのだが、今年はYouTubeから消えるのがはやかった。はやめに見終えておいて良かった。決勝の感想をくだくだ書く前に、3回戦で良かった組をくだくだ書いておく。のちになって「前から目付けてた」とマウンティングしたいだけ。

・ロージャンハン ボケの方が「仮にね」と前置きした上で、ツッコミから借りた漫画を汚したり、又貸ししたりといった軽めの悪事を頭出ししながら、ツッコミの怒りのラインを見定めていく、というネタ。「間」ってこんなに面白いんだなあとあらためて思った。

・幸のとり 花占いのネタ。掴みから面白くて、そこから二人の独特の雰囲気がずっと面白かった。右側の人が、左の人に好きな人がいるか聞き、その人との相性を花占いしていく。花占いは花弁を1枚ずつちぎりながら「好き」「好きじゃない」と占っていくもので、どこかで「好きじゃない」を引いてしまい展開していくと思いきや、そうならない。中盤までずーっと不穏な感じが漂っていのに、ならない。途中からはさらに「好き」「好きじゃない」の二択ですらなくなって、その展開もよかった。

・マイスイートメモリーズ 歯医者にやばい患者が来るネタ。毎年面白いのに、なぜか3回戦に幽閉されている。

・三遊間 道端にいる、子どもを見守る地域のじいさんばあさんみたいなことをしたい、というネタ。ハイテンポのしゃべくりで声も聞き取りやすくて、ところどころパワーワードも交えつつ安定の面白さ。舞台を広く使った動きもあって進化した感。

ここまで書いて面倒になったので、あとは面白かった組をただ羅列していく。ウエストランド井口に怒られそうだ。

大前町田/盆と正月/ブルーウェーブ/牛ぺぺ/ハスキーポーズ/オーパスツー/ボニーボニー/アオイサカナ /アポロ軍曹/バロン堂/豪快キャプテン/ライムギ/例えば炎/侍スライス/ファンファーレと熱狂/らぶらいken/マーメイド/シカノシンプ/いとしのメアリ/センリーズ/キョンビ/イノシカチョウ/孫ダッシュ/かつおぶし/未来の油田/きっと君はくるさ/ナユタ/ボニータ/神楽/忘れる。/インテイク/軟水/マチルダ/鉄筋くらぶ57/ジグロポッカ/ボブのコーラ/マリーマリー/豆鉄砲/オフローズ/ぴろしき/1000/ザ・パーフェクト

●1組目:令和ロマン


さて、いよいろファイナリスト1組目。新M-1は初出場組がトップを引くというオカルトじみた説があるのだが、今年も説立証。あとリハ1組目がそのまま本番1組目になるというこれまたオカルトじみた説があるのだが、同じく説立証。

ボケのくるまはそういう分析が大好きらしいので、トップバッターとしての準備ができていたかもしれない。でもせり上がりのボケは何か萎えたなあ。20年のマヂラブ野田とか21年の真空川北とかは好きだったんだけど。まああのせり上がりボケでまず、つかんだ感はある。

ネタ自体のつかみ。ケムリをいじる感じ、くるまのしゃべり方が面白い。意味の分からない理論をとうとうと話してくる、というキャラ付けでこの後のネタ本筋に見やすさを与えている。

そこから、ラブコメによくある男女が交差点でぶつかるのはおかしくないか、というテーマで考察していく。適度に動きつつ、視線を集めて飄々と考察を進めるくるま。「全員で考えたくて」としゃがんだあたりで場を掌握した感。ケムリがツッコミの立ち位置なんだけど、みんなはくるまに味方している。

一見するとしゃべくりなんだけど、動きがメインのネタだと思う。基本掛け合いじゃないし。ジャムがビヤッとかすしざんまいとか、なんでこうした動きが小さく、そこまで面白くないくだりを執拗にリフレインするのかと思ったけど、「やっぱ日体大だよな!」へのフリということか。

後半の女将からのラッシュは全くはまらなかったし、最後ふつうに尻すぼみだと思うので審査員の評価があんなに伸びたのは自分は謎に感じた。

●2組目:敗者復活(シシガシラ)


