彼女が僕を抱きしめるとき



あのね
うーんと
なんていうのかな
えーと


彼女は僕を叱る時いつもこうだ

あのね
うーんと
えーと
えーとね

懸命に言葉を選んでいるのだ


そこに確かに存在している怒りというものすべてを隠すために

彼女は懸命に言葉を選んでいる


そんな彼女を僕は愛おしく思うし
そうやって自分の中の何かを削りながらも
僕のことを叱ってくれると
素直に聞きたいと思える


"だって"
とか
"いや"
とか
いろいろ反論はできるけれど

しない


そもそも言い争うことをしたくない


「分かった」


僕が素直にそういうと

彼女はぎゅっと僕を抱きしめた


もともと
彼女は僕を抱きしめながら僕を叱っていたのだけれど

先ほどよりも力強く僕の背中に手を回した


だから僕もぎゅっと力強く彼女を抱きしめ返した

こうすると彼女はいつも幸せそうに笑う

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