今年から敗者復活が変わった。例年通りならロングコートダディとかが上がってた気がする。自分はエバースがぶっちぎりで、ななまがりとスタミナパンが次点くらい。ななまがりはラストイヤーだしストレート決勝期待したんだけどなあ。

もちろんシシガシラも面白かった。敗者復活はニュアンス系のネタだったけど、決勝はコンプラネタ。やや時期を逃した感。審査員が言っていた通り、掴みはめちゃくちゃ面白かった。その後は別にハゲネタだからダメというわけでもなく、ちょっとストレート過ぎたと思う。展開も読めちゃうし。

脇田さんに目が行きがちだけど、このコンビはやっぱり浜中の方が面白い。よく考えたら明確に見た目がボケなのは脇田さんだけど、浜中が振り回す面白さということで、このテーマならもっと激しいイジりをした方が良いんじゃないかと思った。もっと浜中が途中から異常な理論を展開してほしい。あるいは逆に脇田さんが明確にコンプラ破りのトークを展開していくとか。

ネタのピークっぽい「ハゲちゃうよ!」「……トンチ?」のところ、前者が無風過ぎたのが悲しかった。

●3組目:さや香


去年の免許返納は熱量とか構成とか本当にすごかった分、やっぱり見劣りを感じた。
免許返納は冒頭で石井がしゃべるときに若干不穏な空気があった分、今回はマイクに近づきながらしゃべったことでその真空地帯がなくなってた。

ただホームステイを簡単に飛ぶような人が、そもそもホームステイをなぜ申し込むのか、言葉を勉強してまで・・・という疑問や、最初に「エンゾくん」っていってるのに、実はおっさんというバラシへの違和感があった。新山の演技もあって単調に感じた。

石井側のホームステイを申し込もうとした経緯とか、あるいは諦めた部分をもっと序盤~中盤に持ってきて、それに新山が反論するけど石井の方が正論・・・という展開とかもあったんじゃないか。現状は新山の方がパワーバランスが強すぎる気がする。

それにしても「エグいエグい……エグい!」の間とかライト兄弟のくだりとか、コンビニのくだりとか荷造りのとことか「人間みんな弱いねん!」とか普通にウケそうなところでウケてないのがすごく不思議。

●4組目:カベポスター


おまじないのネタ。最初のくだりが終わったときの浜田の「……せやなあ」が、さや香と同じくあんまりウケてねえなあと感じた。

基本的に掛け合いがなく永見が漫談をしていくのに浜田が分かりやすさを与えていくスタイルなんだけど、それがちょっと単調に見えた。例えばトップバッターの令和ロマンはそこに動きやくるまのキャラが乗っていたんだけど、そういうのがあんまりない。永見の話にもっと明確な笑いどころを作るか浜田側の常識人的なスタンスがを崩さないと、うーんという感じ。

校長とみいちゃんとの関係とゼリーとドロドロという構図自体はすげーと思いました。「どろどろろ」のあとの永見の笑顔もよかった。

あとこの辺でステージ背景の宇宙みたいな装飾が邪魔に思えてきた。そっちに目がとられるのでこういう聞き込むネタは不利では? と思い始める。

●5組目:マユリカ


もともと好きだったけど(謎マウンティング)、夏ごろにアンタウォッチマンで特集してたのを見て、そこからうなげろりんを聴き、さらに応援していたコンビ(同前)。準決はボーダーくらいだったらしいからどうかなと思っていたが、通って良かった。

そしてウケててよかった。令和ロマンと同じく、阪本が走ってくるのとコントインの感じで見方が分かりやすかったんだと思う。最初のコント漫才だし。

同級生大喜利部分がめちゃくちゃ良かったので、不倫以降はハマらなかった。「ズッキンズッキンプッチン不倫」ありきすぎるし。神経質な論点かつ阪本優位で中谷を言い負かす部分があると、中谷の負け顔がもっと生きたように感じる。今は単にリアクション芸みたいな見え方になっているので。

阪本のキャラでノーシンピュア持ってるのもうーん? って感じ。ポップな世界観に対して不倫というワードがミスマッチ感あるし、阪本のニンに合ってないと感じる。スーツ掴むところはM-1対策っぽい見せ場なんだけど、阪本のスーツつかまれ具合がニュアンス過ぎてウケきってないような。スーツに紅のあとがあるとか、逆に中谷も悪さしているみたいなもう一刺しあったらもっとよかった。でもあのオチは外せないしなあ。

まあそれでも何となく会場の雰囲気が変わったような感じだった。平場も良かった。

●6組目:ヤーレンズ


マユリカに続きコント漫才。この組も掴みで見方を提示してくれる。特に初出場組は人柄や見方が分からないので、こういうのが非常に大事だと感じる大会だった。コントは服装とかでどうにでもなるけど、漫才は奇抜な衣装でやることもそうない。いきなり知らんヤツが2人でてきて立ち話をはじめても、すっと入るまでは時間がかかる。

コントインはサンドウィッチマンみたいにもっと明らかな笑いどころにした方が良いんじゃないかと感じた。笑いどころなのかどうなのか一瞬考えてしまう。その分楢原のコント内ボケ1発目でちょっとひやひやした。

出井のツッコミがめちゃくちゃテンポいい。でも全力おてんばおばさんとか出電とか猪木のくだりで過度にノリツッコミする必要はあるのだろうか。リズム作るなら楢原側のボケで調整した方が自分は好みだと思った。

●7組目:真空ジェシカ


コント漫才3連発。マユリカ・ヤーレンズによってあったまったところでめちゃくちゃ期待したけど思ったより得点が伸びなくて残念。

映画館、B画館、Z画館のネタ。
川北のボケ→ガクのツッコミの1サイクルでやっと笑い取ってるイメージだけど、今回は伝わりやすいボケというか、ボケ主導になっていると感じた。その分もっと川北のボケを聞きたいと思ったが、後半は動きのボケで肩透かし。もっと映画の内容とか観劇中のシチュエーションでボケがあったら良かったかもしれない。あるいはZと対比したA画館のボケとか。

●8組目:ダンビラムーチョ


今回の瞬間最大風速を観測。くだらなすぎて面白かった。けど天体観測がピークであとはそこまでという感じ。アイドルとかはもうわかり切っているので、意外な曲とかをいじったらもっと笑ったかもしれない。

このくだらなさが面白いのに、後半はカラオケ大喜利みたいになってあんまり。長すぎるみたいなコメントあったけど、長いから面白い、と自分は感じた。なんならフニャオのボーカルは途中で抜いて乗っかってもよかったかもと感じる。もっとわちゃわちゃ感でめちゃくちゃにしてほしい。そうすることで、「すごい」みたいな感想をなくして純粋に笑えると思う。

●9組目:くらげ


めちゃくちゃ好きなんだけど残念な結果だった。令和ロマン・マユリカ・ヤーレンズじゃないけど、前段があったら良かった。女性の方が知ってることをめちゃくちゃ男くさい渡辺が知っていることに対するフリ。

あるいはひとつのくだりを短縮して、数字みたいな狂い方をもっと展開してほしかった。現状だとただ知ってなさそうなものを渡辺が知ってる、だけの見え方が強すぎて悔しすぎる。くらげはシステムめちゃくちゃ生み出す天才だから、もっとシステムをアピールしてほしい。

と思っていたんだけど、いろいろ反響を見ていたら二人に対して「AIが考えた人間」みたいな極度に無機質な人間像を見いだしている人がいて、そういう楽しみ方もあるのか! と膝を打った。杉はまあ明らかにそんな感じだけど、確かに渡辺も見ようによっては杉の出力に対して無感情にレスしているだけの機械に見えなくもない。

●10組目:モグライダー


空に太陽がある限り。2年前の美川憲一と比較して、仕上がりが薄く感じた。美川憲一は「さそり座の女ですか」と聞きたいことが目的。それだけ。今回のネタは複雑すぎた。

ツッコミ箇所が多すぎる。モグライダーのネタはともしげのアンバランスな出来次第で、それを芝がどう料理するか。美川憲一はイントロ中に芝がツッコミを考える時間があったけど、今回は1フレーズごとにツッコミパートがあるので、負担がでかすぎたのでは。

見ている側も目的がすっと入ってこなくて、悪い意味のごちゃごちゃ感が目立った。噂でめちゃくちゃ面白いと聞いていたし、ここまでの決勝の流れがそんなに盛り上がらなかったので期待していたけど、ちょっと残念だった。

個人的ファーストステージ・トップ3


ここまでで自分の順位はダンビラムーチョ、真空ジェシカ、ヤーレンズ。ダンビラは場にハマってなかったからしょうがないとして、真空かマユリカは残ってほしかったなあ。

さて、ここから最終決戦。

●最終決戦1組目:令和ロマン


動き、大喜利、天丼とまあバランス良くてウケるでしょうという感じ。意外だけど令和ロマンって動きネタのコンビなのか。そこまで詳しくないからわかんないし、今回の大会にアジャストしただけかもしれないけど。

ただ、爆発していた吉本の社員は、シラけた。意味があり過ぎるというか。関西いじりとか食傷だし、吉本もメタすぎるし。トヨタがくるのも受け入れられない。ボケとはそういうものといってしまえばそれまでなんだけど。

単純作業とか昔はよかったとか広がらない拍手のくだりまでは納得できるとして、そこからの展開がパワープレイすぎる。結構はいいんだけど設定とかがばらけていた印象がある。

●最終決戦2組目:ヤーレンズ


麺ジャミンバトン・数奇なスープ。しょっぱいと思ったけど字面にしたら面白いかもしれない。
いろいろ手数で勝負する中で、一番おもしろかったのは割り箸を背中から取り出すボケだったので、やっぱり動きは正義なのかもしれない。

作品としては令和ロマンよりいいと思う。勢いだけじゃなくてしっかり大喜利しているのもすごい。自分的にはヤーレンズ優勝だった。

●最終決戦3組目:さや香


散々噂になっていた「見せ算」。下馬評ではここまでめちゃくちゃなネタだと思わなかったからびっくりした。
この1年、見せ算をやりたいがためにやっていたとか、からあげのネタだと勝負投げすぎとか、新山ってそういう人だったのか。そう考えてみると笑える。

やってることはめちゃくちゃなのに1と1を見せしたときの眼がゼロってところとかの見せ方がうますぎてそれも笑える。あと和差積商に対する「眼」って概念とか大学院のレベルとか、ディテールも面白い。意味不明な結果ではなく、こっちの精密な謎ロジックを突き詰めた方が良かったと思う。

その観点でいうと、導入もふわふわしてた。もっとスパっと行くか、もっとここも精密な新山なりの論理があれば、全然他の2組に勝てたんじゃないか。

とにかくここまでを総合して、分かりやすいネタがウケてた。ニュアンス系とかロジックはハネてなくて残念。そうなると旧M-1末期みたいな傾向と対策の手数勝負になってしまう。そして結果そうなっちゃった。

結び

2021、2022はめちゃくちゃ楽しんだうえで、今年も準々決勝→準決勝→決勝の選出とかはすごいワクワクしていたので、決勝自体はちょっと肩透かしだった。メンツは最高なので出順次第かなあと思っていた。トップの令和ロマン→敗者復活シシガシラの順番は良かったし、そこで若干冷えてもさや香が持ち直してくれるだろうと思ったけど、なんだか最後まで爆発しきらなかった。今回のコンセプトは「爆笑が、爆発する。」だったのに。よくわかんないけどやっぱり演者背景の装飾とか、あと観覧の盛り上がり切らなさが影響した気もする。

何より怖いのが、M-1の存続。今回で新M-1も9回目。旧M-1でいえば、パンクブーブーが優勝した回に当たる。当時も、前年にオードリーではなくノンスタが優勝した辺りで若干冷めて、あんまりハマらなかったパンクブーブーが優勝してもっと冷めていた記憶がある。しかも周知のとおり、松本人志のスキャンダルがあって、なんか来年の10回目で新M-1終わっちゃうんじゃないかと戦々恐々としている。

まだまだ決勝の舞台で見たいコンビはたくさんいる。それに他の賞レースとは違う圧倒的な存在感がM-1にはある。どうにかこうにか続けていってほしい。

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